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鋼鉄の四肢

「ハハハ! 君にはそれしかできないのかい!?」


 言いながら鉄の拳をこちらに向けて放ってくる。かがむことでそれをやり過ごし再び塩酸を飛ばすが、効果は相変わらずない。


「無駄だよ無駄! 最早君はこの私、アレックスに殺される以外の未来は残されていない!!」


 腹は立つが、コイツの言っていることは正しい。物理攻撃も聞かなければ塩酸も効かない。ニトログリセリンで爆発も考えたが、効くかどうか怪しいし、何より城内で使えば俺自身が生き埋めになってしまう可能性まである。このまま避け続けているだけでは体力のない俺の方が明らかに不利、集中力が切れた瞬間に確実に奴に殺される。


「さっさと溶けやがれ!!」


 足を狙って集中攻撃しているが、流石に人の足程質量のある鉄だ、ずっと塩酸の中に浸すでもない限り退席を減らすことすらできない。


「ちょこまかと鬱陶しいなぁ。悪あがきなんてせずにもう終わりにしない?」


 そう言うと奴は近くにあった柱をつかみ、そのまま引っこ抜いた。ってちょっと待て! 廊下でそんなもん振り回されたら逃げ場がない!


「終わりです」


 そのまま奴は柱を横なぎにした。もう四の五の言っている場合ではなさそうだ。覚悟を決め俺はスキルを使用、


「爆ぜろ!!」


 そのままアレックスに投げつけた。そして直後に起こる爆発。廊下の一部が完全に吹き飛んだ。しかし、


「あー今のは効いたねぇ」


 ところどころ黒くなり、肩のあたりにちょっとした穴のようなものが開いているが、奴はほぼ無傷だった。いくら威力抑え目にしたからと言って、その程度の傷で済むのは真面目に勘弁していただきたい。


「さてさて、その爆発も効かなかったけどまだ何かあるのかい?」


 最後の切り札まで封じられた以上もう勝ち目はない。ここはもう撤退するしか……、


「ん? お前その中空洞なのか?」


 肩のあたりにわずかながら開いた穴。しかし本来なら鉄で出来た筋肉などが見えていなければならないところには、それらの代わりに空洞のようなものが広がっていた。


「ああ、私のこの能力は全ての細胞を鉄の組成に使うからね。無論2分もすればこの穴も元に戻るけど」


 つまり二分の間穴は元に戻らないということだ。けれど塩酸では効かない。奴を溶かしきれるほどの量を注ぎ込めないからだ。ならば、


「じゃあ再開といこうか!!」


 アレックスが迫ってくるのが見える。だが、俺にはもう攻略法が見えている。


「ああ! 軽くひねりつぶしてやるよ!!」


 そして俺はアレックスに向かってそのまま突っ込み、そのまま赤い液体を奴の肩の穴めがけて打ち込んだ。


「体内に入れたのかい!? 無駄だよ無駄!! その程度の量じゃ私の足すら溶かせないよ!! 色が変わっただけで勝てると思うな!!」


 そう、溶かすことはできない。だがアレックスは忘れている。自身の体が何で出来ているかを、そして消化液は赤くは染まらないことを。


「あ、あれ? おかしいな足に力が入らない……?」


 戦闘が再開され、さらに五分が経過したころ、ようやく奴の体は蝕まれ始めた。効果が表れ始めるのが予想以上に早かったのは幸運以外の何物でもない。もう立てないほどまで来ているのかそのまま奴は崩れ落ちる。


 ここまでくればもう決着だ。そのまま俺はアレックスに近づく。そして、


「なぁ、知ってるか? 鉄って酸化するんだぜ?」


 奴の体が空洞だと聞いた時からずっと俺はこれを狙い続けていた。確かに空気中に鉄を晒すことで行われる程度の自然な参加であればこんな事態には陥らない。普段人の体で活動しているのであれば、酸化されてもまた皮膚は回復するのだから。


 しかし、しかしもしここに酸化剤での酸化という条件が加わればどうなるか。塩酸で鉄を溶かすのが難しくても、酸化剤で酸化を促進するのは難しい話じゃない。ただでさえ鉄は酸化による劣化が速いのだから。


「お前が警戒しなかったあの赤い液体。あれはニクロム酸カリウムって言って酸化剤の中でも強い方だ。それを鉄の体内に入れ続けられたらどうなるか、お前は身をもって体感したはずだ」


 こいつの最大のミスは自分の実力を過信して遊んだこと。もしそれが無ければこの戦い、俺が負ける可能性は十分にあった。


 けれど、もうそんな言い訳をしても遅い。俺の勝ちは揺るがないのだから。


「じゃあな負け犬。あんた実力はあっても雑魚だよ」


 そう言い残し俺は王の間へと走り出した。


「クソ! クソォ!!! クソォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」


 後ろから怒りのこもった叫びが聞こえるが止まりはしない。王の間へはもうあと少しだ。そして勢いのまま俺はドアを蹴破り、




「悪かった!! 余が悪かった!!! 頼む、見逃してくれ!!!!」




 そこにあったのは情けなく土下座し命乞いをする一匹の豚の姿だった。え、何? こんな情けないのがこの国の国王なの? しかしそんな俺をよそに、王(?)はさらに命乞いを続ける。


「王になって国を束ねる立場になってちょっと調子に乗ってしまったと言うか! いやホントにすまない!! あ、どうじゃ!? 余には美しい妻が大量にいるぞ!? もし見逃してくれるというのであれば数人お主の妻にしてやらんでもない!! それともお主は国土や権力が望みかの!? それなら……」


 ああ、俺は最早天を仰ぎたかった。こんなやつを倒すためにわざわざ今日一日時間を割く羽目になったのかと、豚一匹のために何戦も何十戦もしたのかと。俺は怒りを通り越して最早脱力感さえ感じ始めていた。しかし王は相変わらず空気を読む気はないらしく、


「あ、そうじゃ。そういえばリィンとかいうケットシーがいたな。アレなら余、手を付けてないし上玉じゃしでお主も満足するのでは?」


 もう我慢の限界だった。俺は言葉を聞き終えたと同時に王に向かってダッシュ、そして、




「一遍人生やり直してきやがれこの無能メタボがァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」





「ゴブォォォォォォォ!!!!!!!????????」


 いくら攻撃力が他ステータスに劣ると言っても、流石にレベル54の加護ありステータス。運動不足にこの一撃が耐えられるわけもなく、王はそのまま壁に激突した。一応意識があるか確認するために近寄ってみたが、思いっきり白目をむいていた。もう完全に意識は飛んでいる。


「ああ……、ほんとに疲れた……」


 そして俺はその場に座り込み、少しの間休憩を取るのだった。




 こうして俺の初めての城攻めはたった三時間というとんでもなく短い時間で幕を閉じた。運の要素もあったことにはあったものの、圧倒的な人数差をひっくり返したせいで俺の名は世界全土に知れ渡ることとなった。お陰様で後にこの戦いは神話として未来永劫語り継がれることになるのだが、今の俺には知る由もないのであった。

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