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エジプトと別れの木・金・土・日

 1999年7の月、

 空から恐怖の大王『アンゴルモア』がやって来るだろう、

 世界を破滅させるために……。


 ~ミシェル・ノストラダムス師の予言集

 百詩篇 第10巻72番ぽいやつ より~



 *



 木曜日。


「今日は、私の家でご飯を食べましょう」


 ここ最近、海外に行く事が多かったので、日本で普通に一日を過ごせることをこっそり心の中で安堵する。

 しかし、ヒトミ先輩の家か……、緊張するなあ。


「今日は家族が誰もいないのです」


 ドキッとする事をおっしゃる。


「でも、執事とメイドはいるのです」


 ですよね。っていうか、執事とメイドがいるの!?

 連れて来られたのはデカイ寺社仏閣のような、純和風の大豪邸。

 『(へび)()(ごう)()』家って、何者?

 てな感じの質問を先輩に投げかけてみたら。


「ウチは、神官の家系なので……」


 と、奥歯に物が挟まったような答え。

 まあ、プライバシーに係わることだから、あまり深く立ち入らない方がいいのかな?

 でも神官という事は、ヒトミ先輩は巫女様なのか。

 三つ編みメガネ巫女……、超見てえ。


 虎皮のじゅうたんが敷かれたリビングに招かれ、しばらく待つ。

 出てきたご飯は、フォアグラが乗ったステーキやら、伊勢エビやら北京ダックやら、見たこともないようなごちそうだった。

 うまい!


「すごく美味しいです。腕の良い料理人さんを雇われてるんですね」

「いえ、これは私が作ったものです。お口に合いましたか?」


 何てこった。ヒトミ先輩は料理女子でもあったのか。

 恋人同士のお付き合いをしていると、先輩の知らない部分がたくさん見えてくる。

 ガッツリ胃袋を掴まれました。結婚してください。


「あの……、それは、ちょっと……」


 しまった。心の声がだだ漏れだった。

 しかも、やんわり断られてしまった。ちょっとショック。

 でもまあ、付き合ってまだ4日目だし、僕はまだ結婚できる年齢じゃないし(涙)。


 それはそれとして、ご飯はすごく美味しい。

 先輩の手料理をたっぷり堪能した僕に。


「では、食後の『デザート』はどうですか?」


 何だか不穏な先輩の問いかけ。


「食後のデザート……、甘いものですか?」

「甘いものがご所望なら、この後にお出ししますよ」


 この後? どの後だ?

 ここ数日の経験で、裏を読みがちになっている僕。

 だが、先輩の彼氏になったからには、虎穴に入らずば虎児を得ず。


「では、食後のデザートをお願いします!」


 そして僕たちは、サハラ砂漠(デザート) に降り立った。



「先輩、暑いです……。水をもらえませんか……」

「ダメです。我慢してください」


 何も目印がない中、どこに向かっているかも知らず、僕はひたすら歩く。

 砂漠ってほんとに砂しかないと来たもんだ。

 見渡す限り、砂、砂、砂。そして、雲一つない青い空。

 ジリジリと太陽は容赦なく僕たちを照り付ける。

 なにしろ、アラビアの方では『人間を苦しめるために、神は太陽を創った』なんて言い伝えがあるらしい。日本では国旗にするくらい良いイメージしかないのにね。


「先輩……、もう限界です。何か飲む物を下さい」

「ダメダメです。それだけ口が利けるなら、まだ大丈夫です。カラカラに干からびるまで頑張ってください」


 体感温度50度を超える中、なぜかサムズアップをするヒトミ先輩。

 暑くても砂漠では肌をさらしては危険だと聞いてたので僕は厚着をしているが、なぜかヒトミ先輩は麦わら帽子と白い半袖のブラウスとか超軽装。

 すんごいUVカットのクリームを塗ったりしてるんですか?


