大王と大決戦の月曜日!(後編)
そこは、絶対暗黒の界域。
光が全く無い世界とは、こんなにも恐ろしい物だったのか。精神をひどく蝕まれる。
そして圧倒的な超重力が、僕の身体を雑巾でも絞るかのようにキュンキュン締め付けて来た。
「重いぃー……、苦じいぃー……」
胃の中の内容物を全て吐き出しそうになる僕。
もうダメだあ……。
あまりの辛さに意識を手放そうとした、その時。
(くん……、太郎くん……、聞こえますか……?)
なぜか、ヒトミ先輩の声が聞こえて来た。
「とうとう、幻聴まで……、僕はもう死ぬんだなあ……」
(幻聴ではありません、私です。テレパシーであなたの心に働きかけているのです)
「え……? ヒトミ先輩……?」
僕の心に、ヒトミ先輩の声が響く。
そういえば、先輩は優れた霊能力を持っているって話だったな。
(太郎くん……、重いですか? 苦しいですか?)
「はい……。重いです……、苦しいです……」
(頑張って下さい。太郎くんなら必ずやその空間を打ち破る事ができるはずです)
「いえ、僕はもう指一本動かす事ができません。大見得を切っていながら、力になれずにすいませんでした……」
それでも、最期に先輩と話す事が出来て、良かった。
さようなら、先輩。愛しています……。
(あきらめないで。太郎くんがブラックホールを打ち破る事ができたら、私はあなたのいうことを『何でも聞きます』)
ドーーーーーンッ!!
僕は暗黒空間をブチ破壊し、激しい爆発音と共に元の世界。都有高校のグラウンドに戻って来た。
「ななな、何だとーっ!?」
「太郎くん!」
僕はヒトミ先輩に敬礼をしながら。
「恥ずかしながら、帰ってまいりました」
ヒトミ先輩に乗せられたとはいえ、性欲だけでブラックホールに打ち勝ってしまい、人として本当にお恥ずかしい。
でもまあ、無事に戻って来れてよかった。
「ぐぬぬぬぬ……、かくなる上はっ!」
「きゃあああっ!?」
突如、絹を引き裂くような声。
「ぐははははっ! 娘はもらって行くぞ!」
「しまったっ!」
一瞬のスキを突かれ、ヒトミ先輩を掴んだアンゴルモアは跳躍する。
ぐんぐんと空へ飛翔していく二人。
まずい!
先輩との特訓で確かに防御力は上がったけど、正直僕は攻撃手段を全く持ってない。
このまま逃げられたら、もはやどうする事も出来ない。
だが、絶対絶命のその時、僕の脳裏に先輩の言葉が甦った!
(赤チン、赤チン、赤チンチン♪)
じゃなくて。
(人間、頑張れば波動拳も撃てます。気合と根性です)
波動拳……! 今の僕なら撃てるかもしれないな。
僕は両手を腰だめに構え、波動拳の構えを取った。
「僕のこの手が光って唸るっ! お前を倒せと輝き叫ぶっ!! か~め~は~め~……」
僕の両手が、オーラの光で青白く輝く!
『波動拳っ!!!』
僕が図書館で見つけた、『恐怖の大王、アンゴルモアの攻略本』。
最後に記されていた一文は、涙で滲んだ文字で『娘を助けて欲しい』という願い。
つまり、著者は『蛇井豪屋』家の唯一の生き残り、ヒトミ先輩のお父さん。
おそらく『蛇井豪屋』家は、そしてヒトミ先輩は、20年の間待っていたのだろう。過酷な特訓を甘んじて受け入れ、対応策を実践に移せる救世主が現れる事を。
信じるものは救われる。ひたすらポジティブな、僕みたいなバカが現れる事を!
地上から放たれた極太のエネルギー波が、アンゴルモアを貫いた!
『そ、そんなバカなあああああーーーーーっ!!』
アンゴルモアは断末魔を上げながら、永遠にその存在を消し去った。
天使のように、天空の城ラピュタのヒロインのように、空から降ってくる巫女装束のヒトミ先輩。
「どっせーい!」
僕は彼女をお姫様だっこで受け止めた。
「あ、ありがとうございます……」
しおらしく僕に抱かれる先輩に、僕はちょっと拗ねたように伝える。
「こんな事なら『別れて』なんて言わずに、素直に『助けて』って言ってくれたら良かったのに」
「ごめんなさい……。あなたを巻き込みたくなかったから……」
「でも、本当は僕が助けに来る事を期待してたんでしょ?」
何も言えずに、コクンとうなずくヒトミ先輩。やっぱり可愛いなあ。
三つ編みメガネ巫女じゃないのは残念だけど、髪をほどいた今の姿はこれはこれで。
「私、重くないですか? 苦しくないですか?」
「全然。ストーンヘンジに比べたら、羽毛みたいなものです」
そう言って、見つめ合う2人。
お姫様を助けて勇者になった今なら、いや、今こそ僕はこのセリフを言いたい。むしろ言うべきだ!
「これから先輩をひん剥いて、ペロペロしてもいいですか」
「や……、やぶさかではないですよ?」
頬を染めて恥ずかしそうにOKする、ヒトミ先輩。
やったーっ!
しかし、その時。
ドカッ!
異次元から飛来してきたリア充を誅する岩石が、僕の後頭部に直撃した。
「しまった……。これはまだ、特訓してない……」
バターンとあお向けに倒れる僕。
「太郎くん、太郎くん! しっかりして!」
先輩は僕をゆすり起こすが、僕は完全にのびてしまってピクリともしなかった。
「……助けてくれて、ありがとう♡」
ヒトミ先輩は、僕の唇に幸せいっぱいのキスをする。
そして、ヒトミ先輩はメガネをかけて、メモ帳の最後のチェックボックスに✔を入れたのだった。
「『キュンキュン』っと♪」
おしまい
by 雨音AKIRA様
雨音さん、ありがとうございます!
※使用したウニはスタッフが美味しくいただきました。
2019.7.4追記:
雨音AKIRA様よりFAを戴きましたので、物語の最後に載せさせていただきました!
雨音さん、ありがとうございます!
2019.7.5追記:
秋の桜子様より扉絵を戴きましたので、物語の最初に載せさせていただきました!
桜子さん、ありがとうございます!