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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
3日目
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森の切れ目

(…ん?物音がする?)



八雲ほどでないが、

確かに前方に人がいるような気配を感じることが出来た。



(話し合いが出来れば良いのだが…。)



少なくとも悪意は感じないからな。


魍魎の類いではないはずだ。



「八雲。」


「ああ、分かってる。」



走るのを止めて気配を隠すことにする。


そしてゆっくりと前方にいる人物との距離を縮めていく。



(…ん?)



再び感じた違和感。


魍魎が巣食う山道は空気が淀んでいるせいか今まで風を感じることなど出来なかったのだが、

前方にいると思われる何者かに近付くほどに澄んだ風の匂いが感じられるようになってきた。



(…風が吹いているのか?)



「どうやら森の切れ目のようだぜ。」



森の切れ目?



八雲の言葉に疑問を感じながらも歩き続けていると、

不意に視界が開けて月の光が感じられるようになった。



(…こ、ここは?)



周囲を見回してみる。


範囲は50メートル四方といったところだろうか。


それほど広くはないのだが、

この辺りだけは地面が荒れ果てていて木々が育たない空間になっていた。



(…地面が焼かれているのか?)



まるで戦闘のあとのような不自然な地形に疑問を感じてしまうのだが、

私が周囲を確認している間に八雲は目的の人物を発見したらしい。



「兄貴、やっぱりいたぜ。」



いた?


誰が?



八雲の言葉が気になって、再び周囲を見回してみると。


なぎ倒された形跡のある木々の裏側に二人の少女が姿を隠しているのが見えたのだ。



「あの子達は!」


「ああ、昨日の二人だよな。」



八雲は二人の姿を凝視している。


おそらく見逃さないように警戒しているのだろう。


対する二人の少女もこちらを見つめながらどうするかを相談している様子だ。



「どうする、兄貴?」



(…どうすると聞かれてもな。)



下手に近づけばまた逃げられてしまうだろう。


だからと言って困ることはないのだが、

こうして出会ったのも何かの縁だ。


出来る限り友好的に接したいとは思う。



「話し合いができると良いのだが…。」


「どうだろうなぁ。無理じゃねえか?」



…かもしれないな。



昨日もそうだったが、すでに少女達は逃げ出そうとしている。


この状況で距離を縮めるのは難しいだろう。



「ここから呼びかけてみるしかないか?」


「聞いてもらえれば良いんだけどな。」



どうだろうな。


私としても自信はないが、

ここで何もしないよりはマシだ。



「…仕方がない。」



最近は心労が耐えないことでどうもやる気が出ないのだが、

ここで逃げられてしまうとさらに面倒なことになってしまうからな。


出来る限り友好的に接してみるべきだろう。



「きみ達は昨日も出会ったな?少し話を聞かせてもらいたいのだが、近付いても良いだろうか?」



返事を聞くまでは動かないつもりで問いかけてみる。


そうすることで敵意はないと示したかったのだが。



「うわわわわわっ!やっぱり昨日のっ!?」


「まさかここまで来るなんて…。」



二人の少女は返事に応えるよりも状況の判断に戸惑っている様子だった。



「心配しなくても敵対するつもりはない。きみ達が望むのであればこの距離での会話でも良い。だからきみ達のことを聞かせてもらえないか?」



無理に近づかずに話を聞こうとしたのだが、

どうやらそれも上手くいかないらしい。



「ど、ど、ど、どうするっ?」


「どうもこうもないわ。彼等の格好を見れば陰陽師なのは一目瞭然。そして二人組の男性ということは不動さんの…。」



(…何っ!?)



「あ、ちょっ!それはっ!」


「…っ。失言だったわね。」



失言?



(どういうことだ?)



少女達は父のことを知っているのだろうか?



「教えてくれ!きみ達は不動時雨を知っているのか!?」


「「………。」」



父のことを聞かせてほしいと思ったのだが、

二人は気まずそうな表情で視線を逸らしてしまう。



「と、とにかくっ。」


「ええ。」



(…まずいっ。)



「八雲っ!」


「ちっ!間に合うか…っ。」



少女達が逃げ出す気配を感じて急いで飛び出したのだが、

距離を縮める前に二人の少女は森の中へと消えてしまった。



(…くっ。また逃がしたか…。)



「八雲…。」


「すまねえ。見失った。」


「…そうか。」



やはり距離があり過ぎたらしい。


50メートルの距離を走り抜ける前に、少女達を見失ってしまっていた。



「やっぱり話し合いは難しいか?」


「…だよなぁ。まあ、親父の関係者なのは間違いなさそうだが。



ああ、そうだな。



私と八雲の顔ではなくて服装を見て不動の名を口にしたのだ。


だとすっれば私達と面識があるのではなくて、父の知り合いなのは間違いないだろう。



(…だとすれば、なおさら理解できない。)



何故こんなところに少女達がいるのだろうか?


もう少し話が聞き出せればよかったのだが、すでに見失ってしまったあとだからな。


いまさら後悔しても遅い。



「どうする?」


「…って、言われてもなぁ。どこに行ったのかなんて分かんねえし、どうしようもねえだろ?」



まあ、そうだな。



少女達を追いかけるのは不可能だ。


またどこかで遭遇できる可能性はあるが、時間的にも体力的にもそれほど余裕がある状況ではないからな。



ひとまず今は当初の目的だけ果たすべきかもしれない。



「とにかく一度、地獄谷に向かおう。」


「それしかねえよな。」



ああ、少女達の捜索は後回しだ。


どういう理由かは知らないが、こんな危険地帯でも死なずに行動していることを考えれば今すぐに追いかけなくても死ぬことはないだろう。



知りたいことは沢山あるが、生きてさえいればまた会える可能性はある。


だがここで無理をしてこちらが死んでしまっては意味がない。



「先を急ぐぞ。」


「おう。」



ひとまず少女達の追跡は諦めて再び地獄谷を目指すことにした。



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