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だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
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蕎麦の事

 ここ数年、お晦日の恒例になっているのですが、年越そばをつゆから用意しました。関西風のつゆは出汁と薄口醤油で仕上げますが、関東風は出汁は一緒ですが醤油は濃口しょうゆを使います。昨年も今回も、蕎麦つゆは関東風にこだわりました。


 関西と関東では、つゆを調理する手順が少し違う。今までの僕の調理方法では、出汁の中に直接、みりんと醤油を投入して味を調整していました。ところが、関東では、出汁と醤油は別々に用意します。また、大きな違いとしてつゆに砂糖を使いました。醤油とみりんと砂糖を加熱したものを「かえし」と言います。関西人は関東のそうしたつゆに対して、「真っ黒い」と言って眉をひそめる方が多い。薄口しょうゆを使った透明なつゆを好みます。ただ、そうした「つゆ」の違いには歴史がありました。


 日本で醤油が誕生したのは安土桃山時代になります。原型は「醤」になります。冷蔵庫が無かった昔、食料を保存する方法として一般的だったのは麹と塩を使い食品を発酵させることでした。代表的なものに大豆を発酵させた味噌がありますが、他にも、野菜、魚、肉も同じように発酵させて保存していました。戦国時代に味噌の生産が増大します。理由は兵站でした。人間にとっての必須栄養素は、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルになります。米を食べることで炭水化物を摂取できますが、残りの栄養素は味噌だけで摂取することが出来ました。つまり、米と味噌があれば人間は生きていける。どちらも保存が出来て運ぶことが出来ました。武田信玄を初め、多くの武将が味噌の生産に力を入れるようになります。この味噌から偶然にも「たまり」が誕生しました。この「たまり」が調味料として使われるようになり、醤油へと発展していくのです。


 時代が前後するのですが、室町時代の都は京都でした。この京都において、出汁が発展します。出汁の二大巨頭といえば昆布と鰹節になります。北海道で取れる昆布が日本海側を船を使って京都に運ばれるようになります。また、紀州で鰹節の原型が誕生して、京都に運ばれるようになりました。庶民の口には入らなかったでしょうが、公家や禅宗のお寺において、昆布と鰹節の合わせ出汁が調理に使われるようになります。関西では、出汁を大根やがんもどきに煮含ませるとき、透明なものが好まれました。出汁と醤油が出会った時も、醤油は出来るだけ薄いものが好まれたのです。そうした関西の調理に対する美意識から、醤油も薄口しょうゆが好まれました。


 江戸時代に入り、関西の醤油が船に乗って江戸に運ばれるようになります。関西からは醤油だけでなく、日本酒や呉服、陶芸品といった様々なものが運ばれました。京都や大阪の商品は品質が高いことから「下りもの」と呼ばれます。反対に、関東で生産されたものは「下らない物」と揶揄されました。


 そのような時代背景の中、下総の銚子、現在の千葉県で「濃口しょうゆ」が爆誕します。関西の醤油に比べるとあまりにも黒すぎる。関西的な美意識からは程遠いものの、この醤油はうま味が強かった。この濃い口しょうゆが江戸の食文化を底上げします。江戸前寿司や鰻の蒲焼は勿論の事、江戸といえば蕎麦。関西とは違う、蕎麦つゆ文化が独自発展していくのです。


 長い前置きになりました。昨晩は、出汁を丁寧にとり、上質な醤油とみりんを使ってかえしを用意します。海老は丁寧に下ごしらえをして、ピーンと真っすぐな海老の天ぷらを用意しました。蕎麦は、十割ではなく小麦粉を三割混ぜた腰のあるものを用意して、家族に食べてもらいました。


 一月前にコロナの影響から味覚障害になっていた僕ですが、八割ほど味覚が戻ってきています。そんな僕の舌ですが、美味しかった。昨今では、インスタントの蕎麦もありますが、丁寧に調理したものは口にした途端に分かります。とても癒されます。体が溶けていくような脱力感に襲われます。


 ――美味い。


 遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。朝一に文章を仕上げて、ホッとしております。何だかお腹が空きました。今から台所に立ち、蕎麦を用意することにします。今年も宜しくです。

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