野宿の下見
僕が乗る50ccのスーパーカブは、20年来の付き合いになります。走行距離は7万キロを超えていますが、まだまだ現役です。昔は整備士の友達にこのカブのメンテナンスを頼んでいましたが、ここ3年くらいは自分でやるようになりました。流石に20年も乗っていると、何かしらのトラブルは付き物です。この間も、後輪のタイヤがパンクしたのですが、自分で交換しました。他にも、マフラーやブレーキシュー、ライトやオイルなど消耗品も含めて色々と交換しています。自分で整備をするようになると以前よりも愛着が湧くものでして、新しいバイクが欲しいとは全く思いません。死ぬまでこのカブと付き合いたい。そのように思っています。
非力な排気量ですが、僕のスーパーカブは時速60キロを超えて走ることが出来ます。50ccのバイクの制限速度は時速30キロですが、昔はその遅さがまどろっこしく感じていました。ところが、最近はあまり無茶をしません。ゆっくりと走ることを心がけています。その方が、バイクにとっても負担が少ないと思うからです。
この間、ソロキャンプの下見に暗峠に行ってきました。大阪と奈良の間には生駒山脈が横たわっているのですが、その間を繋ぐ国道308号線の峠のことを暗峠といいます。この暗峠の特徴は、何と言ってもその急勾配になります。つづら折りが少なくて、立ち塞がる壁のような坂道が続きます。部分的な斜度は40%を超えていて、日本一の急勾配になります。現在では国道の勾配は12%までと決められているそうですが、これでも国道なんです。
僕のカブは、高速が走りやすいようにスプロケを交換していました。ですから、本来の低速に強いカブではありません。ギアを1速に落としても登るのが辛い。アクセル全開でエンジンは唸り声を上げているのに、ちっとも前に進みません。僕は両足で地面を蹴っていました。ツンと臭いが漂います。なんだか焦げくさい……。
――ヤバい!
スーパーカブに、かなり負担をかけていました。これではカブが壊れてしまいます。ちょっと焦りました。
峠に差し掛かると、目の前が急に開けました。狭い山間に段々畑が広がっています。新緑の頃なら、青い稲穂が見事に揺れていたかもしれません。峠には集落がありました。路面が変わり、バイクがガタガタとぐらつき始めます。集落の道は石畳がまだ残っていました。ちょっと面白い。
峠付近には、民家の間を抜ける細い抜け道があって、そこから山の中の公園に行くことが出来ます。これまた険しい坂道を上ると感じの良い広場がありました。バイクを止めて、辺りを散策します。悪くない。ここなら、気持ちよく野宿が出来そうです。しかし、広場の看板に、火気厳禁の注意書きがありました。
――残念。
素直に従うことにします。夕方に差し掛かっていたので、帰ることにしました。暗峠を下ります。この下りが、また大変だった。崖から落ちていくような斜面です。スーパーカブはドラムブレーキなので、ブレーキをかけ続けるのは危険です。熱を発すると、ブレーキが利かなくなるからです。ギアを1速に落としてエンジンブレーキを掛けるのですが、これまたすごい音。エンジンが悲鳴を上げています。斜面も怖いのですが、スーパーカブが壊れてしまうのはもっと怖いです。慎重に慎重に山を下りました。
結論。スーパーカブでは二度と暗峠を登攀しません。他にも生駒山系を色々と捜索したのですが、納得がいく候補地は見つかりませんでした。現在は方針を変えています。奈良公園の東側の山の中にダムがあります。そのダムの周辺で、野宿の候補地を探そうかと画策しています。日本で野宿をするのは、なかなかに難しい行為です。