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だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
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1月2日の朝風呂

 子供の頃、1月2日の朝は父親に連れられて近所の銭湯に行っていました。毎年の事だったので、そういうもんだと思い込んでいましたが、何故なんでしょう。ネットで検索すると、正月は福を流すので風呂に入らないという習わしがあったようです。だから、正月の次の日の朝に入るようになったのでしょうか? 良くは分かりませんが、正月に嫁さんから、2日の朝に吹田市にある極楽湯に行こうという誘われました。


「何時からやっているの?」


「朝の6時から」


「なら、6時に行こう」


「えっ、そんなに早くから?」


「風呂につかりながら、朝が明けていくのをみたい」


「分かった」


 2日の朝、嫁さんを起こして6時に近所の極楽湯に行きました。久しぶりの極楽湯。ところが、吹田店は今年の3月2日に閉店するとの告知がなされていました。


「えっ! そうなの」


 20年ほど前、スーパー銭湯ブームがありました。僕が住む北摂地域にも次々とスーパー銭湯が誕生します。吹田市の極楽湯もそうしたブームの中で建設された風呂でした。そうしたブームに追いやられたのが街中の銭湯です。僕が住む千里丘地域は、昔は文化住宅や会社の寮が乱立する地域でした。そうした地域事情からか銭湯が多い。22歳の時に僕は摂津市にある会社の寮で生活するようになったのですが、その頃は近所に8軒も銭湯がありました。現在残っているのは、たった1軒だけ。


 20代の頃の僕は毎日のように銭湯に通っていたので、銭湯がとても大好き。昭和を感じさせるあのひなびた風情に、子供の頃の思い出を重ねていました。その所為か、吹田市に出来た極楽湯に対して、どこか敵意のようなものを感じていました。ところが20年が経ち、王者であった極楽湯が閉店。時代を感じました。


 極楽湯の入り口で靴を脱ぎます。靴を入れる下駄箱の扉を開けた時、その扉が上下にガタガタと揺れました。老朽化です。20年という歳月を感じました。ただ、朝の6時だというのに、お客さんは多い。次々とやってきます。まだまだ勢いを感じました。自動販売機で入浴券を買い中に入ります。


 ――なんだか懐かしい。


 それもそのはずで、息子たちがまだ小さかった頃、この極楽湯には度々お世話になりました。最近こそ僕は利用はしていませんが、息子たちは今でも利用しています。息子たちにとっては、この極楽湯こそが子供の頃の思い出の風景なのかもしれません。そんな風に思いながら、脱衣場に向かいました。裸になり、浴場に入ります。掛け湯をした後、真っすぐに露天風呂に向かいました。


 ――ぬるッ!


 個人的には、僕は熱い湯が好きです。好きですが、今回は長湯をしようと考えていたので、考え方を切り替えました。耳までつかりながら、足を伸ばします。まさに独り占め。眼鏡がないので良くは見えませんが、空を見ました。まだ真っ暗。そのまま明るくなるまで岩風呂でつかっていました。


 湯につかりながら、もし僕がこの極楽湯のオーナーだったら、どの様な戦略で建て直したらよいのかを、勝手ながら考えたりしました。若い頃に大阪市内でカフェを営業していた時に感じたのですが、商売の肝はリピーターの獲得だと思います。どんなに宣伝を打ったとしても、顧客満足度が低いサービスは何れ客足が遠のきます。「また来たくなる」その様に顧客に感じてもらえる取り組みを考えないといけません。


 とはいっても、時代の流れには勝てません。スーパー銭湯がブームだった頃は、勝手にお客様がやって来たでしょうが、今はブームという効果が切れた状態です。特別なお風呂体験をしたいのなら、何も吹田市の極楽湯でなくても良いのです。この界隈なら、箕面や有馬に本当の温泉があります。車を走らせれば小一時間で行くことが出来ます。


 温泉銭湯業界に限ったことではないのですが、資本主義という経済社会は儲かる業界は競争が激しくなり直ぐにレッドオーシャン化が進みます。その後、淘汰の時代が始まるのですが、淘汰の時代ではM&Aが進み中小が消えて大資本を持つ企業だけが残ります。この大きな流れというか前提を覆すことは出来ません。出来ませんが、生き残る術が無いわけではありません。それは地域密着です。リピーターの囲い込みです。


 リピーターの囲い込みは、資本的弱者の戦略になります。大手は真似が出来ない。店と顧客が信頼で一対一で繋がる必要があります。ただ、極楽湯クラスの大きさになると、一対一で繋がることは出来ません。この場合、極楽湯は地域コミュニティーと繋がるのが有効かと思います。この説明は難しい。例えば、スマホが電話機という機能よりも音楽や動画といったエンタメが重要視されるように、極楽湯は風呂屋であることに固執しないことが肝要かと。例えば極楽湯には風呂場以外にもスペースがあります。このスペースを地域コミュニティーに貸し出して収益化できる仕組みを確立出来れば……みたいなことを考えていました。まー、僕は部外者なので考えるのは自由かと……。


 折角なので岩風呂だけではなく、色々な風呂サービスを堪能してきました。どれも良かった。寝そべれる風呂では、危うく寝落ちしそうになりました。ジェット風呂も水圧が強くて良かった。マッサージ機能抜群。テレビは全く観たくなかったけれど、寒い朝の露天風呂を隅々まで堪能してきました。なんならこのまま存続して欲しい。その様にも思いました。この極楽湯は息子たちにとっては思い出の風呂になります。風呂の後に、ゲームセンターで遊んだことが懐かしい。大変お世話になりました。そんな気持ちで極楽湯を後にしました。

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