表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誰が為に冒険者をする

作者: 文月玲雄

ファンタジー世界で銃を使う主人公ってかっこよくないですか?

 

「兄さん、兄さん、起きてください」

 愛しい妹の声で目が覚める。

「ん……おはよう」

 ベッドから体を起こしながら妹に朝の挨拶を告げる。

「兄さん?どうしました?ぼーっとするなんて兄さんらしくないですよ?セルジュさーん?いい加減起きないと二度と「兄さん」と呼んであげませんよ?」

 その言葉で一気に目が覚めていくと同時に血の気が引いていく。

「あぁ、おはようクリス。確かにらしくないな、今日は少し調子が悪いみたいだ。パーティーメンバーに伝えておいてくれ。今日の仕事は無し、と。久しぶりに俺も銃の整備やら道具の点検もしないとならないしな」

 そう言いながら流れるようにして後ろから愛しい妹に抱きつく。そして

「ごめんな、クリス……不甲斐ない兄を許してくれ」

 すると愛しい妹は顔を真っ赤にしながら振りほどいて出来ていた朝食を出してくれた。

 それを食べてから消耗品や道具の修理に向かうべく荷物を纏めていると

「兄さん、いつも言っていますが私の病気の為に兄さんが無理をして、怪我をしたりするのが私が一番傷つくことだというのは理解してくださいね?わかりましたか?では、いってらっしゃい」

 あぁ、俺は、この笑顔を守るために今日も、これからもやっていけるだろう。


 ここはゼドーラの街。

 様々な人、物が集まる中立交易都市。

 この街で揃わないものはないとすら言われている。

 この街で俺たち兄妹はそこそこ良い立地で2階建ての家に住んでいる。

 両親が遺してくれた財産と俺の冒険者としての評価のお陰で。


 街を巡回している乗合馬車に乗り、商業区に到着。

 よく贔屓にしている道具屋__イソマ道具店__に顔を出す。

 扉を開けるとカランと客の往来を知らせるベルが揺れ、薬草の匂い、油の匂い、インクの匂いなど様々な匂いが漂う。

 その奥で道具屋の店主が紫煙を吹かしながら俺をじろりと見る。見て、俺の顔を認識すると

「あら、いらっしゃい。どうしたのかしら?珍しいわね、昼間からここに顔を出すなんて」

 そんなことを言いながら胸元を緩め、大きな乳房を強調するようにカウンターに乗せた。

「あぁ、今日は調子が悪いから依頼は止めだ。それに、嫌な予感がする。こういう時は行かないに限る……こいつをくれ、いくらだ?」

 店主が何か言おうとしたのを目線で制止させると代金を支払って新品のロープを購入し、店を出た。

 次に武器防具の整備の為に「工房」__アドラ工房__に足を運んだ。

「親父、こいつらの整備を頼む。親父?居ないのか?」

「お師さまは今、奥で別のお仕事をしてるっす!」

 それを教えてくれたのは暗闇に差し込む一筋の光の様な眩しさを持つ笑顔の持ち主だった。

「そうか……ならお前に仕事を頼む。俺の命を預けるモノ達、こいつらの整備を頼む」

 その言葉と共に、丁寧に装備品を置いていくと

「ええ!?あ、あたしですか!?あ、あたしはまだ……」

「一人前の証は貰っているんだろ、なら仕事だ。それとも、お前が手首に巻いてるそれは飾りか何かか?そうかわかった、なら依頼はまたの機会に……」

「ま、待ってくださいっす!あ、あたしが、「ローゲリウスの弟子が一人、ハイリウス」がその依頼、請け負うっす!やらせてくださいっす!」

 その言葉を聞いたのを確認し、依頼に見合ったお金を多めに支払うと工房を後にした。

 さて、次は組合に行って依頼がきてないか確認しないとな。

 また乗合馬車に乗って、今度は行政区へ到着。

 組合、またの名を冒険者組合と呼ばれているが実際はただの便利屋に過ぎない。

 もちろん一部の人間はしっかりと「冒険」しているが、俺や俺のパーティーは基本的に依頼をこなしている。

 行政区の中でもかなり大きな方の建物である組合は当然扉も大きく、開く音も大きい。

 その為開けると人目はかなりつく。

 だが今日は組合前にたむろしている新米や屋台を出している商人が目を見開いて俺を見ていた。

 その中の一人、今さっき冒険者になったかの様に汚れがほとんどないピカピカな鎧を来た冒険者らしき男が話しかけてきた。

「あ、あの!金等級パーティー銀の銃弾(シルバーバレット)のリーダー、シルビアさんですよね!?よ、よかったらご指導お願いします!」

「……まずはそうやって急に声をかけるのをやめろ」

 そう無愛想に返し、組合の中へ入っていく。

 組合の中でもとても多い視線__銃弾の雨と呼ぶべきもの__を気にする事無くカウンターの前に立ち、組合員の証__金のドッグタグ__を見せながら要件を告げた。

「指名依頼はきているか?」

 桃色の髪に橙の瞳の受付嬢が調べ、言いずらそうに言った。

「えっと……王国の貴族からの依頼はありますが……」

「わかった。だがその依頼は断らせて頂く」

「で、ですよねー。えっと、他に指名の依頼はきていません」

「わかった。では」

 それだけを告げると(きびす)を返して帰ろうとすると

「シルビアさん。あなたに俺らの装備について相談したいことが「メンテがしやすくて壊れにくい物にしろ」そうですよね……ありがとうございました!」

「シルビアさん、あなたに依頼が「組合を通せ」ごもっともです。申し訳ない」

「シルビア様!私を銀の銃弾(シルバーバレット)に入れてく「他のメンバーに言え」ご、ごめんなさい!」


 一つ一つ話しかけられたことに対応していると日が暮れてきてしまったので

「全員、帰れ。今から装備を取りに行く」

 とだけ言うと人が水を割るかの様に別れて俺を見送った。

 工房に到着し、ハイリウスから装備を受け取り、一度二度とボルトハンドルを前後し

「いい仕事だ。次も頼む」

 とぽつりと呟けばハイリウスは別れ際に言葉をかけてきた。

「あの、あたし、ちゃんと工賃貰えたのが、初めてでその、ありがとうございました!」

 俺はハイリウスを流し目で見ながらこう返した

「気にするな。仕事を全うすればいい」


 乗合馬車に乗って家路に就く。

 馬車に乗りながら思考する。

 俺は、なんの為に冒険者がしたかったのか。

 妹のため?人の笑顔を見るため?仲間の目的のため?どれかわからない。

 なら、ならば、全てが理由ではいけないのだろうか。

 きっと、これが一番良いはずだ。人を失ってから後悔するのはもう二度とごめんだ。


 家に着き、クリスに密かに買っていたお土産のお菓子を渡すと満面の笑みで笑いかけてくれた。

 __目は笑っていなかったが。

「兄さーん?これはー?こんなものに無駄なお金使ったんですかー?兄さんはバカですか?……でも、そんな所が大好きですよ」


 やっぱり、俺は妹の為だけに冒険者するわ。

クリスちゃんみたいな妹欲しい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