プロローグ
その男は震えていた
今の季節は冬、寒さで布団の中に引きこもって身を震わせながら眠っている。
しかし無情にも朝はやってくる…そろそろアラームがなる頃だろうと半分眠っている頭で考えていると
「ピピピピピピ」とアラームが鳴り響く
「あーくそ、起きるか」
布団を被ったまま起き上がり時計を見る。時刻は6時半を指している、7時には家を出なければいけない。男は布団を置き服を着替えながら呟く
「なんで今日も真冬の朝7時半に出社しないといけないんだ。こちとら朝の2時に退社したばっかだぞ」
と呟くが現実は変わらない、現実は無情である。支度が終わりスマホの時計を見ると6時50分
「少し早いが行きますかね」と呟き家を出ると、冬それも2月と言う真冬の風が男を襲う
「うっわさみぃ、この寒さは数十分で風邪ひくわ」
足早に駅に向かい会社へと向かう。会社に着き受付を覗くがやはりそこには人がおらず、裏口の非常階段からオフィスへ向かう途中に思わず呟く
「受付の人というかオフィス以外で会社の人間と会ってないぞ?これはおかしい」
とぶつぶつ愚痴を言いながらオフィスに着くとそこには見慣れた顔の人の男性がまるで幽鬼のような表情でパソコンを睨んでいた
「おはようございます。先輩」
と話しかけると目線はそのまま相手もこちらに
「ああおはよう、すまないが後でデータの修正に手伝ってくれないか?」
「いいですよ。コーヒー買ってきたら手伝います。先輩も何か入ります?」
「ありがとう。だったらいつもの甘いコーヒーを頼む」
「了解です」
と告げ廊下にある自販機へと向かいながら呟く
「先輩はアレのせいで帰れてないぽいな。最近娘が生まれたって言ってたのに、早く手伝って帰らせてあげよう」
自販機に着いたので財布からお札にしては硬い千円を取り出そうと札を掴むと
「うん?硬い?」
不思議に思い手元を見ると、これは…
「タロットカード?」
タロットカードは年代ものなのかボロボロで、それを裏返してみるとこの数字と絵しか書いておらず文字は見当たらない、確か…1分ほど考え思いだす、タロットカードの0番目
「確か…愚者のカード?確か愚者は正が自由で逆が愚行だったかな?」
と知識の奥にあった物を思い出して呟き、再び疑問に思う
「なんで財布の中にタロットカードが?」
よく見ようと目の前にもってこようとすると
「うわっ」
突如タロットカードが光の粒子となって消えると手には千円札が
「なんだったんだ?俺が寝ぼけてたのかな?っとまずい長い時間待たせてるかもしれない」
急いで先輩の元に戻ると
「どうした?そんなにドタバタして」
「長い時間待たせてすいません」
「長い時間?まだ買いに行ってから2分経ってないが」
と言われ時計を見ると確かに2分も経ってないがそれはおかしい確かに自販機の前で5分ほどいたはずだが…
「すいません、寝ぼけてたみたいです。あ、コーヒーどうぞ」
「ありがとう、でも寝ぼけたまま仕事してミスでも起こすと大変だから顔でも洗ってこい」
「いえ、もう大丈夫です。コーヒー飲みましたから」
「そうか?まあ大丈夫ならいいが」
「はい大丈夫です。では、手伝いますね」
「助かる」
それからだんだんとオフィスは人で溢れるようになりだんだんと火が落ちていく時刻は17時20分
「いやーやっと終わった」
「そうですねー疲れました〜先輩お疲れ様です。」
と言い先輩の顔を見ると出社した時に見た幽鬼のような表情から30代前半の眩しい笑顔で
「お前のおかげでだいぶ捗った、手伝ってくれてありがとな!また飲みに行こう」
「はいその時は…」
「おう!もちろんおごりだ」
「ありがとうございます!」
「何いいってことよ、俺は部長に言って帰らせてもらうからお前も後頑張れよ」
「はい」
先輩はそのまま部長室に行き退勤して行ったが自分の仕事はまだあるスケジュール表を見て今夜も帰るのが遅そくなりそうだなと思った
時刻は22時55分
もうとっくに自分の分は終わってるはずなのに後輩達の分のトラブルによる残業がようやくひと段落ついて休憩しているところだ。オフィスを見渡すと二十人以上はいたはずが自身含めて3人しかいない。すると人影が近づいてきて…
「「すみませんでした!先輩!私達のせいでこんな遅くまで!」」
と大学出たばかりの女性新入社員2人が頭を下げにやってきたのだ。確かにトラブルは後輩達が原因だと言われたらそうだが、責任は彼女達にはないむしろ自分の監督不行届がいけなかった。だからこそ
「確かに君たちのトラブルが原因かもしれないが、俺の責任でもあるから終電なくなる前に帰りな」
「でも!それだと先輩が…」
「大丈夫!俺は男だけど君たちは女性だからね。電車がなくなったら歩きだろう?」
「それはそうですけど…」
「じゃあ早く帰りな〜ほら終電逃すよ」
「「分かりました…先輩有難うございます。また明日よろしくお願いします」」」
「おう!じゃまた明日〜」
少しドタバタしながら帰っていくのを横目に仕事へと取り掛かる
時刻は深夜1時半
「さすがに眠い」
と呟きオフィスの鍵を閉め受付に向かうが多分誰もいないだろう
「喉が渇いたな」
そう思い朝の自販機に行き財布を出して飲み物を買おうとして思い出す
「今朝のタロットカードはなんだったんだ?」
恐る恐る財布を覗き込むがタロットカードなどない。やはりアレは寝ぼけていたのだろう。そう思い
「今は麦茶の気分だな〜」
と呟いて自販機のボタンを押すと意識は飛んだ