忘年会
――僕は人見知りなんです。
このように言うと、僕を知っている多くの人が不思議そうな顔をします。回りからは、僕は社交的な人間だと認識されているようです。子供の頃は、一人で買い物に行くことが出来ませんでした。遊びに行くとき、僕から友達を誘うことは、まずありません。いつも誘われる側。大人になっても、基本的にその傾向は変わっていません。そんな僕が、内輪の仲間を呼んで忘年会をしました。この僕が発起人です。これは珍しい。参加者は僕を入れて6人。会場は僕の家で、料理は僕が用意をします。皆さんには、自分が飲むお酒を持ってきて下さいと、お願いしました。
――さて、どのような料理でもてなそうか?
人見知りではありますが、人間嫌いではありません。参加した皆さんが喜ぶ顔を見てみたい。企画は好きなんです。成功をイメージして「あーでもない、こーでもない」と考えている時は、とても楽しい。頭の中は、そのつもりはなくてもずっと考え続けています。エクセルを立ち上げて、企画書を作りました。メニューだけでなく、当日までのタイムテーブルや、必要な食材や道具。それに席の配置まで考えます。話は脱線しますが、僕はスーパーカブに乗って色々なところに野宿旅行に行っています。そうした野宿旅行でも、必ず企画書を作っていました。これは性格ですね。考えている時も楽しいし、旅行中も楽しいし、帰ってからは紀行文を書いています。これも楽しい。僕にとっては、一石三鳥だったりするのです。
一番最初に思いついたメニューは、枝豆でした。小さなコップの底に枝豆を15粒ほど敷き詰めて、塩ゆでした海老を一匹上に載せます。赤と緑のコントラストがとても綺麗。そのコップの中にゼラチン液を注ぎます。液は、枝豆の煮汁と海老の煮汁を混ぜたものに白出汁で味を調えました。スプーンで食べてもらいます。
メインディッシュは、天ぷらにしました。具材は、海老、レンコン、ゴボウ、シイタケまでは直ぐに決まりましたが、魚が決まらない。直ぐにイメージできるのはキスなんですが、近くのお店では売っていません。仕事でお付き合いのある魚屋さんに行き、売り場で考えることにしました。そのお店ならキスを売ってるかもと思ったのですが、ありません。次の候補として、鱧にしようか悩みましたが、それよりも気になる魚売られていました。ヨコワマグロです。
ヨコワマグロは、本マグロの幼魚になります。ネットで調べると、脂が少ないのであっさりとした味わいと紹介されていました。イメージ的には、カツオに近いのかもしれません。そのヨコワマグロなんですが、幼魚とはいえデカい。目がキラキラしていました。売り場の一等地で、トロ箱に入れたまま売られています。
――安いな。
お造りも用意するつもりだったので、即決でヨコワマグロを購入することにしました。そのままでも美味しいお造りになりますが、一面だけ焙ることにします。味にアクセントを付加。また、炊き込みご飯を用意するつもりだったのですが、それをキャンセルしてマグロの漬け丼に変更。漬け汁は、醤油にみりんと酒を混ぜて火にかけます。醤油は美味しい「はざめず」を使います。
さて、天ぷらの具材問題を放置したままでした。色々と悩んだ末にサバフグに決定。フグはテッサや鍋が有名ですが、唐揚げも美味しい。ただ、今回は天ぷらにこだわります。コッテコテのニンニク塩コショウではなく、シンプルに天ぷら。山椒を利かせた藻塩で食べていただきます。フグを三枚に下ろした後の中骨は、すまし汁の出汁として使います。
これだけ用意できれば十分なのですが、焼き物として炭火の焼き鳥も追加することにしました。野宿で使っている卓上七輪の出番です。ネギまと鶏皮を人数分用意することにしました。ついでに、前日からポテサラを用意したので、付き出しに使います。それと、止めの一品として長男が半熟煮卵を用意してくれました。その名も「麻薬たまご」。醬油ベースにニンニクとネギを利かせた液に漬け込んだものです。インパクトのある味わい。
器や食事に関係する道具も凝りました。手び練りの抹茶椀や大皿を幾つも持っているので、それらを総動員。箸入れは折り紙で折りました。お店に来て食事をしているような演出を心がけました。とまー、結構なボリュームの料理を用意することになったので、忘年会当日はドタバタ。でも、皆が喜んでくれたので、それだけで報われる。とても嬉しかった。
このような企画に取り組むとき、僕は一つの作品を生み出すような姿勢で事に当たります。美味しい料理を用意することはアートです。また、忘年会で賑わっている様子もアートです。刹那的で作品として残すことは出来ませんが、相手の心を動かし満足させる行為は総じてアートと呼んでも差し支えないような気がします。忘年会に参加してくれた皆さん、ありがとうございました。良いお年を!!




