索敵
「急求如律令!」
進行方向を遮る魍魎に狙いを定めて陰陽術を放つ。
「煉獄っ!!」
薄暗い森の中を一直線に突き抜ける紅蓮の炎。
前方に放った炎によって、
進路を封鎖していた魍魎の一部が焼失した。
「今のうちに突破するぞ!」
「おう!!」
索敵を八雲に任せて前方の敵を退けながら魍魎の包囲網を突き抜ける。
そうして六詠山の奥深くまで移動を続けていたのだが、
進めば進むほど魍魎の数が増えて思うように進めない。
「兄貴っ!左から魍魎が接近してくるぞ!どうする!?」
(…ちっ。思っていた以上に多いな…。)
一度に遭遇する魍魎の数はせいぜい数匹程度だが、
それでも数十回に及ぶ連戦を繰り返せば必然的に疲労が蓄積してしまう。
「このままではジリ貧か…。仕方ない。ここは迂回して戦闘を回避するぞ!」
「良し。迂回だな。」
「頼む。」
「おう!任せてくれ。」
ああ、頼りにしている。
後方から追いかけてくる八雲が周囲の索敵をしてくれているおかげで、
幾つかの危険は事前に回避することが出来ているのだからな。
もしも八雲がいなければ、
もっと多くの魍魎に囲まれていただろう。
「それにしてもよく分かるものだな。」
「ははっ。こういうのは直感がものをいうからな。逃げるが勝ちって言うだろ?やばい気配がしたら近付かないのが賢い選択ってもんだ。」
なるほど。
そうかもしれないな。
実際に魍魎がいるかどうかは行ってみなければ分からないが、
八雲が察知した危険を回避することで比較的安全に進めているのは間違いないだろう。
「このまま頼むぞ。」
「ああ、って言いたいところだけど。さすがに瘴気が濃すぎてそろそろやべえかもな。」
(…瘴気か。)
地獄谷に近づくほど瘴気が濃くなっているのは私も気づいていた。
(これほどの瘴気を見るのは例の事件以来だな…。)
かつての鬼の襲撃時にも瘴気が溢れていたのを覚えている。
(やはり瘴気が強まるほどに魍魎も増えていくのか…。)
そういうものだとは聞いていたが、
実際に確認したのは今日が初めてだからな。
いつも以上に緊張感が漂ってしまう。
(このまま無事に地獄谷まで向かえるのだろうか?)
瘴気が濃くなるほど魍魎の数が増えてしまう。
今はまだ八雲の直感で回避出来ているが、それもまもなく出来なくなるらしい。
「そろそろ中腹辺りだろうか…。」
山頂を離れてからそれなりの時間が経っているはずだ。
魍魎との戦闘を極力回避していることもあって、距離としてはかなり進むことが出来ているはず。
「どうにかして現在地が分かればいいのだが…。」
瘴気が立ち込めるこの地域では、
まるで霧がかかっているかのように視界が遮られてしまっていて前方を見通すことが出来ない。
せいぜい5メートル先が見えればいいほうだろうか。
だがそれもしばらくすればさらに視界が悪くなっていくのだろう。
(…もうすぐ夜だ。)
今日は雲一つない晴天だったが、
それでも月明かりがどこまで頼りになるのかは実際にその状況にならなければ分からない。
「こんな状況で、はぐれてしまったら大参事だな。」
「まあ、そうならないように対策してるわけだけどな。」
ああ、そうだったな。
視界の悪いこの地で逸れてしまうのは命取りになる。
だから互いの体を縄でつないで一定の距離から離れないようにしているのだ。
「…ん?あぁ?」
(…何だ?)
何かに気付いた様子の八雲が、
怪訝そうな表情で前方を睨み付けている。
「どうかしたのか?」
「あ、いや…。前方に誰かいるような気がしたんだ。」
(…前方だと?)
地獄谷に近いこんな場所に?
(…まさか昨日の少女達か?)
距離的に考えるとあり得るような気はする。
昨日は追いかけるのを諦めてしまったが、
今日は昨日よりも進んでいるはずだからな。
見逃してしまった少女達に追い付いた可能性は否定できない。
「昨日の少女達か?」
「それは確かめてみないと分からねえが、誰かがいるのは間違いないはずだ。」
「…嫌な気配か?」
「いや、そこまでじゃねえな。」
なるほど。
八雲の直感では危険はないらしい。
「だったら行ってみるか。」
「もしも悪霊だったらどうする?」
「その時は払うまでだ。」
「ははっ。」
戦闘も覚悟の上だと告げてみると、
八雲は楽しそうに笑っていた。
「まあ、兄貴がそう言うなら良いんじゃねえか。何が出るかは分からねえけど、とにかく行ってみようぜ。」
「ああ。」
鬼が出るか、蛇が出るか。
あるいは少女が現れるか。
その答えを調べるために、まっすぐ前方に向かうことにした。