「私は見えないバリアを(まと)っていますので、大丈夫です」


 またエキセントリックな事をおっしゃる、この人は。


 しかし、ヒトミ先輩は着痩せするタイプなのか、意外と胸が大きいことが分かった。

 巨乳とまでは言わないけど、十分な存在感。

 あのおっぱいを、いつかは僕が……。

 なんて事を考えてたら、生唾が湧いてきて、僕はそれで渇きをしのぐ事ができた。

 人間、やればできるものだ。


『着いたー!』


 ようやく焦熱地獄を越えた僕たちは、ピラミッドの頂上に並んで座って、仲良くオレンジソルベをいただく。

 なんでそんな物があるのかって? 頂上にクーラーボックスが置いてあった。


 ヒトミ先輩はメモ帳のチェックボックスに✔を入れた。


「『砂漠』っと」



 *



 金曜日。


「あ、先輩おつかれさまです」

「……」


 ()(ある)高校の校舎の一角、超常現象(オカルト)研究部の部室。

 部長1人、部員1人のいわば僕たちの愛の巣で、ヒトミ先輩は自分の三つ編みをくるくるといじりながら窓の外を眺めていた。

 いつもと違う、その物憂げな表情も綺麗だと思う。

 僕はぼーっと、僕が先輩の横顔を眺めながら返事を待っていると。


「あ、ごめんなさい。考え事をしていたものですから」

「いいですよ。たまにはそういう時もありますよね」

「……もうすぐ、7月ですね」

「あ、そうですね。週が明けたら、もう7月か」


 先輩と付き合ってから毎日が楽しくて、日にちが経つのを忘れるなあ。

 夏休みも先輩と一緒に過ごせたらいいな。


「実は私、来週の月曜日がお誕生日なのです」

「え、そうなんですか? おめでとうございます」


 そうかあ。じゃあ、なんかプレゼントを考えなくちゃ。

 何がいいかな? 思いきって婚約指輪にしようかな?


「というわけで、私たち別れましょう」

「…………えっ?」


 絶句する僕。先輩は口元を引き締めながら。


「実は、私には生まれる前から定められた、婚約相手がいるのです」

「えっ? えっ……!?」


 衝撃のカミングアウト。

 急転直下の展開に、僕は目の前がクラクラする。


「そして、私が嫁ぐのが来週の月曜、7月1日なのです」

「そんな……。じゃあ、なんで僕の告白を受けたんですか!」


 そんなことなら、断ってくれたら良かったのに!

 思わず言葉を荒げる僕に、先輩は困ったような笑顔で。


「最後に1週間だけでも、恋愛というものをしてみたかったのです」

「え……」

「ごめんなさい、軽蔑したでしょ?」

「……いえ」


 あれだけの大豪邸を持つ、由緒正しい家柄だ。許嫁がいるというのもうなずける。

 最初から、ヒトミ先輩は僕の手が届く存在では無かったのかもしれない。

 むしろ、最初で最後の恋愛相手に、僕を選んでくれたのは光栄な事だったのかもしれない。


「太郎くん、超常現象オカルト研究部のこと、よろしくね」

「はい……」

「重いですか? 苦しいですか?」


 先輩から何度となく繰り返された、この質問。


「はい……。重いです、苦しいです。辛いです、寂しいです……」


 涙声で答える僕に、ヒトミ先輩はメガネを外しながらゆっくり近寄ってきて、唇に優しくて悲しいキスをくれた。


「今までありがとう。さようなら……」



 こうして僕は、ヒトミ先輩と別れた。



 *



 土曜日。


「あいたたた……、昨日はカルピスの水割りを飲み過ぎたぜ……」


 僕は、二日酔い(?)で痛む頭を押さえながら目を覚ます。


 僕こと、『(その)(へん)()()(ろう)』は、ポジティブシンキングが売りである。

 時々、楽天的が行きすぎてバカと言われる事もあるが、そんなことはない。

 物覚えは良い方だと思うし、実際にヒトミ先輩から絶賛されたこともある。


 ヒトミ先輩……。


 昨日は一晩中「あァァァんまりだァァアァ!!」と泣き晴らし、ストレスを発散した僕はスッキリした頭で考える。


 昨日の様子からすると、この結婚はヒトミ先輩が望むものではない。

 だったら、その許嫁とやらをブッ飛ばして先輩を取り返しても、文句を言われる筋合いは無い(?)だろう。

 ポッと出のどこの馬の骨か分からない奴に、大事な先輩を渡すものか!

 向こうからしたら、僕が馬の骨かもしれないけどっ!


 そして、ヒトミ先輩とのデートの内容。

 冷静に考えたら、ありえないようなレパートリーの数々。

 あれは、もしかしたら一つずつ意味のあるものではないか?

 僕に、何か伝えようとしていたのではないか?


 なぜ、ウニだったのか。

 なぜ、インド人だったのか。

 なぜ、重苦しい思いをしたのか。

 なぜ、砂漠だったのか。

 なぜ、(かど)を取らない。


 そして、ヒトミ先輩との素性と関係性を考える。


 ヒトミ先輩は、超常現象(オカルト)研究部の部長。

 ヒトミ先輩は、名門『(へび)()(ごう)()』家の娘。

 ヒトミ先輩は、神官の家系で巫女様。

 ヒトミ先輩は、ナース服が良く似合う。

 ヒトミ先輩は、意外とおっぱいが大きい!


 ……いかん、集中しよう。


 僕は、ヒトミ先輩や蛇井豪屋家にまつわる伝承などを調べるため、図書館へと向かった。



 そして、日にちをまたいで日曜日。


「な、何だ、これは……?」


 徹夜で文献を調べていた僕は、ついに求めていた手掛かりを見つける。

 そこには、蛇井豪屋家の忌まわしき過去と、ヒトミ先輩の名前の悲しい由来。

 ヒトミ先輩の婚約相手というモノが、許嫁なんて生易しいものじゃなかった事。


 そして、僕たちがまだ生まれる前。

 今からちょうど20年前に、起こる起こると言われて起こらなかった出来事が、人々の記憶から消されて()()()()()()()()()という事が記されていた。

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