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だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
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聖徳太子と炭素

 嫁さんから紹介されてからポッドキャストを隙間時間に聞くことが多くなったことを、これまでに何度も呟いてきました。本を読んで情報を得る行為は理解度が深まりますが、全容を理解するのに案外と時間がかかります。ポッドキャストの利点は、まとめられた概要を丁寧に解説してくれるのでとても分かりやすい。ただ、イヤホンから流れる解説を一方通行で聞く姿勢は受け身的です。ザックリとした全容を理解する分にはいいのですが、理解があまり深まらない。また、知識も身につかない。それでも、学生時代に歴史に全く関心がなかった僕からすれば、目から鱗の連続でした。


 歴史系の「コテンラジオ」はもちろんのこと、食の歴史が分かる「食べ物ラジオ」も本当に面白い。ただ、知識系の情報を一年以上も延々とインプットしてきたせいか、だんだんとダレてきました。人間の脳は右脳と左脳で役割が違うそうで、左脳は論理的な言語解釈を主に担っています。対して右脳は、抽象的な感情や、空間的、映像的な処理が得意でした。


 ――理屈っぽい世界も好きですが、今は感情に身を任せたい……。


 僕は音楽も大好きです。若い頃は、ロックを始めとして、ジャズ、ポップス、クラシック等を好んで聴いていました。近年では子供からの影響でアニソンまで聴いています。感情に訴えかけるような旋律やリズム、迸るような感情のバイブレーションに浸りたい。この夏は、ポッドキャストから離れて延々と音楽を聴いていました。


 今年の夏から週一で12kmのランニングを行っているのですが、必ずイヤホンを装着して走ります。先日、ランニングに出発する前に何かしらの音楽を聴こうと思い、スマホを手に取りました。ふとポッドキャスト「ただいま発酵中」のことを思い出します。以前に聞いたのは何か月も前のことでした。続きを再生してみると、「酵素」をテーマにしたお話が始まりました。これが非常に面白い。走りながら、頭の中が爆発状態になってしまいました。学生の頃の僕は物理が好きでした。ところが、同じ理系でも化学は全く関心がありません。何が嫌いって、暗記が特に嫌でした。


 ――スイヘイリーベ、ボクノオフネ。


 元素記号を覚えるために呪文を唱えていたくらいしか記憶がありません。化学を勉強する意味というものを、僕は全く分かっていませんでした。


 化学反応とは、物質を構成する原子や分子が結合したり切断されたり、また電子を放出したり受け取ったりする現象になります。そうした変化により、物質の構造が変化して、性質の異なる新たな物質が誕生します。自然界での化学反応は、主に熱によって引き起こされました。熱が加わることで原子や分子が高速で移動するようになり、衝突します。この衝突によって新たな物質が生まれるのですが、そうした熱による化学反応は無機物しか生まれません。例えば、鉛筆の芯は炭素で出来ています。この炭素に、1000度以上の高温下で5万気圧以上の高圧力をかけるとダイヤモンドが生成されます。


 酵素は人間の体の中で、消化や吸収、代謝や排泄を促進する働きを担っています。例えば、人間の唾液にはアミラーゼという消化酵素が含まれていて、デンプンを分解してぶどう糖を生成しています。胃や腸ではもっと多くの酵素が働いて、食べたものを人間が活動していくためのエネルギーに転換していました。この働きは、全て化学反応であり、酵素は化学反応を促進させる触媒になります。酵素による化学反応は、自然界の化学反応のように多くの熱エネルギーは必要としません。それでいて、複雑な構造の物質を生み出すことが可能になります。この酵素による生物由来の化学反応によって生み出されたものが有機化合物でした。宇宙では、酵素による有機化合物は生成されません。つまり、地球という特殊な環境下だからこそ生命は誕生したと考えることが出来るのです。多くの有機化合物がある中で、生物にとって必要な化合物のことをアミノ酸と呼びました。


 アミノ酸はタンパク質の最小単位でして、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄が結合して構成されています。500種以上のアミノ酸が確認されている中、人間に必要な必須アミノ酸は20種類。これらアミノ酸が結合することによってタンパク質が生み出され、私たちの体を構成しています。


 僕の勝手なイメージですが、アミノ酸はレゴブロックの様なものだと感じました。ブロックは様々な形がありますが、それらは形に意味があります。子供の頃は、ブロックを結合していくことでロボットや家を作ったりしました。創造が刺激され、色々なものを作った記憶があります。アミノ酸とは、レゴブロックの1ピースと考えることが出来ます。


 ただ、ロボットを作るにしても、沢山のブロックが必要ですし、様々な種類のブロックを用意する必要がありました。そうしたブロックを大量に生産するためには鋳型が有効です。鋳型にプラスチックを流し込むことで、同じ規格のブロックを大量に生産することが出来ました。この自然界でアミノ酸を生み出している鋳型とは、実は「酵素」だったのです。日本酒やビール、味噌や醤油、ぬか漬けやチーズといった発酵食品が人間の食物として大量に生産できているのは、それら微生物が生み出す酵素のお陰だったのです。


