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第一王女アイラ

「あの、ユーイチさん平気ですか?」


 とても心配そうな表情でリィンがそう聞いてきた。とりあえず俺は何とか笑みを作り平気と返す。しかし相変わらずリィンやシルヴィアの表情がすぐれないところを見るに、上手く笑顔を作ることに失敗したらしい。


 ちなみに愛梨は愛梨で心配そうな顔を浮かべながら気まずそうにするというとても器用なことをしていた。別に愛梨のせいというわけではないが本人にそれを言ったところで気休めにもならないので、一刻も早く頭を働かせるべく意識を第一王女に向ける。しかし相変わらず切り替わらない頭に毒づきたくなる気持ちを抑えながら、俺たちは第一王女アイラの屋敷へと歩を進めるのだった。





 あの夜俺が彼女たちに伝えた作戦は単純、第一王女であるアイラに直接会って鎌をかけるというもの。もし仮にアイラがこちらの話を盗聴器か何か使って盗み聞きしていたのであれば、あったときに足元を見る可能性は十分高い。それにもし盗聴していなくてもシルヴィアの護衛に俺たちが付いたという話をすれば何らかのリアクションは取るはずだ。分かりやすいサインを出してくれるとは思えないがそこはもう何度か会う中で見極めるしかないだろう。


「あの~……、着きましたよ?」


 ぼーっと今日の段取りを考えているうちにどうやら着いていたようだ。本当にこんな状態で賢いと噂のアイラ姫の一挙手一投足を中止することが出来るのか不安になってきた。………………いや駄目だ、こういう時こそポジティブに行こう。


「よし! じゃあみんな行くぞ!! アイラ姫の悪行を暴くんだ!!」


「違いますよ!? お姉さまが犯人なのか確かめるだけですよ!? というかお姉さまの屋敷の目の前で大声でそんなこと叫んでどうするんです!?」


 ヤバいつい本音が……。でも残虐で狡猾ってどう考えても悪役ポジションだし扱い的には妥当ではないだろうか。


「悠一君、リィンちゃんと一緒にここで待っててくれてもいいんだよ? 私一応頑張れると思うし……」


 愛梨が思いっきり気を遣っていた。立場的に非常に情けない。なので、


「いや、流石に俺も行くよ」


 すると一瞬彼女の中で葛藤があったようだが、


「悠一君がどうしてもって言うなら止めないけど……」


 最終的には渋々折れてくれた。ここで面子が保たれたことに真っ先にほっとしてしまうあたり自分でも器の小ささを痛感するが、元からの性格なのでその辺りは諦めている。チート級の能力持たされても器の大きさは残念ながら変わらないのである。




「何そこでこそこそしているのかしら?」




 俺達が門の前で作戦会議をしていると、門をはさんで向こう側に一人の女性が立っていた。髪の色は銀髪で目の色は青、そして髪の隙間から尖った耳が見えている。間違いない、彼女こそが第一王女アイラだ。ただ容姿はかなり似ているものの、立ち振る舞いは大分違う。アイラ姫はなんというか動きに一切無駄がない。素人目から見てもかなり綺麗な動きだった。歩き方とかいろいろ大雑把なシルヴィアとは同じ王女として括っていいのかというくらいには違う。


「すみませんお姉さま、ご無礼をお許しください。彼らはアデル国からいらした……」


「知ってるからいいわ。昨日お父様から聞いたもの。それより話が長くなりそうだから上がって」


 そういうと彼女は屋敷の入り口に向かって歩き出した。俺達もすぐについて行こうと歩き出し……、


「…………なさい」


 小声で何かぼそっと言うアイラ姫。俺はなんだろうと思い聞き返そうと、一歩踏み出し、





  「靴脱げっつってんだろうがボケ共がァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」





 あまりの迫力に即座に靴を脱ぐ俺達だったが、今の言葉がアイラ姫から放たれたものだと理解するまでに数秒の時間を要した。しかし俺たちが靴を脱ぐと打って変わって彼女は先程までの上品な立ち振る舞いに戻っていた。


「こっちよ」


 そのまま彼女は屋敷の中に入る。俺達も後に続いて屋敷に入り、急に天井からスプレーのようなものが吹き出した。やられた! 毒ガスだ! 俺は瞬時に回避するためバックしようとしたが、


「十秒止まっていろ馬鹿者!!」


 またしてもアイラ姫から怒声が聞こえてきた。ギャップの激しさに恐怖のあまり全員身をすくませる。成る程第二王女もこれで殺したのか……。ギャップによる恐怖で縛り付け、致死量になるまで毒ガスを浴びせ続け……、あれ? なんでアイラ姫まで浴びているんだ? しかもなぜか恍惚の表情を浮かべている。毒ガスに快感を感じる危険人物なんだろうか。


