定時連絡
(…ん?あれは?)
神宮の入口で八雲と別れてから杞憂様のお屋敷に向かうことにしたのだが、
杞憂様の私室に向かう前に探していた人物と遭遇することになってしまった。
(どこかへ出かけるのだろうか?)
これからどこかへ出かける様子に見えるのだが、
こんな早朝から出かける用事でもあるのだろうか。
「おはようございます、杞憂様。ただいま戻りました。」
「うむ、幻夜か。おはよう。無事に戻ってきてくれたのだな。」
「はい。」
今になって思えば地獄谷まで行ってしまったのは無謀だったかもしれないが、
こうして帰ってくることが出来た以上は自信をもって無事だったと言っていいはずだ。
「初めて地獄谷を目にしましたが、まさかあれほど危険な場所だとは思ってもいませんでした。」
「ははっ。まあ、そうだろうな。噂で聞く話と実際に目にした景色は異なるものだ。」
噂と現実は違う、か。
「杞憂様もご覧になられたことがあるのですか?」
「ああ。何度か…な。時雨と共に地獄谷に挑んだこともあったが、あそこはまさしく異界。到底、踏破出来そうにはなかった。」
…ですよね。
頭数の問題ではないのだ。
文字通り魑魅魍魎が蔓延る地獄。
あの場所だけは気合でどうにか出来るような問題だとは思えない。
「幾つか報告したことがあるのですが…。これからどこかへお出かけですか?」
「うむ。少々、王城にな。」
やはり王城か。
だとすれば涼王子との話し合いだろう。
一時的に警備の任は解かれたとはいえ、
現在の状況や今後の予定を話し合うのは必要だからな。
杞憂様が王城に向かうのは定時連絡と言ったところか。
「なんなら幻夜も来るか?」
(………。)
特に用はないのだが、情報を整理する意味はあるかもしれない。
「分かりました。お供させていただきいます。」
「そうか。帰ってきたばかりで疲れているだろうが、それほど長くなる予定はないからな。話は帰ってきてから聞かせてもらおう。」
「はい。」
少々予定が狂うことになってしまうが、数時間ほど睡眠時間が減るだけだ。
この程度ならば問題ないだろう。
「それでは報告は後程と言うことで。」
「うむ。さっそくだが王城に向かって出発しようか。」
「畏まりました。」
まだ知らない情報が聞けるかもしれないからな。
杞憂様と共に王城に向かうことにした。