 このような話を聞きながら、アミノ酸を構成する元素のひとつ「炭素」の事がとても気にかかりました。人間の体の成分を見ていくと、6割は水素と酸素が結合した水になります。残りの4割は、筋肉、脂肪、骨ですが、それらを構成する成分の主役は炭素でした。様々な元素がある中で炭素の特徴は、誰とでも仲良くなれる付き合いの良さになります。説明は省きますが、複雑な分子構造を持つ有機化合物を生み出す場合、炭素は骨格として機能し、更には様々な元素と結びつくことが出来ました。現在確認されているだけでも、炭素がほかの元素と結びついて作る化合物の種類は約5,400万種もあるそうです。この誰とでも仲良くなれるという特徴に、僕は魅かれたのです。


 将来的に聖徳太子の物語を描きたいと、僕は宣言しています。ところが、その聖徳太子の人物像を思い描けないでいました。物語を面白くするうえで、キャラクターの個性を考えることはとても重要です。例えば、のび太君は、頼りなくて、泣き虫で、いつもドラえもんに助けてもらってばかりいます。でも、のび太君がドラえもんに泣きついていかなければ、話が始まりません。ドラえもんの数々の道具も活躍の場を失ってしまうのです。また、泣き虫だったのび太君が映画では根性を見せたりするので、そのギャップに感動させられたりしました。僕が描こうとする聖徳太子とはどのような人なんでしょうか。


 山岸涼子による漫画「日出処の天子」では、聖徳太子は従弟である蘇我毛人を愛するがゆえに苦しむ人でした。現代ではジェンダーという認識が広まってきたのでそれほど違和感がないのかもしれませんが、男が男を愛するという行為は昭和においてはタブーでした。タブーなだけに、悲しい恋として描かれていました。でも、僕がイメージする聖徳太子ではありません。


 昨年、アニメガ完結した「進撃の巨人」の主人公は、エレン・イエーガーになります。あの作品の世界観が好きですし、なんなら聖徳太子の物語にあの作品のエッセンスを注入したいとも考えています。ただ、聖徳太子をエレン・イエーガーに置き換えるのは無理があります。聖徳太子は決して「駆逐してやる~」とは叫ばないと思うからです。


 聖徳太子という名称は死後129年後に名付けられた尊称で、古事記では上宮之厩戸豊聡耳命かみつみやのうまやとのとよとみみのみことと表記されていました。この名前を分解して考えてみたいと思います。上宮とは皇太子が居住する場所を表す言葉なので、聖徳太子が皇太子であったことが分かります。


 厩戸とは、馬を飼育する倉のことです。このことから、聖徳太子が馬に深く関係していたと考えています。また聖徳太子の叔父さんは蘇我馬子ですが、彼の名前にも「馬」の名が含まれていました。蘇我馬子が支配していた曾我川流域には馬の墓が見つかっています。このことから蘇我馬子は、馬を管理していたことが伺えます。当時の馬は、現代でいうところの車です。しかもスポーツカーに近い感覚だったのではないでしょうか。日本にはもともと馬はいません。大陸から渡来人によってもたらされました。渡来系の豪族を従えていた蘇我馬子は、そうした馬の管理を掌握しており、聖徳太子もその一端を担っていたのだと考えています。


 最後に、「豊聡耳」の考察になります。聖徳太子のキャラクターを考えるとき、僕はこの名前を一番重要視しています。聖徳太子は十人の話を同時に聞いて全部理解できた……みたいな話があります。そうした逸話は奈良時代に生まれた噂話で、実際の話ではありません。「耳が聡い」というを、「人の話を良く聞いた」と素直に解釈すれば、聖徳太子の人となりが見えてくるような気がするのです。好奇心が旺盛で、人懐っこくて、誰とでも仲良くなれる。馬に乗って駆け出し、知らないことを確かめようとする行動力があり、多くの人と関わった。聖徳太子をハブとして聖徳太子を押し上げる勢力が拡大し、大和王権を治める蘇我馬子ですら無視できない存在に成長した。そうした聖徳太子のイメージと、炭素Cの特徴が僕の中で重なりました。


 今後、僕の聖徳太子に対するイメージはこれで固定されていくと思います。様々なことに首を突っ込んでしまう、お人よしさんです。でも、その人の良さが、不幸を招くこともあります。ただ、それでも聖徳太子には理想を追いかける情熱だけは失ってほしくない。そのような聖徳太子を取り巻く、十人ほどの主人公を設定したい。それぞれの主人公は、それぞれの利害のために聖徳太子と関わります。時に、聖徳太子を利用し、貶めようとし、そこからドラマが生まれます。まだ、漠然としたイメージだけですが、それでも大事な柱が見えたような気がします。

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