「いいわ。これで外からの雑菌はある程度排除できたはず。それじゃあこっちに来て」


 どうやら今のは毒ガスなどではなく、除菌スプレーだったらしい。アイラ姫は俺たちに背を向け廊下を歩きだした。俺は彼女がこっちを向いていないことを確認し、小声でシルヴィアに話かける。


「なぁおい。アイラ姫のどこが残虐なんだ? 残虐というかどっちかというとヒス起こしてるだけの気がするんだが……」


 するとシルヴィアは何やら少し困ったような顔をし、


「私もあまり話したことがないのでよくわからないんですがその、部屋に入ってきた蝶を躊躇なく潰したり、飼い猫の毛を全部剃ってしまったりということがあったらしくて……」


 そこまで聞ければもう十分だった。愛梨と顔を見合わせお互い頷きあう。うん、これはもう間違いない。彼女は残虐な人間などではない。日本にも数多くいたタイプだ。


「ただの潔癖症ですね間違いない」


 なーにが残虐だ。確かに動物愛護団体から見りゃ虐待かも知れないが、毛が落ちて部屋が汚くなったりするのが嫌だっただけではないか。


「どうかしたのかしら?」


「いえ、別に」


 正直そう答えるしかない。だってすでに一度殺せたはずのタイミングで俺たちを殺さなかったわけだし、その時点で既に疑う気力をなくしかけている。とりあえず俺はアイラ姫に勧められるまま席に着き、恐らく犯人が別にいることを念頭に置きながら話を進めることにした。


「ええ、改めて……」


「自己紹介する必要はないわ。先ほども言った通りよ。私はあなたたちの事をお父様から聞いている」


 出鼻をくじかれたおかげで話しづらいことこの上ない。が、ここであきらめて話を終わらせるわけにもいかない。


「えっとその、今日来た目的なんですが……」


「シルヴィアが護衛引き連れてきたところを見たらわかるからそれもいいわ。どうせ私が犯人だとでも思っているのでしょう?」


 筆談の意味一切なかったようだ。それならそれで都合がいいと言えばいいか。


「ああ、俺たちはお前が犯人だと疑っている。頭の回りも速いって言うしな」


「ちょっ!?」


 愛梨がこちらにとがめるような視線を送ってきたが、こうなった以上下手に隠すより手の内をさらけ出して相手の反応を確認するのが一番手っ取り早い。それに多分こういう言い方をしたところでコイツには響かないだろう。


「そうね。私は三姉妹の中で最も頭の回転が速いという自負はあるわ。だからそんな私から問題を一つ出してあげる。さて問題よ、王族に最も向いた人物像とはなんでしょう」


 ? 王に向く人物像?


「頭の回転が速い人間……か?」


 しかしアイラ姫は微笑を浮かべながら首を横に振る。そして、


「答えは無欲で無能な人間よ」


「………………………………………」


 思いつかなかったが納得は出来る答えだった。確かに人を動かす立場の人間は自分から動いて下の者の仕事を奪ってはならないし、かと言って権力を振りかざす人間が上に立っても下はそっぽを向くだけで着いてこないからだ。


「だからはっきり言って欲と名声にまみれたグレイシアも、頭の回転が速く有能な私も王には向いていないわ。器じゃないもの」


 けれど、とアイラ姫は続ける。


「あなたは別よシルヴィア」


「え?」


 シルヴィアはいきなり話を振られて驚いたような表情をしていたが、アイラ姫はそんなシルヴィアの様子など気にせず話を進めていく。


「シルヴィアは行動力はあるけれど、それは純粋で浅はかな性格から来るものよ。だからこそあなたは向いている」


 酷い言われようだ。ただ共感できてしまうところが数多く存在するので否定できず、結果黙り込むしかない。


「けれどアマダの国王。私同様あなたにも国王は向いていないわ」


「な!? ユーイチさんが欲まみれって言いたいんですか!?」


 リィンが我慢ならないと言った様子で食い付くが、俺と愛梨は相変わらず黙ったまま。何故ならそれは昨日愛梨からもされた話だからだ。そしておそらくアイラ姫が言おうとしているのも同じことだろう。


「欲じゃないわ。アマダの国王は賢すぎるのよ。リスクとリターンの管理がうますぎる。だからこそ出来ることは自分でしてしまおうとするし、それこそがあなたの最大の弱点。よく言えば有能、悪く言えば潔癖と言ったところかしら。まぁ要するに何がいいたかというと」


 そこまで言うと、彼女はこの話はこれで終わりというように言い放った。






             「あなたに王は向いていない」

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