変わらぬ忠誠
《サイド:????》
外法によって意識を失ってからどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
気になることは沢山あるものの。
目が見えず、音も聞こえない状況では自分の状態すら分からない。
(…本当に目覚めるのか?)
時折聞こえていた声も、今では全く聞こえなくなっている。
その理由さえも不明だが、声の主がいなくなったというよりは近くにいるの気配があるのに聞こえないという感じだろうか。
(…いや、違うな。)
聞こえないのではなく、反応がないというべきか。
自分自身に問いかけても意味がないように、声の主に対する問いかけは一方通行で突き抜けていく感じなのだ。
…だとすれば、これが?
統合されたということなのだろうか。
(…ああ、だからか。)
答えを聞かなくても感じることが出来るのだ。
もちろん知識や記憶が受け継がれるわけではないのだが、
思念や感情といったものが俺の疑問を補完してくれていた。
(…分かる。)
魂寄せによって得た力が把握できる気がする。
(…そういうことか。)
声の主が伝えたかったこと。
魂の統合の意味が自然と感じ取れる。
だから、だろうか。
俺は俺でありながらも、自分が自分ではないような違和感がする。
(…意識が、混濁しているのか?)
自分が誰で、どこにいるのかさえも分からなくなってくるのだ。
(…俺は、誰だ?)
決して不動時雨の名前を忘れたわけではない。
だがそうではない自分も確かに存在しているのだ。
(…天照?)
それも間違いではないだろう。
…だが。
そんな些細なことはどうでも良かった。
俺が誰かなど、どうでも良い。
重要なのは目的を達することなのだからな。
たった一つの願いさえ叶うのなら、
不動時雨の名にこだわる必要はないと思える。
(…俺は、俺だ。)
全にして個。
個にして全。
それが俺という存在になったのだ。
(…もはや休息は十分だ。)
自我を手にしたことで体の感覚が蘇ってきた。
(…ようやく動ける。)
手足の感覚を取り戻したことで、
体中の全ての感覚が感じられるようになってきたようだ。
(さあ、目覚めの時だ。)
ゆっくりと瞼を開けて周囲の景色を確認してみる。
(………。)
どうやらここは儀式を行った場所のままのようだ。
予定通り儀式の陣から動かさないでいてもらえたらしい。
だからこそ儀式が成功したのだろう。
もしもここから運び出されていたら、
魂寄せの儀式が失敗して二度と目覚めることがなかったかもしれない。
(…だが、俺は蘇った。)
死の淵から戻ることが出来たのだ。
「さあ、始めよう。」
小さく呟きながら起き上がる。
その瞬間に弟子達の声が聞こえてきた。
「「「「時雨様っ!」」」」
(…ほう。まだいたのか。)
まさかずっと待っているとは思っていなかったのだが、
どうやら4人の弟子達は俺が目覚めるまでずっと見守ってくれていたようだ。
「「「「時雨様!」」」」
懐かしささえ感じる声で呼びかけてくれる弟子達だが、
残念なことにすでに俺は俺と言う存在ではなくなっている。
「我が名は『鬼道』だ。」
不動時雨の意識も残っているが、
今は俺と言う存在を作り上げた要素の一つでしかない。
「お前達が知る不動時雨は我に統合されて別の存在に変わっている。もはやお前達が知る不動時雨は存在しない。」
「「「「………。」」」」
最期まで不動時雨に忠実だった弟子達。
彼等は変わってしまった俺を見ても動揺をあらわにすることはなかった。
「構いません!俺達は時雨様に忠誠を誓う身!例え時雨様が変わられようと、俺達の忠誠が変わることはありません!!」
(………。)
彼等が知る不動時雨は消失してしまったというのに、
それでも彼等は俺に忠誠を誓ってくれるらしい。
「時雨様の願いを叶えるために、これからもお仕えさせていただきます!」
(………。)
何があっても変わることない忠誠。
これほどの想いを切り捨てることなど出来るはずがない。
「その言葉が真実ならば、お前達も魂寄せの儀を乗り越えて見せろ。そして共に世界のゆがみを正すのだ。」
「「「「はいっ!!」」」」」
弟子達に儀式の場を譲り術式を展開する。
その瞬間に4人の弟子達は一斉に魍魎に飲み込まれて一人残らず気を失ってしまった。




