野宿飯
最近、キャンプギアのメーカーの景気が悪いといった記事を見かけました。コロナ過は、人との接触を避けたアクテビティとしてキャンプが一時的なブームになりました。アニメ「ゆるキャン△」の人気や、ソロキャンプユーチューバーの影響も大きかったと思います。ところが、初心者キャンパーにとって現実のキャンプは思いの外、大変だったのではないでしょうか。どうしてキャンプブームにブレーキがかかったのか少し考えてみたいと思います。
まず第一に、キャンプ場に人が多すぎる問題があると思います。観光地のホテルであれば、セキュリティーがしっかりとしたプライベート空間を提供してくれます。夜寝る時も、布団に包まれて快適。ところが、キャンプ場はテント泊になります。薄い布一枚の防御壁では隣の話し声や笑い声が筒抜けで、プライベート空間が維持できない。多くの方がキャンプに期待する価値は、生活空間では感じられない大自然との触れ合いだと思います。鳥のさえずりや木立の葉擦れ、満天の空に輝く星々を感じたいのに、聞こえるのはキャンプ客の騒めきばかり。これでは興ざめです。
キャンプ場によっては、テントサイトの区割りを考えて、プレイべーと空間を確保したところもあるでしょうが、そうしたところは総じて使用料金が高い。この料金が高いというのも、キャンプブームを停滞化させた原因の一つでしょう。家族でキャンプ場を使用したら、安いホテル並みの料金を請求される所は沢山あります。キャンプは、テントの設置も食事の段取りも自分でしなければいけません。ところが、ホテルならフルサービスの上、大浴場も使用できたりします。同じ料金なら、ホテルの方が快適なのは間違いありません。
最後に、キャンプギアメーカーと消費者の感覚のズレを指摘したい。キャンプ用品の代表格に、テントやストーブそれにランタンなどがあります。価格はピンキリで、思いのほか高額商品も存在します。もともとキャンプ用品は、登山という専門的分野をサポートする為に誕生しました。過酷な環境下で使用されるので、耐久性や携帯性が求められます。テントの生地であれば、少々の火では燃えることのない特殊生地が使用されたりします。確かに素晴らしい商品ですし、僕も欲しい。しかし、そうした商品をそろえていくと結構な金額になります。
ブームに乗ってキャンプを始めた方のなかには、キャンプそのものの価値よりも、そうした一流のキャンプギアを揃えることが目的になってしまった方が一定数存在したのではないでしょうか。素晴らしいキャンプ用品を揃えてキャンプ場に到着したら、周りの喧騒にイライラした。ストレスが解消されるどころか、キャンプによってストレスを感じてしまう……。ある意味、今までのキャンプブームが異常で、現在は通常に戻り始めていると考えられます。キャンプブームは、まさにブーム。バブルだったんですよ。
キャンプブームをこき下ろしてしまいましたが、キャンプに価値がなくなったわけではありません。システム化された現代社会だからこそ、キャンプをする意味があります。スマホでもパソコンでも、使い続けると段々と動作が重くなりますよね。そうした場合は、リセットもしくは再起動が効果的です。僕にとって、キャンプとは再起動みたいなものです。ただ、通常のキャンプ場ではもう満足ができない。貧乏性な性格からキャンプ場にお金を払いたくないという側面もありますが、最大の目的は一人になりたいのです。一人になって、大自然に溶け込みたい、混ざり合いたい。そんな欲求が、僕にはあるのです。だから、キャンプ場ではなくて野宿が好きなんです。
最近の僕の野宿飯は、いつも決まっていました。鶏のもも肉を出発前に下処理して、現地で炭火で焼く。これが美味しい。下処理は、大蒜と塩コショウ、それにお酒を使っていました。お酒は、ビールとウィスキー。氷点下みたいな寒い環境では、ウィスキーみたいな強いお酒がなぜだか美味い。炎を見つめながら、ストレートでやります。
ただ、今回は山の中ではなく海を見つめながらの野宿になります。また、気温も高い。鶏のもも肉を仕込んでも良かったのですが、冬ではないので保冷する必要があります。スーパーカブの旅ということもあり、荷物は最小限に抑えたい。だから、鶏肉の為に保冷剤や保冷庫を用意するのは嵩張るのです。そこで、食材は現地調達することにしました。丹後半島は、日本海に面しています。
――日本海といえば魚。
魚といっても、生の魚を一本買うわけにはいきません。調理道具がありませんから。そこで美味しそうな干物を買うつもりです。干物を炭で焙る。干物をアテにするのなら、日本酒しかありません。干物と日本酒……想像しただけで涎が出そう。最高の組み合わせです。贅沢をするのなら丹後半島の日本酒を調達したいのですが、それは断念しました。貧乏旅行ということもありますが、呑んだ後の瓶の処理が面倒なのです。日本酒は、酒パック「まる」の小さいサイズを二パック持って行きます。一晩で飲み切り、呑んだ後の紙パックは燃やします。野宿旅行で、ごみの処理は大切です。野宿地で捨てたり公共のゴミ箱に捨てたりするのは絶対にいけません。全て持ち帰りますが、ただ、燃やすことが出来るのなら燃やします。割りばしにしても紙皿にしても、使ったらいつも燃やしています。
メニューの一つとして干物は確定ですが、お刺身も食べたい。現地の魚屋で物色します。丹後半島はカニが有名ですが、さすがに野宿でカニはちょっと難しいでしょう。他には、味噌汁を用意するつもりです。味噌は自宅から持って行き、具材は現地で考えます。味噌汁は懐の広い自由な料理なので、丹後半島ならではの海鮮味噌汁を堪能出来たら良いなと期待しています。
――あっ! そうだ。
安ければ、カニを入れるのもありかもしれません。カニの味噌汁なんて、食べたことがない。候補の一つとして頭の中に入れておきますが、一匹は多すぎるな……。
真っ暗な中、火を見つめながら日本酒を呑みます。ザッパーン、ザッパーンと波の音を聞きながら酔っぱらいます。闇の中に溶けていきます。とても楽しみです。




