05.模擬戦
入学式が終わると、科ごとに教室へと移った。
総合学院には騎士科、魔導科、医学科、薬学科、普通科がある。
ジークの入った騎士科は、人数が一番多い。騎士科の学生が最初にやることは模擬戦だ。今の自分がどれほどの実力なのかを、見ることができる。
教室で諸注意を受け、闘技場へ移動した。
最初の戦いは、首席であるノーランだった。首席の戦いに全員が注目する。
教官の始めの合図で、相手が一気に間合いを詰める。しかしノーランは一歩も動かなかった。
皆が相手の勝利を確信したそのときだった。
一筋の光とキイィーンという甲高い音が闘技場に響きわたる。光は眩しいし、音は耳に響くしで、闘技場にいた全員が目を閉じ耳を塞ぐ。音はしばらく鳴りやまなかった。
「さっきのはなんだ!」
「何が起こった?」
観客席がざわざわし始め、ジークは目を開ける。戦いは決着がついていた。ノーランは立っており、相手の学生は気絶している。
予定外の出来事で模擬戦は一時中断された。今まで、気絶する学生は出たことがないらしい。相手の学生も次席入学者だったので、ノーランの飛びぬけた強さに、周りの学生は恐怖した。無理もない。一撃で勝負は決したのだから。
観覧席に戻ってきたノーランにジークは話しかける。
「ノーラン、お前すげぇな。剣を弾き飛ばすなんて」
「ただの剣技だ。練習すれば誰にでもできる」
ノーランはそう言うが、相当な練習量が手のひらからうかがえる。
「よっしゃ、次は俺の番だ!」
気合を入れて舞台に降りる。ジークの相手はジョルディ・ランダルセン。
「両者見合って…始め!」
ジークは開始直後、勢いよく斬りかかる。しかしジョルディは微動だにせず攻撃を受け流した。体勢を立て直し、ジークはもう一度斬りかかるが、結果は変わらない。
「お前、強いな」
「冗談。お前が弱すぎる。まるで素人の剣だ」
ジークは頭にきて連続攻撃を仕掛ける。だが、ジョルディは涼しい顔で攻撃をさばいた。
「こんなもんか? 次はこっちから仕掛けるぞ」
ジョルディの攻撃はどれも鋭く、ジークは防戦一方になる。ジークからしてみれば、ジョルディの攻撃をさばけていることが奇跡だった。
「余裕がなくなったな。そのまま斬られろ」
「はっ! この程度で斬られるかよ!」
ジークは強がったが、ついに脇腹に一撃をもらう。
「ぐふぉっ…きついの…もらっちまった」
「これ以上のケガはこの場ではさせたくない。降参しろ」
この模擬戦のルールは殺さないことと、大けがをさせないこと。勝敗は、どちらかが降参をするか、審判が危ないと判断した場合に決まる。
「一撃を与えるまでは…降参できねぇ」
「ならば容赦はしないぞ」
ジークは考える。どうすれば攻撃を当てられるか。
男ならば、誰しも勝負には負けたくないと思うのは当然だ。しかしジョルディは、ジークより現段階では数倍強い。普通に戦っていては絶対に負ける。
―せめて一撃だけでも当てたい―
ジークはそう思った。ジョルディよりも早く動けなければ攻撃は当たらない。
「行くぞ」
ジョルディが言葉とともに斬りかかってくる。ジークは手負いの状態でさばくことができない。攻撃が二発、三発と当たる。
「これで終わりだ!」
ジョルディが大きく振りかぶり、上段からの攻撃を仕掛ける。
ジークはニヤッと笑みをこぼした。
―この瞬間を待ってた!―
ジークはジョルディの攻撃をさばききれないことは、わかっていたので最後の大振りの攻撃を待っていたのだ。どんな剣術の達人でも、動作の途中で予期せぬ攻撃に気付いても、さばくのは至難の業。しかもジョルディは大振りの攻撃を放とうとしている。勢いのついた動作は途中で変更ができない。
「くらえぇぇ!」
ジークは、ジョルディの脇腹めがけ攻撃を放った。
しかし先に攻撃を受けたのはジークだった。
「最後の攻撃、見事だった」
ジョルディのその言葉を聞き、ジークの意識は飛んだ。
ジークが目覚めたのは、すでに日が落ちた後だった。医務室のベッドの上らしい。隣にはエドガーがいた。
「ジーク、心配したよ。騎士科で気絶者が二人も出て、一人はジークだっていうから」
「いやぁ、模擬戦で強い相手に当たっちまってよ」
「相手はどんな人だった?」
「ジョルディって言ってたな」
「ジョルディってジョルディ・ランダルセンかい?」
エドガーはジョルディのことを知っているようだった。
「知ってんのか?」
「ジョルディ・ランダルセンと言えば剣術の天才だよ」
ジョルディは幼いころから剣術を習っており、王都で行われる、剣術大会子供の部で圧倒的な強さを見せつけ優勝したこともある。将来を期待されいる一人らしい。
「有名だけど知らなかったの?」
「エールンは田舎だからな。そんな情報は入ってこない」
勝負に負け悔しかったが、そんな相手に一撃を入れられそうになったのは、これまでの努力の成果かもしれない。
ハンターになるため、今までは一人でしかトレーニングができなかった。これからは強い仲間と競い合いながら、成長ができる。
そんなことを思いながら、学院生活初日は幕を閉じた。