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第106話 いいこと思いついた!

 そして始まった交流試合。


 試合の形式は、一対一の個人戦。参ったと言った方が負けだけど、規定時間を過ぎても決着が着かないときは審判による判定で決まるらしい。


 基本的に似たような戦力、戦闘タイプの人同士が当たるようにセッティングされているみたい。

 つまり、剣を使う人は剣を使う人同士、魔法を使う人は魔法を使う人同士で戦うことになる。


 その方が、双方の実力がわかりやすいからなんだって。


 そして、一日目は騎士団の中でも職位の低い人同士の対戦からはじまって、段々と職位の高い人同士の対戦に移り、二日目の最後は団長戦となる。というわけで、フランツとクロードは二日目なんだよね。


 その順番表を見ただけで、フランツとクロードが騎士団の中でも実力のある人たちなんだなってわかる。特にフランツの順番なんて、職位はまだそんなに高いわけじゃないんだけど、攻撃力が高いからって団長戦の一つ前だもんね。


 本人が自分の実力にあまり興味がなさそうだから意識することは少ないけど、強者(つわもの)揃いの西方騎士団の中でも、実力で言えばフランツはNo.2だと誰もが認めるところなんだろう。


 当のフランツは先ほど会場の見回りから帰ってきて今は隣で観戦している。でも、それと入れ替わりに今度はクロードが練習場の水まきに行ってしまった。騎士さんたちは試合中もいろいろと役割があるみたい。


 私は金庫番としての事前準備は大変だったけれど、試合当日は特に何もすることがないのでずっと見ていられる。


 従騎士さんたちもまだ出場権がないかわりに、いまは先輩たちの戦い方を見るのも仕事のうちだからしっかり見ておけっていわれてるみたいで、テオとアキちゃんは私と一緒に観戦していた。


 試合は今年正騎士に昇格した人同士の対戦から始まったけど、それでも真剣での戦いだから金属のぶつかりあう音が響きいてすごい迫力。魔法士同士の魔法戦のときには、普段魔法を見慣れていない一般席の人たちから大きなどよめきが起こってたいた。


 どれも手に汗にぎる試合ばかり。私も夢中になって観戦していたけれど、次第にじりじりと照りつける日差しに身体の汗も止まらなくなってきた。


 もう気候は秋なのに、昼間の日差しはまだかなり強い。いつもならこの時期はとっくに涼しくなっているらしんだけど、今年は暑さが続いているのだそうだ。特に今日は風も生ぬるくて、ずっと屋外にいるとそれだけで疲れてきてしまう。


 一応、偉い人たちがいる来賓席は屋根付きだし、私たちがいる控え席は騎士団本部の真ん前にあるから建物の日陰にいれば強い日差しを防ぐことはできる。


 でも、屋根もなく、陰になるような大きな木も周りにほとんどない一般席の人たちは大変だろうなぁ。体調崩さないように水分しっかりとっていてくれてればいいんだけど、あんなにたくさんの人がひしめきあっていたら水を飲みに行くのも一苦労だろう。


 サブリナ様とレイン、それに東方騎士団のヒーラーさんが騎士団本部の救護室で待機はしているけど、小さいお子さん連れの方やお年寄りだけでも日陰のある控え席の方に案内した方がいいかな。こっちはそんなにぎゅうぎゅうに人がいるわけじゃなく、騎士さんたちは会場の見回りとか役割があるので出払ってしまう人も多いから結構空いてるもの。


 と思って控え席を見回していたら、席の端っこの日陰で涼んでいる見慣れた顔をみつけた。


 ダンヴィーノさんだ。

 フランツも彼に気づいたようで、「あ!」と声をあげる。


「そこで何やってんだよ、おっさん。ここは部外者立ち入り禁止なんだけど」


 おっさん呼ばわりされたダンヴィーノさんは、のっそりと立ち上がると苦笑しながらこちらにやってくる。


「いいじゃねぇかよ。ケチくさいこと言うなって。俺だって、最近はしょっちゅう騎士団本部に出入りしてんだから、関係者みたいなもんだろ」


 まぁ、たしかに、ベルナードのせいで予算が足りなくなりそうになったところを、お得意さんだからと安く仕入れてくれたダンヴィーノさんのおかげでなんとか予算内に必要なものを買いそろえることができたんだものね。関係者といえば関係者よね。


 そのとき、一般席の方で、パシュパシュっという音が響いた。


 見ると、一般席の上空を覆うようにキラキラと白い粒のようなものがたくさんきらめいて席の上へと落ちていく。

 あれはきっと、クロードが一般席の熱さ対策に氷魔法で氷の粒を振らせたのだろう。


 一般席の観客たちは、みんな大喜び。少しでも氷の粒に触れようと上に手を伸ばしている。

 あの魔法はミュレ村でも見たことがあるけど、ヒヤッとして気持ちいいんだよね。

 しかし、隣にいたダンヴィーノさんは唸るように呟いた。


「一時しのぎにしかならんだろうな」


「そうですよね……」


「そういえば、さっき見回りしてたときに、倉庫の前で修理班のやつらがテントの布をひっぱりだしてるの見たよ。つなぎ合わせて、即席の布屋根でもつくるんじゃないかな」


 と、フランツが教えてくれる。そっか、バッケンさんたちも暑さ対策のために動いてくれているのね。

 そのことに安心したものの、でも熱中症は日陰にいてもなるものだから注意しとかないとと気を引き締める。


「もうちょっと水分もちゃんと補給できるといいんだけどね」


 とそこまで言ってから、私はふとあることを思い出した。日本の球場なんかでは、こういう暑い日には冷たい飲み物や氷を売っているのをよく見かけるよね。

 こういうとこで飲む冷たい飲み物って、身体に染み渡るくらい美味しいもの。


「そうだ!」

「お、お? どうした?」


 急に大きな声を出した私に驚いたダンヴィーノさん。

 一方、フランツはハハと愉快そうに笑って、


「カエデ。なんか良いこと思いついたんだろ? 今度は何すんの?」


 と、すでに乗り気になってくれている。むぅ、すっかり行動を見透かされてるけど、フランツも協力してもらえるならありがたい。


「実は、ちょっと一商売思いついちゃって」


 これにはクロードの協力が不可欠なんだけど、手伝ってくれるかな。もちろん、手伝ってくれるなら手伝い料は弾むわよ!

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