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だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
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中村元記念館

 今回のスーパーカブでの旅程は二泊三日になります。大阪から出雲大社までの下道を使った距離は約350kmあり移動だけでほぼ半日を消費してしまいます。往復に半日づつ使うので、出雲での活動時間は二日目の日中しかありません。出発前に出雲を地図で眺めていた時は、


 ――小さい町だな。


 くらいに感じていました。ところが実際にスーパーカブで走ってみると案外と広いことに気が付きます。それもそのはずで西端の出雲大社から、東端の境港まで約60kmもありました。出雲で立ち寄りたい史跡は色々とあったのですが厳選する必要があります。これまでにもご紹介したように、二日目は朝一番に出雲大社に赴き、9時になると島根県立古代出雲歴史博物館で見学をしました。続いて出雲玉作資料館にやってきたわけですが、この時点で13時30分を過ぎています。博物館のような施設の多くは17時に閉館するので、移動時間を差し引くとあと一軒しか訪問できません。その最後の訪問先が「中村元記念館」でした。


 中村元という人物をご存じない方は多いと思います。実のところ僕も詳しくはありません。経歴を簡単にご紹介すると、東京帝国大学を卒業した仏教学者になります。中村元はサンスクリット語とパーリ語に精通しており、現代のように漢文で訳された中国経由の仏典ではなく、初期の仏典を翻訳して日本に紹介してきました。ウィキペディアによれば、サンスクリット語のニルヴァーナ(Nirvāṇa)は、漢訳では「涅槃」と訳されています。この言葉を中村元は「安らぎ」と訳しました。この例からも分かるように、中村元は仏教を小難しく考えるのではなく、誰にでも理解しやすいように平易な言葉で表現することに心を砕きました。


 僕は聖徳太子に関連する書籍を色々と集めているのですが、その一つに中村元著「聖徳太子」があります。定価4700円もするハードカバーの重厚な書籍で、論文を解読していくような難しい内容かと思っていました。ところが読んでみると全く違う。とても優しい語り口で、エッセイを読んでいるような気楽さがありました。それでいて内容は軽くありません。まだ読了は出来ていませんが、すぐにファンになってしまいました。その中村元の出身地が、中海に浮かぶ大根島だったのです。2012年 (平成24年)に、生誕100年を記念して中村元記念館が開設されました。出雲玉作資料館からだと移動に小一時間はかかります。閉館まで、じっくりと中村元を感じてみたい。


 中村元記念館がある大根島は、中海に浮かんでいました。中海は宍道湖と繋がっており斐伊川の本流の一部になります。海水と淡水が入り交じった汽水湖で日本では5番目に大きな湖になります。スーパーカブを走らせていくと中海が見えてきました。湖岸道路から大根島へアクセスする大きな橋が架かっているはずで……。


 ――ん?


 橋がない。いや、あるにはあるんですけど僕が想像するような大きな橋が架かっていない。目の前の湖面には県道338号線が浮かんでおり、その浮かんでいる県道にアクセスするためだけに橋が架かっていました。この県道338号線は水面との高さにさほど違いがなく、大根島に向かって真っすぐ伸びていました。厳密にはこの道路は堤防になるそうです。ちょっと見たことがない風景です。地図を見ていただけでは分からない。また、この時は風が強かった。それでいて交通量が多い。風に揺らされながらスーパーカブを走らせていると、後方から向かってくる乗用車やトラックに次々と追い抜かれました。


 堤防を走りきると、そこは大根島。建物が少ない広々とした島でした。のんびりとした空気を感じます。目的の中村元記念館は、すぐに到着しました。八束公民館に併設された小さな建物になります。駐車場にスーパーカブを停めて、ヘルメットを脱ぎました。暑い日差しはもうコリゴリです。この後は、優雅に2時間ほど見学させてもらうつもりでした。正面に回り込み自動ドアの前に立ちました。


 ――ん?


 ウンともスンとも、反応がない。どういうこと?

 ピョンピョンとジャンプをしてみましたが、自動ドアが開かないのです。視線を横にズラスと次のような表示を見つけました。――お盆のため休館。


 ――オーマイガッ!


 その場で崩れ落ちてしまいそうな脱力感。とても楽しみにしていたのに、よりによって……。

 休館日を調べていなかった僕が悪いんですけど、それでも……。

 未練タラタラな僕でした。

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