04.再会
ジークとエドガーは、列に並んでいた。
「寮に入る奴はこんなにいるのか?」
「総合学院は全寮制だからね」
昨晩、ジークたちは王都の宿に泊まり、朝早く寮の手続きに来た。しかし考えることは皆同じで、寮の前は手続きの長蛇の列ができていた。
「こいつらみんな同学年かぁ。すげぇ」
筋骨隆々の大男、サラサラヘアーのエルフ、あっちにはうさ耳もいる。ジークにとってはすべてが新しく、ワクワクしていた。
「ねぇ、ジーク。さっきから女子寮の受付の人が、こっちを見て何か喋ってるんだけど、知り合い?」
ジークは受付のほうを見る。心当たりはなかった。
「わかんねぇな。人違いじゃね」
「そっかぁ」
そうこうしているうちに、ジークたちの番が来る。
「名前おねがいします」
「ジークフリート・エーベルヴァインです」
「エーベルヴァイン君は…三一五号室です」
「エドガー・アンブローズです」
「アンブローズ君は…三一四号室です。前の彼の隣の部屋ですね」
偶然だった。数日前出会い仲良くなった友が、まさか隣同士だとは。
ジークは部屋に着くなり驚いた。六畳はあるだろうか。孤児院の部屋と比べると広く、荷物を床においても動線が塞がらない。ベッドもしっかりとクッションが入っており、寝心地がいい。
―朝起きられなくなるかも―
そんなことを思いながら、うとうととしてしまう。
「ジーク、起きて」
エドガーの声でジークが目覚めたのは日も沈んだ頃だった。
「入寮式が始まるよ」
どうやら寝心地のいいベッドのせいで寝てしまっていたようだ。
エドガーに促されるままついて行くと、ラウンジには人が集まっている。
入寮式が始まると、寮の説明が始まった。注意事項などの説明の後、人物紹介があった。
「私は寮長の騎士科三年、ヤン・シューマンです。わからないことがあれば気軽に相談してください」
「同じく、騎士科三年、副寮長のライアン・アベだ。寮長同様、わからないことがあるときは頼ってくれ」
優しそうな寮長と、怖そうな副寮長の紹介が終わると解散となった。
ラウンジは交流会となり、各自の自己紹介が始まる。魔導船の活躍を知っている者がおり、エドガーの周りには人が集まってくる。エドガーはジークに助けてくれという視線を送るが、ジークは騎士科の学生がいなそうだったので、エドガーを置いて騎士科の学生を探し始めた。
しばらくきょろきょろ辺りを見回していると、見覚えのある人物を見つける。魔導船にいた少年だ。すかさず声をかけた。
「ちょっといいか? お前もここの学生だったんだな。俺はジークフリート・エーベルヴァイン。騎士科だ。お前は?」
「ノーラン・ウィンコット。同じく騎士科だ」
「エドガーの話だと魔法も使えるみたいだけど、魔導科ではないのか?」
ノーランは少し考えこむ。
「悪い。答えたくないならこの話は忘れよう」
「…魔導士では魔力切れになると無防備だからな。いざというとき役立つのは己の体だ」
言葉には気持ちがこもっていた。そのままノーランは立ち去る。ジークは怒らせてしまったのかと思い、後を追い外に出た。
すぐに追いかけてきたはずだが、ノーランの姿はどこにもなかった。しばらく辺りを探していると、後ろから声をかけられる。
「そこの男子学生!」
暗くて姿がしっかり見えなかったが、女性の声だった。
近寄ってきた女性は、朝、女子寮の受付をしていた人だ。
「何か御用ですか?」
「朝…なんで無視したの?」
ジークは困惑した表情を浮かべ聞き返す。
「あれは俺に対してだったのですか…」
「姉さん悲しいなぁ」
姉さんという返しに驚く。ジークの知り合いで、ジークの前だけ自分のことを姉さんと呼ぶ人が、一人だけいる。でもあの人は昔は髪が短く、雰囲気も違うような気がした。
ジークの表情を見て女性は微笑む。
「気付いた?」
「エレナか?」
「ふぅ、やっと気づいたか。遅い!」
「雰囲気が違くてわかんなかったんだよ」
エレナは、七年前まではよく孤児院に顔を出し、遊んでいた。親の都合で王都に移ってからは、会ったことがなかった。
「元気にしてた? 本当に学院に入学したんだね」
「あぁ、ハンターになるためにな」
王都に来て知り合いに会えないと思っていたが、思わぬ形で同郷の知り合いにあった。
お互いの知らない七年間を話し合い、話が盛り上がったところで、エレナは誰かに呼ばれる。
「ごめん、呼ばれちゃったからそろそろ行くね。また今度」
そう言ってエレナは、呼ばれた方向へ走って行った。
寮の中に戻ると、ラウンジにエドガーが座っている。
「お帰りジーク。遅かったね。魔導船にいた子が見えたけど」
「あぁ、追いかけたんだけど見つかんなかった。その代わり昔の知り合いに会った」
すでに交流会は終わっていて、片付けも済んだ後だった。
二人は話しながら部屋に戻る。入学式まであと四日、その間、自主トレをする約束をしてそれぞれの部屋に戻る。
ジークはベッドに横になり、これからの学院生活にワクワクしながら目を閉じた。