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第95話 湖畔のお屋敷

 三日後の朝。

 支度を済ませて、フランツが迎えに来てくれるのをソワソワしながら待っていると、部屋のドアがノックされた。


「ハノーヴァー伯爵家のフランツ様がいらっしゃいましたよ」


 そう執事さんに言われて、私はサブリナ様からお借りしたハンドバッグを掴むと急いでホールへと向かう。

 あまりに気持ちが急いていたからか、一階まで駆け下りたところで段を踏み外しそうになって、


「キャッ」


 よろけたところを、大きな手で支えられた。


「大丈夫? カエデは、木の根っこがなくても転ぶんだな」


 聞き慣れた笑い声。支えてくれたのは、階段の下で待っていたフランツだった。


「た、たまたまだもん」


 彼に会えるのが嬉しくて急ぎすぎただなんて、正直に言うのは恥ずかしくて。私は少しムスッとしたまま服を直すと、彼を見上げた。

 でも、彼を見た瞬間、ムスッとしていたことなんて吹き飛んでしまう。


「え……フランツ?」


「ん? どうしたの?」


 首をかしげてこちらを見下ろす彼は、スーツのような見た目の仕立てのいいジャケットに、シミ一つない真っ白なシャツをスマートに着こなしていた。

 高い背丈と引き締まった身体にソレはとてもよく似合っている。さらさらとした金色の髪に翡翠のような緑の瞳でこちらを見てくる表情は見慣れているもののはずなのにどこか新鮮で、ついボーっと見惚れてしまった。


 そっか、もう今は騎士団の仕事中じゃないから制服じゃないのね。そんな当たり前のことを忘れていた。


 でも、待って。仕事中じゃないっていうことは、今はプライベート? プライベートに二人でお出かけって、それってまるでデートみたいじゃない⁉ いまさらそんなことに気づいて胸のドキドキが強くなる。それを悟られないように俯き加減で首をゆるゆると降った。


「ううん。なんでもないの」


「そっか。じゃあ、馬車を待たせているから行こう」


 彼は自然な動作で私の手を取ると、少し前を歩き始める。

 それは女性の同伴者には誰にでもやる礼儀としてのエスコートのようだったけれど、そういった動作一つ一つが遠征中に知っていた彼よりも洗練されている気がしてドギマギしてしまう。


 屋敷の車止めに止めてあった馬車は、見るからに豪華なものだった。黒地に金色の装飾が施されたデザインで、派手ではないけれど細部に至るまで細やかな細工がされている。そしてもちろん、馬車を引くのはラーゴによく似た金色のタテガミと尻尾をもつ白馬二頭。本当に白馬が好きなおウチなのね。


 御者の人が恭しく馬車のドアを開けてくれて、フランツに手を支えられ馬車に乗りこむ。中の内装も、とっても豪華でため息が出てしまう。

 向かいにフランツが座ると、馬車は動き始めた。


「リーレシアは母親と一緒に別荘に住んでるんだ。ここからしばらくかかるから、ゆっくりしててよ」


「うん。わかったわ」


 リーレシアちゃんのお母さんは、確かフランツとは血のつながっていない継母さんなのよね。フランツは三人兄妹で、彼だけが母親が違うと前に言っていたのを思い出す。


 三日前に王城でチラッと見かけた感じではお父さんとは確執があるみたいだったけど、こうやって気軽に会いに行っているのを見ると継母さんとはそんなに仲が悪いわけじゃないのかな。それとも妹に会いに行くためとはいえ一人では行きづらいから私を呼んだのかな……そんなことをついグルグル考えてしまっていたけど、当のフランツはどこか懐かしそうに窓の外を眺めていた。


 馬車は王都の正門を抜けると森の中の街道を進んでいく。そのまま小一時間馬車に揺られていると、しばらくして片側の視界が開けてきた。窓からのぞくと、大きな湖が目に飛び込んでくる。湖面では真っ白い水鳥たちが気持ちよさそうに泳いでいた。湖畔のあちらこちらに大きなお屋敷も見える。その湖に沿うのどかな道を馬車は辿っていった。


「てっきり王都の中にお屋敷があるのかと思ってたけど、こんな郊外に建ってるのね」


 サブリナ様のお屋敷は王都の中の、王城に近いお屋敷街みたいなところにあった。だからてっきり、リーレシアちゃんの住む家もあの辺りにあるんだと思ってた。


「ああ。ここは王都から近いから、金持ち連中の別荘地になってるんだ。このあたりは王都の騎士団が頻繁に巡回してるから、魔物も出ないしね。うちの別荘は、あの赤い屋根の屋敷」


 フランツが指さしたのは、湖畔に見えるお屋敷の中でもひと際大きなお屋敷だった。

 お屋敷につくと、すでに屋敷のメイドさんや執事さんたちが出迎えて待ってくれていた。フランツもこの別荘に来たのは遠征から帰ってきて初めてだったようで、「フランツ様、お帰りなさいませ」とみんなから歓迎されて、本人はくすぐったそうにしてたっけ。

 彼は私を騎士団の同僚といって紹介してくれたけれど、老執事長さんが「みなまでおっしゃらなくても、わかっております」的な温かい笑みで頷いていた。


 そして応接室みたいなところで軽くお茶とお菓子をいただいたあと、リーレシアちゃんと奥様は庭にいらっしゃると伺ったので、私たちも庭に出てみることにした。

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