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古城ホテル

 うっかりしていた。

 朝の占いを見ようとテレビをつけたが、そのままリビングで二度寝したらしく、起きるとすでにお昼のワイドショーをやっていた。

 それはいいが、いや良くはないが、とにかくそのワイドショーの特集が『疑惑!コーダリー城事業化計画の闇』というタイトルで、なんのこっちゃと思いつつ観ていたところが以下のような内容である。


 コーダリー城は旧領主コーダリー家の居城だったが、十五年前の政権交代で州に接収されている。

 その後は古城ホテルとして事業化し、再活用する事が当時の州議会で決まったはずだったが、全く着手しないまま放置されていたらしい。

 それが何故か今になって発覚したそうで、計画自体は改めて進める方針ではあるが、いまだ政府から詳しい説明などがなされていない。

 ゆえに世間で物議を醸しているわけだが、十五年前のコーダリー家では幼い息子の病死や、当主夫妻の事故死という不幸が相次いでいたため、呪い説や政権交代に関わる陰謀説にまで話が飛躍している。


 しかし事実はワイドショーより奇なり。

 ここからは内緒の話だが、病死した息子とはオレのことで、それはオレのたぐいまれなる才能を隠蔽するためである。

 そして、城には開かずの間がある。

 開かずの間には、あちらとこちらを仕切る結界に加え、人の認識や関心を阻害する呪術を織り込んだ封印が施してある。

 もしもその影響が城全体にまで及んでいたとしたら、だれもが城のことなんか忘れてしまっていた可能性もあるのではないか。

 つまり何が言いたいかといいますと、オレは最近、開かずの間の封印を解いたまま元に戻すのをうっかり忘れていたような気が、しないでもないかもしれない。


「やべ」


 オレはテレビを消して城の様子を見に行くことにした。

 ちなみに占いだが、三月生まれのオレは要注意日、言い訳はしないほうが良いとの事である。




 城は州都ブランチュールの西北端にあり、ご近所は州議会議事堂や州代表官邸などが立ち並ぶセレブな区画だ。

 大通りに面した城門の周りはマスコミと野次馬で賑わい、閉ざされた門の中にもスーツの人やら作業服の人やらが往来していて、荒れ放題だった庭園の整備に当たっているようだ。

 その奥に両翼を広げる建物は背後に遠くヒラギ山脈の稜線を背負い、千年以上の歴史と増改築を誇るだけあって正面から見る以上の奥行きを秘めている。

 古城ホテル計画、いいと思います。


「待ちなさいアルフォート!これってあなたの仕業なのかしら?!」


 人混みを見た時点で回れ右したオレだったが、目の前に黒いスーツの女が立ちはだかった。

 彼女はマリー・トゥーレザン。オレの姉である。

 姓が変わったのは、入り婿だった父の実家に引き取られたからであり、まだ結婚はおろか彼氏もいない。

 タイトなミニスカートでアピールしつつ、乏しい胸元を大きなフリルのブラウスでごまかそうとしているのも涙ぐましく


「何か良くないことを考えているわね!」

「イヤ、え〜〜と、センパイはナゼここに?」

「仕事に決まってるでしょう!関係者入口はこっちよ」


 イヤよと言う間もなく腕を掴まれ、連れて行かれたのは通用門。そこから入ってすぐの、庭園の端っこに設置された造園業者の資材置きテントの中だった。

 長机とパイプ椅子と給水器もあって、休憩用スペースも兼ねているのだろうが今は無人だ。


「今はここがプロジェクト準備室で、正式な部署が出来て上司が来るまではわたしが室長代理よ!」」

「そうなんですね…。でも先輩は州代表秘書官だったのでは?」

「所属はそうだけど志願したのよ。だってわたしは唯一、お城が元実家の公務員、最適任者だもの!」


 州代表とは字の通り、州を代表して『円卓会議』の一員となる偉い人だ。その秘書官は特別職公務員で、コネが多い私設秘書とは違って厳しい試験をパスしないとなれない。

 両親を亡くした直後は、全く口をきかなくなったりしていた先輩だが、今では元のとおり、こうと決めたら退かない面倒な姉である。


「もともとお城の事業関連の部署希望だったけど『彼』の移転先が決まるまで計画は封印されて、ポスト自体が無かったのよ」

「移転?」

「だから封印を解くなら、まずわたしに連絡しなさいってこと!ドクターの仰るには…」

「師匠が?」

「そうだったわ、ごめんなさい!ドクターはお気の毒でした。まだお若かったのに、生まれつきの病気は柊協会でも治せないって本当なのね」


 ……オレの師匠、ソアン・ケイオスはコーダリー家の侍医であり、呪医だった。呪医というのは、まあ、裏家業だ。

 コーダリー家では代々、城の開かずの間の管理者として呪医を契約していて、その仕事の性質上、師匠は主家を失った後も務めを継続していた。

 先輩の言う『彼』とは、開かずの間の住人のことである。


「それで、ドクターが仰るには、通信環境がどうとか注文がうるさくて『彼』の好みに合う引越し先がなかなか見つからないって話だったのよ」

「見つかってないですよ?こないだ引継ぎの挨拶に行って、うっかりカギをかけ忘れただけで…」


 注文がうるさい、というのはありそうな事だ。あのワガママっぷりをみれば。

 しかし彼を移動させるなんて話は無かった。


「――で、開かずの間は他にもいくつかあって、本物の悪霊憑きのやつもあるんで、古城ホテルの計画ごとまるっと封印しとく予定なん、です、が?」

「………………………………」


 先輩が怒っている。たぶん言葉もなく怒ってる。

 朝の占いに従って、言い訳はしていないはずなのだが……。


「…………」


 無言のまま、先輩は何故かテントの奥へと目を向けた。

 そこにあるのは畳んで積み重ねた脚立とブルーシート。そして、


「ずっといらっしゃいましたか、代表閣下…?」

「昼食の後は眠くてね。だが興味深い話だ、続けたまえ」


 シートから身を起こして答えた声の主は、現職コーダリー州代表ジョー・ジャック・ロアンヌ氏(52)。

 

 オレはまた怒られるのだろうか。




 


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