今回は
蔵を離れたあとで、私と八雲は今日も六詠山に訪れた。
「昨日は良く分からない少女達がいたが、今日はどうだろうな。」
「さあ?どうだろうな。ここに住んでるのか迷い込んだのかは分からねえが、自分達の意志で地獄谷を目指してたわけだからな。単なる迷子ってわけじゃねえだろ。」
ああ、そうだな。
確かに道に迷って困っている様子ではなかった。
もしもそうならこちらに助けを求めてくるか下山するために地獄谷から離れるはずだ。
少なくとも魑魅魍魎が溢れる地獄谷に向かう必要はない。
(…だとすれば、やはりこの地に住んでいるのだろうか?)
そうとしか思えないのだが、
それでも地獄谷に向かう理由が分からない。
(…まさか地獄谷の向こう側から来たのか?)
もしもそうなら地獄谷に向かう理由は納得できる。
だが一級陰陽師が大部隊を編成しても突破できない地獄谷をたった二人の少女が通り抜けることなど出来るものなのだろうか?
「八雲はどう思う?あの二人は恐山から来たと思うか?」
「…かもな。今のところ他に考えられる可能性はねえし、自殺志願者でもなければ地獄谷に向かう理由はねえだろ?」
(…自殺か。)
そういう考えもあるのかもしれないが、
少女達が死を望んでいるようには見えなかった。
むしろこちらを警戒して逃げている様子だったからな。
死を望んでいるのならあれほどまで慌てふためいたりはしないだろう。
「分からないことだらけだが、どちらにしてももう少し調べてみるしかないか。」
「だな。一応今日は戦闘準備も整えてきてるからなんとかなるだろ。さすがに地獄谷まで進むのは不安だが、手前までなら行けるんじゃねえか?」
「ああ、そうだな。」
今日は昨日よりもさらに先まで進むために準備を整えてきた。
武器としての錫杖。
魔よけの札に護符の数々。
八雲は法衣による武装もしているのだが、
私は動きを妨げない軽装にとどめている。
(…情けない話だが、八雲ほど体力に自信がないからな。)
決して運動が苦手というわけではないのだが、
活発な性格の八雲は俊敏な動きを得意としているのだ。
そんな八雲に引き離されないように追随しようと思えば必然的に軽装をせざるを得なくなってくる。
まあ、それは良いのだが。
昨日と同様に六詠山を進むことにしたのだが、すでに何度も往復しているからだろうか。
思っていたよりも簡単に山頂まで来ることが出来ていた。
「すでに夕刻が近いが、今日はこのまま進むか。」
「だな。せっかく武装してきたんだから、一度くらいは地獄谷を見て帰ろうぜ。」
ああ、今回はそのつもりだ。
噂では色々と聞いているが、実際に地獄谷を目にしたことはまだ一度もないからな。
今日は地獄谷を偵察してから王都に帰還するつもりでいる。
「暗くなる前に地獄谷に向かうか。」
「おう!さっさと行こうぜ。」
日暮れまでは2時間程度だろうか。
あまり余裕のある時間ではないが、いずれは通る道だ。
この地での夜間での魍魎との戦闘も経験しておいたほうが良いだろう。
「地獄谷まで突っ切るぞ!」
「おう!」
覚悟を決めて前進する。
八雲と二人で、まだ一度も行ったことがない地獄谷まで行ってみることにした。




