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第44話 笑顔ひろがる

 たくさんの積み荷を積んだ馬車達とともに戻った私たちを、騎士団のみんなが大歓迎してくれた。

 キャンプ地に帰ってくるとすぐに積み荷をほどいて一人一人に充分なポーションが渡され、重傷者の元へはヒーラーさんたちが治癒魔法を施してまわる。


 そして、アンデッド・ドラゴンに汚染された場所から少し離れた場所へと新たなキャンプ地を移し、そこで温かなシチューと毛布が配られた。

 教会から来たヒーラーさんたちは、これだけの惨状と大量の重傷人にもかかわらず一人の死者もださなかったサブリナ様とレインの働きにとても驚いていたっけ。


 アンデッド・ドラゴンからの感染のおそれがある団員たちは、ヒーラーさんたちから浄化の魔法をかけられたあと、念のため、症状が発現する時期を過ぎるまで治癒ポーションを飲み続けるように言われたみたい。


 テオもヒーラーさん数人から同時に大量の魔力をいっきに注ぎ込まれて、ようやく目を覚ました。こちらも、そのあと動けるようになるまで飲むようにと、何本も回復ポーションが渡されていた。


 私も料理を配ったりポーションを運ぶお手伝いをしたりしていた。

 それが一通り行き渡ったら、今度はみんなが休むためのテントを張らなきゃ。温かい季節とはいえ、夜通し外にいた団員さん達の身体は冷え切っていた。

 だから、ほかの人たちと一緒にテントを張る作業をしていたら、誰かに肩をトントンと叩かれる。振り向くと、そばに副団長がきていた。


「少し休んだほうがいい。君も夜通し動き回って疲れているだろう。シチューはちゃんと食べたかい?」


 副団長が私のことを気遣ってくれているのはわかる。


「はい。でも、今はなんだか動いていたくて」


 たぶん、いろいろなことがあったせいでまだ身体が休める状態にないんだと思う。こうやってお手伝いをしているほうが、気が楽だった。あとで、どっと疲れがきそうだけど、いまはこうやって少しでもみんなの手伝いをしていたかったんだ。

 すると副団長は「そうか」と言った後、


「じゃあ、あちらに行くといい。もう、全員の浄化も終わったって報告を受けてる。さっき、隔離も解けたよ」


 副団長は、感染したかもしれない人たちが集められていた一角を指さした。

 じゃあ、もう……?

 それを聞くと、居てもたってもいられなかった。


「副団長、どうしようこのテント。今、私が離れたら崩れちゃう」


 あたふたしていると、副団長が笑いながら代わってくれた。


「代わりにやっておくから、いっておいで」


「はいっ、ありがとうございますっ」


 張りかけだったテントをそのまま副団長に渡して、私はワンピースの裾をまくるとその一角へと駆けていく。

 大股で走っていくと、すぐに団員さんたちが集まっているのが見えた。

 その中に、よく知っている金髪の青年を見つける。彼はこちらに背を向けてポーションを飲んでいるようだった。


「フランツ!」


 足を止めてそう叫ぶと、彼はこちらを振り向いた。そして、ポーションを持ったまま、こっちを見つめて嬉しそうな、それでいて泣きそうにも見える微笑みを浮かべる。


「カエデ!」


 もう、離れていなければならない距離はなかった。彼の元に走りよると、その身体に飛びつくように抱き着く。


「……良かった。良かった……無事で、良かった」


 口からは同じ言葉ばかりでてくる。もっとたくさん話したかったことはあるはずなのに。呼吸するのももどかしくなるほど、言葉があふれてしまって上手くしゃべれない。

 それでも、彼は私の背中に手をまわして、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 彼に包まれて彼の温かさを全身に感じられると、ようやくじんわりと心の奥が落ち着いてくる。


「カエデが無事で良かった。ずっと、会いたかった」


 そういう彼の言葉は少し震えていた。小さくうなずいて返すと、私も彼に言う。


「うん。私も会いたかった。ずっと、フランツのことを考えてたの」


 彼がここにいてくれることが、生きていてくれることが何より嬉しい。

 もう二度と遠くに行ってしまったりしないように、しがみつくように彼を抱きしめた。


「ありがとう、色々と。大変だったんじゃないか?」


 そう言われて顔を上げると、ゆるゆると首を横に振る。


「ううん。ただもう無我夢中で」


 そう言って笑おうとしたけれど、嬉しいはずなのに、なんでだろう。やっとそばで見ることのできた彼の顔が滲んでしまう。

 そのとき、フランツがハタとかたまった。ん? どうしたの? と、彼の視線の先を追って、私もかたまる。


 団員の皆さんが、唖然とした様子でこちらを見ていた。ゲルハルト団長までいる。

 そうだ、忘れてた! ここには他のみんなもいたんじゃない!

 なに、二人の世界みたいになっちゃってたんだろう!

 急に恥ずかしくなって、私はフランツから離れる。どうしよう、顔が熱い。

 すると、団長がポーション片手にいたずらっ子のような顔で言う。


「俺たちのことは気にしなくていい。勝手に見てるだけだからさ」


「見ないでくださいよっ」


 すかさずフランツが顔を赤くして団長にそう言うと、団長は笑い出した。


「だって、目の前でやられたら見ちゃうだろ、やっぱり」


 そんなやり取りを聞いて、他の団員さんたちからも笑い声が湧き上がる。

 フランツはバツが悪そうに苦笑して、私はそんな団長とフランツのやりとりがおかしくて、つい笑い出してしまった。

 笑顔の波が広がっていく。


 良かった。みんなで笑える。また、前みたいにみんなで笑える。そのことが、なんだか無性に嬉しくてたまらなかった。

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