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ウニとインドな月・火・水

 挿絵(By みてみん)

 扉絵 by 秋の桜子 様



※伊賀海栗 様の【インド人とウニ企画】の参加作品です!


テーマ:「インド人」と「ウニ」の重苦キュンキュン

 2019年6の月、最終週の月曜日。


「すると、太郎くんは私の事を好きだということですね?」

「は、はい……、そうです」

「愛していると?」

「ええ、はい。そのとおりです」

「私を今すぐひん()いて、すみのずみまでペロペロしたいと、そういうことですか?」

「えーと……、さすがに今すぐはアレなんで、できればその、近いうちで」


 目の前にいる今時珍しい三つ編みメガネ女子は、うーんと言いながら考える素振りを見せる。


「……そうですね、私も太郎くんとお付き合いするのは、やぶさかではありません。それでは、今から私たちは恋人同士ですね」


 都内にある、(ある)高校。

 その校舎の中にある、超常現象(オカルト)研究部の部室。

 僕は今日、敬愛する『(へび)ごう()ヒトミ』先輩に告白した。


 ヒトミ先輩は見た目は地味で大人しいけど、冒頭のやり取りでも分かるとおり、少々エキセントリックな所がある女性。

 けれども優しくて、面倒見が良くて、実は隠れ美人さんだったりして、入部してからの3ヶ月で僕はすっかりメロメロになってしまった。


 ちなみに、僕の名前は『(その)(へん)()()(ろう)』。

 チートも何も持っていない、ちょっとだけ物覚えが良くてポジティブさが売りの普通の高校生だ。

 そんなしがない1年生である僕が、名前も風変わりな3年生のヒトミ先輩に、玉砕覚悟で告白した結果はこのとおり。

 僕は見事、ヒトミ先輩の彼氏の座を射止めたのだった!


「やったーっ!!」


 思わずガッツポーズをする僕を、ヒトミ先輩は微笑みながら見つめる。


「では、さっそくですが、新鮮で極上のウニを食らいに行きましょうか?」


 僕は、告白成功とお食事デートの喜びに浮かれ、『ウニを食らいに行く』という言葉の違和感に気付くことはなかった。


「え? ウニってお高くないですか? 僕、お金持ってないですよ」

「大丈夫です。私がおごってあげますから」

「じゃ、じゃあ……、お言葉に甘えて」


 そして、僕たちは北海道へ飛んだ。



 着いたところは日本ハムファイターズの本拠地、札幌ドーム。

 そして、グラウンドに2人きりの僕たち。

 ヒトミ先輩はどういう手段を使ったのか、ペナントレース真っ盛りの札幌ドームを貸し切り、なぜか僕は観客どころか誰もいないグラウンドの打席に立っている。

 ピッチャーマウンドには、元・日ハム(現エンゼルス)の大谷翔平選手! 

 を、模したピッチングマシーンが据えてある。

 ヒトミ先輩は、大谷の肩をポンポンしながら。


「これは、大谷ロボ2号。名付けて『ニュー・(オオ)(タニ)』!」

「ホテルの名前みたいですね」

「では、ウニを投げます」


 今、何と?


 ビシュン!


 160キロの豪速球で飛んでくる、黒いイガイガ!

 僕は固まったまま動けずにいると、顔の横をかすめて飛んで行った。

 耳の横が熱い。頬から血が一筋、流れているのが分かる。


「太郎くん! 危ないから、しっかり避けるか受け止めて下さい」


 ヒトミ先輩は矛盾したことを言いながら、次々とウニを放ってくる。

 僕は必死で避けていたが、ドスドスドスッ!


「ぎゃあああああーーーっ!!」

「太郎くん、重いですか? 苦しいですか?」

「重くも苦しくもないですが、痛いですっ!」


 変な質問を受けながら、文字通り何発も『ウニを食らい』、もう痛みを感じなくなった頃にようやく地獄から解放された。


「太郎くん、お疲れさまでした。今からお薬を塗りますね」


 なぜか純白のナース姿の先輩が、にこやかに茶色のビンを持ってくる。

 三つ編み眼鏡ナース。なんかそそるなあ。

 ぼーっとしていたら、ヒトミ先輩から脱脂綿に付けた黄色い薬をちょんちょんと塗られる。

 激痛が走った。


「ぎゃあああああっ! それは何の薬ですか!?」

「これは、ヨードチンキです」

「ヨー……何ですか?」

「ヨードチンキ。略して『ヨーチン』です。知りませんか?」


 話によると、昭和の時代に使われていたキズ薬らしい。

 何でそんなものが、令和の時代に?

 しかし効果はてきめんで、塗ったそばから僕の身体に空いた穴がふさがっていく。何だこれは?


