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一旦国王やります

「皆の者、よく聞け!! 今日を持って余はこの国の王を降りる!! 同時に余は次の王に隣この男、ユーイチ・アサノを指名する!!!」


 城攻めが終わって一息ついたころ俺は目を覚ました王に取引を持ち掛けた。その取引とは今ここで殺さない代わりに俺に国王の座を譲れというもの。もうこの城で俺にまだ再戦を挑もうと思っている奴はそれこそアレックスくらいしかいないだろうし、反旗を翻される可能性も低い。であればコイツを追放するのに一番手っ取り早い方法は俺が王になってしまうこと。


 ただし勿論俺はずっと王でいるつもりはない。後釜が見つかるまでのその場しのぎだ。見つかったらそいつに国王を任せて俺たちは再び旅に戻ればいい。


 というかアレだな。こいつら歓声上げてるけど都市部には特に税金負担してなかったんだよな? それなのにこのやめて喜ばれるって求心力無さ過ぎではないだろうか。


「これでいいかの?」


 ぼーっとそんなことを考えていると、元国王はおずおずとそんなことを聞いてきた。


「ん。ああご苦労さん。もう用は済んだし、さっさとどっか行け」


 そのまま俺はしっしと手を振る。それを見た瞬間、奴は体型からは想像もできないようなスピードで走り去っていった。余程俺から逃げたかったのだろう、全く最後まで情けない。が、これで後は俺の好きなように改革できる。


「ああ、今日から国王になりました浅野悠一です。これからしばらくの間アデル公国の王として公務を果たさせていただく所存です」


 前置きはこんなもんでいいだろう。ではそろそろ本題に入ろうか。


「さて、私が国王になった以上今までの制度のいくつかは撤廃させていただきます。その一環として手始めに、」


 そこで俺は息を吸い込み言い放った。




「あなた方都市部の住民にも税を負担させます」




 突如町中が怒号に包まれた。今まで税負担などさせられていなかったところに、急に税負担をさせると言われたのだから、まぁこうなるのは予想は付く。だが、


「黙れ馬鹿ども!!」


 俺は国民を一喝した。


「不満があるならばこの国から出ていけ。税も払わず甘い蜜だけを吸い続けるごくつぶしに居住権を与える気は一切ない」


 税金を払わない、売り上げを譲渡しない、ただ国王に多少のわいろを渡して見逃してもらう、そんな典型的な越後屋気取りを許すつもりは一切ない。人でありたいなら努力をしろ、こんな当たり前のことすら分からないような人間を介護する必要などどこにもない。


「国益を生まない国民は国民に非ず! 税負担の規定は3日以内に公開する!! 従わぬものには強制的に追放措置を取るため覚悟しておけ!!!」


 言いたいことは全部言ったのでそのまま城の中に戻っていく。都市部は相変わらず喧騒に包まれていたが、人々の間にあったのは反感ではなく戸惑いと焦り。こちらが本気であると分からせられただけでも収穫だろう。それよりもどう税を負担させるのかが問題だ。あんまりやりすぎても余計な反感を買ってしまうし……。


「あの、すみません……。私たちはどうすれば……」


 と、税金のことで頭を悩ませていると部屋の奥の方からそんな声が聞こえてきた。見てみるとそこにいたのは様々な種族の美女たち。一瞬何だこれはと思ったが、すぐにリィンから聞いた話を思い出した。しかし困った、これはどうするべきか。彼女たちはあの男の被害者であるし、このままもう一度貧民街に戻れというのも酷な話だ。となると、


「君らの問題は税金とかその他の制度の取り決めが終わるまで放置で。それまでは今まで通りこの城で過ごしてていいから」


 俺がそう言うとあからさまにほっとした表情を浮かべていた。このまま出て行けと言われた時のことを考えると心配だったのだろう。ここである種監禁のような状態にあった彼女たちにとってそれは死刑宣告に他ならない。


 彼女たちの次の受け入れ先の問題は時間が何とかしてくれることを祈ろう。それよりも今は行かなければならないところがある。俺はそのまま王の間を出て階段を降り、そして街へと繰り出すのだった。




「全くキミって想像もつかないことばっかりしでかすよね」


 言いながらジト目の愛梨。城を出た俺が真っ先に向かったのは愛梨たちのもとだった。理由は勿論戦勝報告だが、当の愛梨はご機嫌斜め。いや旅をするって言われてついてきてみたら、今度は何の相談もなしに王になりましたなんて言われればそりゃ腹の一つも立つよね。うん、ほんとに申し訳なさしかないです。


「ま、まぁまぁ。ユーイチさんも命を懸けて戦ってたわけですし……」


 そんな愛梨とは対照的にこちらをフォローしてくれるリィン。だが、


「いやリィン、これに関しては言い訳のしようがないほどに俺が悪い。一言言っておくべきだった。謝って済む問題でもないが申し訳ない。もしいやだったら飯島たちの所に……」


「却下」


 冷淡な口調で一言。ですよねーとしか言えない。今更戻ったところで魔王と戦う訓練をずっとしていたあいつらに混ざるのは難しいだろう。間違いなく浮くし、何より愛梨自身気まずいだろう。


 しかし愛梨はため息をつくと、


「もういいよ。旅をするって言いだした時点でどうせなんかやらかすだろうなとは思ってたし。まさか王になるとは予想してなかったけどさ」


 とてもよくわかっていらっしゃる。普通なら丸二日くらい口を利かれなくても文句を言えないレベルの話である。愛梨の度量の広さには感謝しかない。


「で、さっき税金がどうたら言ってたけどどうするつもり? まさか適当に課税する気じゃないよね?」


 感謝していたら痛いところを突かれた。適当な課税なんかしたらそれこそ反感の元、俺も先程から頭を悩ませていた点だ。


「あの……、それなら私お役に立てるかもしれません」


 情けないことにいい案が浮かばず、頭を抱えているとリィンがぽつりとそう言った。


「ん? そうなのか?」


 俺がそう聞くとリィンは少し身を縮め、


「あ! 余計なお世話だったかもしれません……。その、すいません……。この国の税の掛け方とかは貧民街育ちなので一応わかっているというだけですので、その……」


 リィンの言葉を受けて少し考えこむ。そして、


「よし! 今から覚えてる範囲でいいから税制度について教えてくれ!! もしかしたら何かヒントが見つかるかもしれない!!」


 そう言って俺は二人を引きつれ元来た道を戻るのだった。

ついに政治始めました

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