創作活動
この秋は、僕にとって重要なイベントが2つあります。一つは、10月にヤマト王権に関するセミナーが京都の長岡京市で行われます。僕にとってドストライクな内容なので、今から楽しみにしています。もう一つは、奈良国立博物館主催の正倉院展です。この僕が正倉院展に関心を示すなんて、一昔前では考えられないことでした。かび臭いガラクタ……といったら言い過ぎですが、それくらいの認識だったのです。ところが、聖徳太子の物語を書こうと決めてからは、当時の世界を知るための重要な資料になりました。
第一線で活躍されている作家さんが、どのような創作活動をされているのかは知りませんが、僕の場合は徹底的に調べないと文章を書くことが出来ません。例えば、初めての作品は「スーパーカブ」を題材にした半自伝的なものでした。その作品を書くために、スーパーカブに乗って山奥に入り込み、わざわざソロキャンプをするのです。実体験があると、筆は走りやすいです。
第二作目は、推理小説を書きました。その小説を書くために、古いサスペンス映画を20本以上は連続で鑑賞しました。映画に関しては、その後も定期的に観るようになります。それに僕は全くの素人なので、小説の書き方的な書籍や文献を次々と読み漁りました。特に、推理小説には様々な種類があり、押さえなければならないポイントがあることを知りました。
第三作目は、キャバレーを舞台としたラブロマンスです。恋愛に縁のなかった僕が、恋愛ものの物語を紡ぐ……。自分で自分にツッコみたくなるシチュエーションだったのですが、ラブロマンスの映画や少女漫画を読み始めます。ただ、そうした恋愛の仕組みを理解するよりも難しかったのが、キャバレーなんです。
――キャバレーってご存じですか?
現代においては、ほぼ絶滅しています。キャバレーなんて行ったことがありません。ネットで調べるのですが資料すら少ないのです。書籍を探して読みました。僕なりにキャバレーという世界をイメージします。でも、それだけではまだ物語は書けません。当時の、芸能とヤクザの黒歴史を知る必要があったのです。
たまたまですが、僕の知り合いに若い頃に吉本新喜劇の団員を経験したことがある方と、山口系暴力団の親分が親戚筋にいる方がいました。当時の世界について根掘り葉掘りとインタビューをします。そんな下調べを繰り返していくと、段々と僕の頭の中に物語の世界が構築されていくのです。
不思議なものでして、ある一定量の情報に達するとその世界が目に見えるような錯覚をおこします。更には、登場人物が勝手に動き出すのです。その段階に達すると、僕の頭が爆発します。物語が溢れ出そうとして、僕の頭の中で暴れるのです。物語を書き起こさなければ、苦しくて仕方がない。延々とパソコンに向かい、吐き出します。その行為が、かなり快感なんです。
聖徳太子の物語がいつ頃書けるのかは、僕にも分かりません。何となくで10年は必要だろうと考えています。現在は、当時の人々が暮らしていた様子を中心にして調べています。食事のことや稲作のこと、土器の製造やたたら技術の事、当時の衣類や祭祀のこと。飛鳥時代に限定するとあまりにも資料が少ないので、縄文時代から現代まで使えそうな資料も合わせて調べています。そうした下準備が終わったら、最後に勉強するのが仏教です。思想面の研究は、もっとも時間が掛かるだろうと覚悟しています。特に、聖徳太子を始めとする登場人物の、精神性に直結する事柄なので手が抜けません。何度も繰り返しますが、古墳時代に形成された思想と、大陸由来の仏教的思想の衝突です。大きなカルチャーショックがあったでしょう。楽しみです。