クズから屑へ
20191015
見返すと、ステータス等がおかしかったので修正しています。
...未熟なり。
…ここはどこだろ?
気がつくと俺は、星の中を漂っていた。
いや、別にロマンあふれるポエムを披露したいわけじゃない。
文字通り星屑の中をふわふわ漂っている、しかし見渡しても自分の体がない。
というか、体が無いのに辺りを見渡せるって、どういう状況なんだろう。
振り向いた感じが無いのに、360度見える。昆虫の複眼ってこんな感じなのかな。
右を見ながら左も見えるってすごいな…。
…はぁ、どうなるんだろうこれから…。
俺は死んだんだろうか。
ここにくる直前までの記憶もあるけど…
そういや、あの娘は助かったんだろうか。
助かってるといいなぁ。
仕事も途中だったし、納期も近いから急がないといけないんだけどなぁ。
というか、ずっとこのままなのだろうか…
これいわゆる、魂だけの状態ってことじゃないのか?
転生とかあったりしないのだろうか。
ねぇ、ちょっと、だれかー。
困ってまー…す…
ザ、ザザー…『転生者を確認しました。これより転生を開始します』
突然ノイズ混じりの機械音声のような女の声が聞こえてきた。
おお? 本当になにかはじまるらしい。
生きてる時に読んだ小説だと、なにか能力を貰って異世界へ行くってのがあったけど、これがそうなんだろうか。
『…《人間》への転生を開始します…完了しました。続いて《スキル》の取得を開始します』
ふむ。来世も人としての生活が待っていると。
《スキル》という、ゲームとかでしか聞かない単語が出てきたから、元の世界で生まれ変わるってわけじゃないみたいだ。
でもまぁ 物心ついた時から両親はいないし。嫁も居なければ、子供もいない。まぁ、彼女すら出来た事がないんだが。
現世に未練は無いし、来世は明るく楽しく生きたいもんです。
『…完了しました。《スキル》適性がないため、取得可能スキルがありません。《スキル》の取得を終了します。』
‥‥ちょっと待って。
適正なしって、それって才能なし子ってことなのか?
『…ステータスの振り分けを終了します。』
「」
種族:人間
階級:村人
才能:G
SP:100/100
レベル:1
HP 10/10
MP 0/0
攻撃:1
防御:1
魔力:1
抵抗:1
敏捷:1
《スキル》
―――
《称号》
【転生者】
『…以上で転生を終了します。』
いや、次の世界のステータスの水準はわからないけど、ちょっと悪すぎる気がするんですが…。
才能Gっ…。いくら何でも人生スタート地点から詰むのは勘弁してほしい。
しかし、俺の思いも虚しく、転生が開始される…
その時だった。
『ザザ、ザザザ、『 』への、介入を確認、ザザ、システムを再起動します』
突然、最初に聞こえたときのようにノイズ混じりの音声になった。
今度はそれがどんどん酷くなっていき、やがてテレビの砂嵐のような音しか聞こえなくなった。
その時だった。
何も無い空間に”なにか”が、きた。
『ようやくか、永かったが…我の存在が消える前に、間に合ってよかった…』
重く、腹の底に響くような重低音の声が聞こえてくる。
それとともに、目の前(目はないんだけど)にとてつもない存在感を感じた。
気づくと星屑は消え、真っ暗な"闇"が広がり
それはやがて巨大な黒い龍の形を作っていく。
かつて日本画で見たような胴体の長いヤツではなく、西洋風のドラゴン的なヤツだ。
大きな4枚の翼を広げ、頑丈そうな鱗に守られた手足は、人ひとり簡単に握りつぶせそうなほど逞しい。
ルビーのような真っ赤な瞳に、その眼…よりも更に赤を濃くした深紅の一本角を持っているその姿は、見ているだけで圧倒される。
だが、そんな見た目を前にしても、不思議と恐ろしさを感じない。
むしろ、この龍から感じる〝その感情〟を俺はよく知っていた。
すると…
『フッ...フハハハハハ、しかし、見事な空の"器"じゃのぉ、強い魂を持ちながら、魔力も才能もないとは、フハハハハハハ!!』
この龍さん、突然笑いだしましたよ。
笑い方豪快だし、見た目がいかついもんだから迫力がすごい。
どこのどなたかは知りませんが、突然出てきて才能ないだとか、笑いすぎじゃないでしょうか。
「フハハハ、いや、すまんすまん、あまりにも悲惨なステータスに思わずな、フハハハ」
それからも暫く、目の前で笑い続けた。
何しに来たんでしょうねこの龍は…。
『む、そうであった、しまったな、もう時間もあまり残っておらぬではないか』
いやいや、そちらが勝手に人のステータスみて笑い続けたんでしょうが…。
『フハハ、なにせ気が遠くなるほどここにおったのだ、それこそもうじき我の魂が尽きるほどにな、少しくらいはよかろう』
なんだか、話好きなおじいさんに捕まった気分だ。
『...フフフ、話好きなじいさんか、まぁ、間違いだらけというわけでもないのぉ。どうじゃ、そんな老いぼれの話に付き合ってはくれんか?』
これ全部聞こえてるのか…?
