手紙
「お話し中に申し訳ありません。涼様、お手紙を預かって参りました。」
「ああ。ありがとう、渚。」
(…手紙か。)
誰からだろうか?
受け取った手紙の封を開けてみる。
(………。)
手紙の差出人は兄上の主治医だった。
だとすればこれは僕にとって最後を告げる内容のはずだ。
(…猶予は一日、か。)
僕が自由に動ける時間は残り僅かしかないらしい。
「唯も読んでみると良いよ。」
「あ、はい。」
手紙を読み終えてから唯に手紙を差し出したんだけど。
「………。」
手紙を読み進める唯の表情が徐々に暗くなっていくのがはっきりと感じられる。
どうやら唯も状況を察してくれたようだね。
「兄上は明日の午後に退院できるらしい。」
「「「「………。」」」」
僕が説明したことで再び沈黙が訪れた。
兄上の復帰。
それは僕の失脚を意味するからだ。
「これで僕の役目は終わる。何もかも…。」
「本当によろしいのですか?」
ええ、もちろんです。
「最初から覚悟していたことですから、仕方ありません。」
「ここで身を引けば死に等しき処罰となりましょう。」
…かもしれませんね。
「だから全てを受け入れて姿を消すつもりです。」
「本当に…全てを捨てるおつもりなのですか?」
ええ、そのつもりです。
「国王の地位は僕には荷が重過ぎます。だから例え全てを失うことになっても僕は自由でありたいです。それがわがままなのは分かっています。ですが不動さんが僕の命を狙っている以上はここに留まることなんてできません。」
「時雨は我々で何とかします!涼様がお気にする必要はありません!」
「…ふんっ。それは聞き捨てならんな。」
(…えっ?)
「なっ!?」
杞憂さんが慌てて振り返る。
僕や他のみんなも周囲の警戒を始める中で、
杞憂様の発言を遮った4人の男が謁見の間に入ってきた。
(…誰だ?)
「何者だっ!?」
突然の侵入者に真っ先に反応した幻夜さんが錫杖を構える。
だけど侵入者達は顔色一つ変えずに僕達に歩み寄ってくるんだ。
「まずは挨拶をしておこうか。」
(…ん?)
堂々とした態度で近づいてくる男の顔にはどこか見覚えがあるような気がした。
(この人は…。)
いや、彼に限らず、4人の侵入者の全てに見覚えがあるんだ。
(…ま、まさかっ!?)
僕が気付くのとほぼ同時に、
杞憂様も気づいた様子だった。
「お前達は時雨の従者か!」
やっぱり、そうなのか。
見覚えがあって当然だ。
僕とはほとんど関わりがないけれど、
僕達の教育から外れた不動さんが独自に集めた仲間が彼等のはず。
「どうやら覚えていてもらえたようだな。ならば話は早い。我等は時雨様の配下であり、時雨様の考えに賛同する者だ。」
(…不動さんの考え?)
だとすれば彼等は知っているのだろうか。
どうして不動さんが王城を襲撃したのかを。
そしてどうして僕達と敵対する道を選んだのかを。
「改めて名乗っておこう。我等は『鬼道四聖神』。神の名の下に鬼の道を歩む者だ。」
鬼道四聖神?
初めて耳にする名前だ。
(…鬼の道という意味も分からないけれど。)
神の名の下にというのはどういう意味だろうか?
「こ、これは…っ!?」
(…え?)
幻夜さんの声が聞こえたことで視線を向けてみると、
幻夜さんは何かに驚くような表情を見せながら冷たい汗を流していた。
「この気配は、まさかっ!?」
気配?
幻夜さんは何に気付いたのだろうか?
改めて侵入者達に振り返ってみると。
(…なっ!?)
侵入者達の周囲に瘴気が立ち込めるのが見えたんだ。
(…まさか彼等は鬼なのか!?)
7年前に一度だけ戦った悪鬼と同じ気配が感じられる。
「鬼が…4体も…?」
唯も恐怖を感じて怯えている。
声が震えているのがはっきりと感じ取れるんだ。
(…まずいっ!!)
1体でさえ勝てるかどうかわからない相手なのに、
4体も同時に現れたとなると勝ち目なんて到底考えられない。
「さて、自己紹介が終わったところで始めさせてもらおうか。」
「くっ!!」
「どうやら戦うしかないようね。」
…そのようですね。
先頭を歩む男が呟いた瞬間に杞憂様と香澄様が戦闘体制に入り、僕もすかさず飛び出した。