「ヨーチン、ヨーチン、ヨーチンチン♪」

「女の人がチンチン言わないでください」


 その後、ウニを調理してもらったが、それはとても美味しかった。

 ヒトミ先輩はメモ帳のチェックボックスに✔を入れた。


「『ウニ』っと」



 *



 火曜日。


「インドの真髄を味わいに行きましょう」


 と、学食に向かう僕にひょっこり話しかけて来たのは、三つ編みメガネの女性。

 超常現象研究部の部長で、敬愛する先輩で、僕の彼女のヒトミ先輩。

 アルカイックなスマイルで僕を見つめている。


「インドを味わう……、カレーですか?」

「カレーも食べます」


 昨日あんな事があったので、カレー『も』というのが気になったが、可愛い彼女のお誘いを断る手は無いだろう。

 僕は、彼女想いの彼氏なのだ。


「良いですよ、インドの真髄を味わいに行きましょうか」


 そして、僕たちはインドに飛んだ。



 着いたところは、どっかの寺院。極彩色の壁と床が、オリエンタルな雰囲気を醸し出す。

 そして、パオー、パオーといななく象。

 象?

 そして褐色の顔に赤い入れ墨を入れた、見た感じストリートファイターのダルシムみたいな人がいた。


「この、ほぼダルシムみたいな人は誰ですか?」

「この方は、私の友人のホボダル=シムさんです」

「ナマステ」


 礼儀正しくお辞儀をするシムさん。怖そうな見た目だけど、良い人みたいだ。


「ヨガファイアッ!」

「うわーっ!」


 シムさんがいきなり炎を吐いてくる。あわてて回避する僕。


「太郎くん、波動拳よ。波動拳で撃ち落として下さい」

「そんなことできる訳ないじゃないですか!」

「人間、頑張れば波動拳も撃てます。気合と根性です」


 文化系なのに、時代錯誤(アナクロ)体育会系な事を言うヒトミ先輩。

 そうこうしているうちに、シムさんの炎が直撃する。


「ぐわあああああっ!」

「太郎くん、重いですか? 苦しいですか?」

「重くも苦しくもないですが、熱いですっ!」

「心頭滅却すれば、火もまた涼し。我慢してください」


 無茶苦茶な事を言う、ヒトミ先輩。

 僕は火だるまになり、『インドの真髄』をたっぷりと味わったが、なんとか熱さにも慣れて、地獄の時間を耐え抜いた。


「太郎くん、お疲れさまでした。お薬を塗りましょう」


 と、再び三つ編みナース姿で現れるヒトミ先輩。今日のナース服は薄いピンクである。

 この姿を見れるなら、火だるまになるのも悪くない(?)。

 しかし、気になるのはその薬のどぎつい色。


「その、赤い液体は何ですか?」

「これは、マーキュロクロム。通称『赤チンキ』です」


 前回のヨードチンキと違い、塗っても痛くなかった。その上、塗ったそばから火傷がどんどん治っていく。

 すごいぞこれは、魔法薬『エリクシール』か?

 ただ、マジックを塗ったみたいに赤くなるのが難点だけど。


「赤チン、赤チン、赤チンチン♪」

「女の人がチンチン言わないでください」


 そのあと、本場のインドカレーをごちそうしてもらったけど、とても美味しかった。


「これは何ですか?」

「ナンです」


 定番のボケツッコミを、本場でやれるとは思わなかった。

 ヒトミ先輩はメモ帳のチェックボックスに✔を入れた。


「『インド人』っと」



 *



 水曜日。


「太郎くん、どうですか? 重いですか? 苦しいですか?」

「重いですし、苦しいです!」


 有無を言わさず、イギリス南部。

 世界文化遺産で有名な、ストーンヘンジに連れていかれた僕は、いきなりデカい石を担がされている。


「おかわりいきますよ」

「うわーっ!」


 なんで、ヒトミ先輩は重機を扱えるんだ? という疑問を口にする間もなく、次々にクレーンで乗せられる巨石に僕の身体は悲鳴をあげる。

 も、もう、ダメだ……。


「頑張ってください。これを乗り越えたら、私は太郎くんのいうことを『何でも聞きます』」

「うおおおおおおおおおおっ!」


 積み上げられた巨石もなんのその、僕は愛(?)の力で見事、先輩の課題を乗り越えることができた。

 でも、筋肉痛がひどくって、せっかくの『何でもいうことを聞きます』権を、移動中ずっと先輩の肩を借りる事に使わなければならなかったのが惜しかった。


 ……いや、先輩と密着できて、実に良かった。

 先輩の身体、細くて柔らかかったな。良い匂いもしたし。


 あと、疲れが取れるからと食べさせてもらった、ハチミツに漬けたレモンはとても美味しかった。


 ヒトミ先輩はメモ帳のチェックボックスに✔を入れた。


「『重苦しい』っと」

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【インド人とウニ企画】
伊賀海栗(いがうに)様 主催の企画です!

『水兵チョップ海を割る ~西の島国の英雄譚~』
i410077
海洋バトルアクションファンタジー(完結済)です!
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