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だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
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エントロピー増大の法則と国家

 ――僕は生きていている。


 これは現時点においては確実なことではあるけれど、これから先もそうであるとは限らない。僕の父親と母親は共に68歳で天寿を全うしました。僕は68歳を超えて長生きするかもしれないし、今週末の登山で敢え無く亡くなってしまうかもしれません。どちらにせよ、いつかは死んでしまう。


 仏教的には、万物には固定的な実態というものはないと説いており、そのことを「空」と表現しました。そうした空の世界において僕という個人は、様々な関係性によって一時的に存在しています。様々な関係性というのは、父親と母親が結ばれたから僕が誕生したこともそうだし、会社という組織の中で生かされてもいるし、パートナーである嫁さんの支えがあるから暢気に一人で山登りを楽しむことが出来ています。仮に、父親と母親が結ばれなかったら、会社組織から掘り出されてしまったら、嫁さんと離縁したら、僕という存在は急に不確かなものになってしまいます。仏教的には、一時的に存在しているこの状態のことを「仮」と表現しました。これら「空」と「仮」は、「空仮中の三諦」という考えた方の一部で、あと「中」があるのですが、ここでは端折ります。端的には、空と仮をふまえながら、それらにとらわれない根源的なもの……といった哲学的な話になります。


 物理の有名な法則の一つに、エントロピー増大の法則があります。秩序あるものは、秩序がなくなる方向にしか動かないという大原則のことで、エントロピーとは「乱雑さ」という意味になります。熱いコーヒーが段々と冷めていくことや、コップに入った水を落とすと地面に広がっていくことや、砂浜で盛り上げた砂山が時間と共に崩れていく様子はエントロピー増大の法則に従っていると考えることが出来ます。この法則は様々な事象に当てはめることが出来、人間の生と死すらもエントロピー増大の法則に従っていると考えることが出来ます。


 先ほど「空」の話をしましたが、「空」をエントロピー増大の法則に照らし合わせてみると「乱雑な状態」と見ることが出来ます。対して、「仮」は「秩序がある状態」になります。「空」と「仮」は、双方向に変化を繰り返しており、その変化の流れを仏教的には「成住壊空」と表現しました。字義の通りなのですが、この世に誕生して成長していき、やがて壊れていき空になります。これを延々と繰り返しているというのです。


 ところで、秩序がある「仮」の状態を維持しようとすれば、どうしてもエネルギーが必要になります。人間を含めて動物はそのエネルギーを食事によって賄っているのですが、食事をしていない岩石であっても理屈は同じになります。物理的には、質量があるということ自体がその内にエネルギーを内包していることになるからです。万物において、秩序を保つためにはエネルギーが不可欠なことが分かります。


 平安時代末期に終末思想が広がり、鎌倉時代にその終末観は頂点に達しました。この終末思想は仏教に由来します。お釈迦さんは、正法・像法・末法という時代の変遷を説きました。自分が説いた仏の教えは、最初の千年間は正しく伝えられるであろう。しかし、その後の千年間は仏教の本質が見失われ形式的な「像」だけが残り、それ以後は私の教えは力を失ってしまう。末法は混沌とした争いが絶えない時代に突入するであろう……。まるで、エントロピー増大の法則そのものの展開が語られています。実態がない思想ですらも、この法則から逃れることが出来ないのでしょうか。


 エントロピー増大の法則は、秩序あるものは、秩序がなくなる方向にしか動かないという大原則ですが、これは、「何もしなければ」という条件が付きます。ただの炭素が熱と力によってダイヤモンドに変化するように、エネルギーを与えると秩序ある状態を生み出し維持することが出来ます。


 前回、「国家の成立」について僕なりの見解を述べさせていただきました。聖徳太子は、仏教を根幹にして「冠位十二階」と「十七条憲法」を制定して国家を生み出そうとしました。その行動には、並々ならぬ情熱が注がれたのではないでしょうか。古代史を研究している先生方には、聖徳太子の事績を否定する方がいます。酷いものでは、聖徳太子は古事記・日本書紀編纂の時に創作された人物で、本当は居なかったとの論説を展開する方もいました。しかし、国家というものが、何となく誕生する訳がないし、また合議制で誕生するにはエネルギーが足りないと思うのです。先の衆議院選挙では、裏金問題が焦点になり与党が大幅な議席減に追い込まれ、結果的にどの党も過半数を制することが出来なくなりました。ある意味、エントロピー増大の法則を体現したような選挙だったわけです。これ以後の国会は、どんなに話し合っても決めれない政治が始まるでしょう。


 国家の建設には、圧倒的な熱と情熱をもった強いリーダーの出現は必須だと思います。しかも、まるで熱病が伝染していくように賛同する仲間が次々と誕生していくような、社会的な大きなうねりだったのではないでしょうか。将来的に、僕が描くであろう聖徳太子の物語もそうです。情熱がなければ結晶化は出来ません。まだまだ時間がかかりますけどね。

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