07.最初の関門
「エドガー、魔力を感じるコツってあるのか?」
ジークは授業で魔力を一回だけ感じ取って以降、全く感じ取れないので、魔導科であるエドガーに助言を求めた。
「僕の時はじいちゃんがね、魔力を僕に流してくれたんだ。そしたら魔力の感じがつかめるようになって、自分でも感じれるようになったんだ」
「俺に魔力を流すことはできるのか?」
「ごめん…僕じゃ無理だ。人に魔力を流すには、その人に合った魔力に変換しなければならないんだ。僕は魔力変換ができないんだよ」
「そっか…参考になった。ありがとう」
魔力変換ができる魔導士は少ない。魔力変換ができるのは、回復系の魔法を使える人、もしくは医療魔法を使える人くらいだ。ジークの知り合いに該当者はいない。
―いや…待てよ。一人いるな―
ジークは思い当たる人に望みをかけて、次の日を待った。
次の日、ジークは昼に食堂を訪れた。
「おっ、いたいた。エレナ…少しいい?」
エレナが女子三人組で昼食をとっていた。
「あれ? エレナって彼氏いたっけ?」
「違うよ! 同郷の知り合いだよ。今年入ってきたんだよ。ね、ジーク?」
エレナは友達からの言葉にびくっと驚き、ジークのほうに振ってきた。
「初めまして、ジークフリート・エーベルヴァインです」
「私はハンナ、こっちはニコルね」
「初めまして」
ニコルは恥ずかしそうに挨拶をする。
「エレナが最近嬉しそうにしてたのって…」
「何のことかな?」
エレナが焦るようにハンナを抑え込み、ジークに聞いた。
「ジーク、用事あったんでしょ、何?」
「頼みたいことがあって…今晩少し時間くれないかな?」
「何? デートのお誘い?」
「あんたは黙っててよ!」
エレナはハンナの口を押えた。
「わかった。広場に行くから待ってなさいよ」
「ありがとう。じゃ後で」
その一言を残してジークは立ち去った。
夜になってジークは広場へ行く。
すでにエレナはいた。
「ごめん。遅くなった」
「待ってなさいって言ったじゃない。まぁいいや。それより用事は何?」
「エレナって回復魔法使えるよな?」
「使えるけど…」
ジークの思った通りだった。よく遊んでいたころ、エレナは九英雄の聖女様になりたいと言っていた。もしかしたらと思っていたのが当たった。
「よかった。なら魔力変換はできるだろ? 俺に魔力を流してくれないかな?」
「なんで?」
ジークはエドガーから聞いたことを話す。
エレナは少し考えた後、魔性の笑みをこぼす。
「対価は?」
「ない」
「それじゃやる気が出ないじゃないの! おいしいケーキ屋さんがあるの。身体強化ができるようになったら、連れていきない」
「金ないけど」
「一緒に行こうって意味よ。お金がないのは知ってるよ。事情は誰よりも知ってるから…」
これは何としても習得しなければいけない理由ができた。
「目を閉じて、集中して」
そう言うと、エレナはジークの背中に両手を当てる。
ジークはまたしても、温かい何かを感じた。
「ジークは火属性の適性があるかもね」
人は魔力を感じるとき、火属性なら温かく、水属性なら冷たく感じる。
「温かい何かを感じ取れない?」
「あぁ、温かい何かが流れてきた」
「それが魔力だよ」
魔力の感覚を掴むまで、エレナはしばらくジークに魔力を流し続けてくれた。
「今度は一人でやってみな」
エレナが魔力を流すのをやめると、魔力を感じなくなった。
ジークは再び目を閉じ集中する。すると、体内に温かいものを感じた。
「やった! 一人でも感じることができた」
「おめでとう。でも魔力の活性化のほうが難しいらしいよ。ハンナが言ってた」
「マジかよ!」
エレナ曰く、手伝えるのはここまでらしい。魔力の活性化は自分で練習するしかない。
初日に魔力を感じれるようになったのは収穫だった。魔力の活性化のほうが時間がかかるなら、なおさらだ。
早めに身体強化ができるようにならなければ、次のことができない。
ジークはエレナにお礼を言い、寮まで送った。
その後、少しだけ自主練をしようと広場に戻った時だった。
ガサガサと音がして、何かが茂みから飛び出した。