っていまさらか。さっきから会話が成立してるし。
けど、話し相手がいるのは悪い気はしないよね。
こんな何も無いところで、ちょっとしかいなかった自分でも、不安あったし。
さぁ、聞きましょう。
『今のお前は魂だけの存在だ、隠し事もなにもできぬ。それは、我も同じだがな。そして、これからヌシに頼みがある、我はヌシのように、我を受け入れるだけの強い魂を待っておった。』
ふむ、わざわざ待っていたって言うくらいだから、
『それも、強いだけではなく、我を受け入れることができるほどの器をな。ゆえに、これから頼む事はヌシにしかできぬ、だが強制もできぬ。しかし時間がないゆえ、聞き入れてもらいたい。』
まぁ、なにもなくて笑うだけに出てくるわけないですよね。
まずはどうすればいいか教えてくれませんか?
『そうさな…ヌシに頼みたいことというのは、もうすぐ消える我の代わりに、この世界と、我が友の魂を救ってやって欲しい』
そのために消えてしまうかもしれない危険を?
というか、それってのっとらせてくれってことですか?
それはさすがに・・・。
『我にとっては何にも変えがたいものでな。それと安心せい、すでに消耗しきった魂がヌシのような強い魂に勝てるわけもない。たやすく取り込まれ我の自我は残らぬだろう。だが、我がもつ力はヌシに受け継がれる、残念ながら生前のまま渡すことはできないが、少なくとも才能0なんてことはなくなるじゃろう』
また才能のくだりで笑いをこらえて言うジジドラゴン
才能と魂の強さは関係ないのか?
『そうとも言えるし、そうでないとも言える』
『無論、容易い道ではない。これからヌシの魂と、我の魂は混ざり、転生する。我を受け入れることでヌシは普通の道はゆけぬだろう、苦痛と苦悩に苛まれ、運命に呪われ、穏やかに暮らせる時は来ぬやもしれぬ、それでも引き受けてはくれぬか?』
願いを口にしたじいさん龍は目を細め、寂しそう視線をこちらに向けた。
なんてこった、このじいさんは…
とんでもないお人好しなんだろう。ここで断ればもうチャンスはなく、ただ消えるだけ。それでも、強制するわけではなく、俺の次の人生を案じて、あえて選択させる。
当然、頼みを聞く義理はない。
あったばかりの人…もとい、龍に自分の代わりに苦労してくれなんて頼まれて「はい、いいですよ」とは、ならない。
それでも、俺はこのじいさん龍をほっとけなかった。
何故ならこのじいさんは俺と同じだった。
最初にあった時に感じた感情、それは…
"孤独"
…ほんとに、柄じゃないと思うんだけど。
俺は、無い口から、ため息を一つ吐いて、返事をした。
できるかわからないけど、じいさんの代わりにやってみるよ。
…自信はないけど。
『…そうか…すまぬな…感謝する。名も知らぬ世界から来た、名も無きものよ。』
ゆっくりと瞳を閉じて、頭を下げるじいさん龍。
気のせいかもしれないけど、閉じてゆく眼の中に、嬉しさとも、悲しさともいえない感情が溢れ潤んでいるように見えた。
すると唐突に、じいさん龍の気配が薄くなっていく。
えっ…?
