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第71話 緊急移動!

 私は救護班のサブリナ様たちと合流すると、急いでムーアの中の荷物を荷馬車に積み込んだ。この不思議なムーアのキャンプ地をこんな風に急いで発つことになるなんて思いもしなかった。名残惜しいけれど、いまは感傷に浸っている場合じゃない。


 荷物をすべて積み終えると、私はサブリナ様に断って、ゲルハルト団長のところへ向かった。この移動中に今晩起こったこと、そしていままで私がフランツとクロードに協力してもらって調べてきたことを団長に伝える約束になっていたからだ。


「お、カエデ、来たな。もう準備はできたのか?」


「はいっ」


「よし。じゃあ、そこの荷馬車に乗ってくれ。馬の上じゃ話しにくいからな」


 指示された荷馬車に乗り込む。荷台の前半分は木箱などの荷物が乗っていたけれど後ろ半分は空いていた。後方の空いているところに座ると、すぐに団長もひょいっと乗ってくる。そして彼は胸から下げた笛をピーっと鳴らした。


「じゃあ行くぞ! 用意はいいか?」


 団長の掛け声に合わせて、馬や荷馬車に乗り込んだ団員さんたちは「おー」と一斉に声を返す。それが出発の合図。すぐに私たちの乗る荷馬車もガタンと動き始めた。


 この荷馬車の後には団員さんたちの馬や他の荷馬車たちもついてくる。後方の少し離れたところで隊列を護衛するように馬に乗るフランツとクロードが見えた。そしてさらに後方にレインが御者をする救護班の荷馬車も見える。


 ナッシュ副団長とオットーさんの姿はここからは見えないけど、出発する前に別の荷馬車にほかの団員さんたちと一緒に乗せられているのを見かけた。自分の馬と引き離されたのは、逃亡しようとするのを避けるためなのかもしれない。


 西方騎士団の列は、ムーアの森を走り抜ける。

 急いでいるからか、いつもの移動の時よりも加速が速い。その分、荷台はガタガタと揺れるので、私は荷台の端をつかんで身体を安定させた。その揺れにも慣れてきたころ、「よいしょ」と荷台の向かい側に団長が腰を下した。彼は荷台の縁に身体を預けると早速話を振ってくる。


「さてと。昨晩あったことを話して聞かせてもらえるか?」


 彼の方に向いて座りなおすと、私は大きくうなずいた。

 そして、団長に洗いざらいを話す。金庫番補佐を任されてから、ナッシュ副団長が記帳していた西方騎士団の帳簿をくまなく調べてみたこと。その結果、いくつも実態のない売買を見つけたこと。ほかの団員さんたちから裏付けを取ってみてもどうしても使い道の判明しない金銭の行方(ゆくえ)が気になった私は、フランツやクロードとともにナッシュ副団長の動向を探っていたこと。

 そして昨日、証拠現場を押さえたこと。


 団長は顎に手をあてたまま、ときおり相槌を打ちながら私の話にじっと耳を傾けている。

 私が伝えたかったこと全てを言い終わったあとも、団長はしばらく考え込んでいる様子だった。何を考えているのか、予想はできてもすべてはわからない。


 副団長の処罰をどうするかということや、彼の抜けた穴をどうするのか、同じことが起こらないようにするにはどうするか。そんなことを考えているのかもしれないし、もしかすると私が考え付くよりももっと多くの問題が彼の目前には(あら)わになっているのかもしれない。


 私も黙ってそのまま待っていると、団長の視線がようやくこちらに戻ってくる。彼は口端をあげると口元が笑みの形をつくった。


「ありがとう。よくそれだけ、調べ上げてくれた。本当に礼を言うよ」


 そう言いつつも、団長の目は笑ってはいなかった。

 真実がわかったからといって、それで何もかも万事解決というわけではない。むしろ大変なのはこれからだろう。


「あの……ナッシュ副団長は、どうなってしまうんですか?」


 ずっと気になっていた疑問を団長にぶつけてみる。団長は、「そうだな」と小さく答えたあと、列の後方に目をやった。たぶん、ここからは姿は見えないけれど、ナッシュ副団長のいる方を見ているんだろう。


「アイツからも、話を聞いてみるしかないだろうな。あと、アイツの同郷っていうオットーとかいう奴からもな。裏付けも取らにゃならんが、最終的な判断は王都に帰ってからになるだろう。ただ、いままでどおりに金庫番の仕事を任せるわけにもいかない。どうしたものかと悩むが……とりあえず、今は目の前の重大問題を最優先にするしかないだろうな」


「『プランタ・タルタリカ・バロメッツ』……ですね」


「そうだ。まずは、その被害を最小限に食い止めるのが最優先だ。あいつらの故郷も近いというし。今度こそ守ってやりたいからな」


 そう言って団長は、くしゃっと笑った。

 そうだよね。いま最優先するべきは人命救助。西方騎士団の列は、確実にその『プランタ・タルタリカ・バロメッツ』に近づいている。そこにどんな光景が広がっているのか、想像するだけで湧き上がる不安に胸が押しつぶされそうだった。

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