突然の事に慌てる俺に
『なに、これからヌシとひとつになるだけだ。それに消耗しきったこの魂の自我など残りはせぬ、ヌシはヌシのままだ安心せい。あぁ、それと融合はするが、我の力がそのまま使えるわけではない。次の世界でヌシはまだ何者でもないからのぉ、じゃが成長し、無限の可能性を秘めておるよ・・・おそらくな。』
薄れていく中、にやりとした笑みを浮かべる。
爬虫類みたいな顔して器用に表情をつくりますね。
あと言った言葉には最後まで責任もちましょうね。
『あぁ、あとのぉ』
時間ないんじゃなかったんですか。
さっきの雰囲気を壊すかのようなじいさんの語りについ突っ込んでしまう。
それをまた可笑しそうに目を細めて言う。
『フハハ、そういうでない、文字通り最後なのじゃからの。あとな、我はじいさん龍ではない、ザダハレア、それが我の名だ、もはや、呼ぶものは居なくなってしまった名だがのぉ』
自分が消えかけて、時間が無くても俺の行く末を気遣って、今度は安心させるように優しく語りかけてきた。
…ほんとにお人好しだな、このじいさんは。
ならば、俺はこう答えておく。
俺が覚えとくよ。
たまに思い出したら呼んでみる。
『…本当に…感謝する…では、たのんだぞ』
…本当に嬉しそうに笑った。
目を細め笑いながら、じいさん龍こと、ザダハレアは消えていった。
それと同時に俺自身の存在感というのだろうか、力がみなぎる感じがしてくる。
『ザ、ザザ、システムを再起動します、《人間》への転生…失敗しました。』
三度目のノイズ混じりの女の声が聞こえてきた。
…さっきとまでは違う意味で不穏なセリフが聞こえたけれど。
『…システムの更新を行いました。新種族《龍人》への転生を開始します』
『完了しました。続いて《スキル》の取得を行います』
ザダハレアが力くれるって言ってたよな…今度は何にもないとかないよな…
『…完了しました。《スキル》の取得を終了します…ステータスの振り分けが完了しました。』
そして、俺のステータスのイメージが伝わる。
名前:「」
種族:龍人
階級:卵
才能:――
SP:100/100
レベル1
HP:1000/1000
MP:999999/999999
攻撃:3
防御:30000
魔力:2
抵抗:30000
敏捷:1
《限定スキル》
【龍脈】レベル:―【叡智】レベル:1【愚者】レベル:-
《スキル》
【龍鱗】レベル:1
《称号》
【転生者】【龍神の意思】
なんか急にスキルが増えた…ていうかMPがすごすぎる。
そして、防御への振りがすごいな!
あ、卵だからか。
なんか色々怪しい感じになってきたな…
そんな、未来に不安を感じ始めた頃、ずっと聞こえていた声が終わりを告げる。
『以上で転生を終了します』
やっと終わった…これスキルとかって説明見れるのかな。
そもそもスキルってどうやって使うんだろ。
そう言えば、頼みは聞いたけど、なにすりゃいいのか聞いてない。
まぁ、なんとかなるか…?
ほら、異世界モノってなんだかんだ巻き込まれて、最終的に目的地にたどり着くし、大丈夫…きっと。
なんとなくこれからの事を考えていると、意識がゆっくりと落下を始めた。
これから、新しい人生、いや、龍人生が始まるのか。
眠るように意識が薄れて行く…ぼんやりした頭で、さっきまできこえていた機械音声の中に、それとは明らかに異なる感情の女の声が聞こえた。
『ザダハレア‥‥やはり、貴方は‥‥』
それは、とても悲しそうだった。