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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
3日目
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太極図

「この部屋では唯一のものだな。」



厳重に保管されている書物に手を伸ばしてみる。



太極図たいきょくず?」



本の表紙にはそう記されている。



「兄貴は知らないのか?それは陰陽師の極意を記した本らしいぞ。」



(…は?)



突然背後から声が聞こえたことで慌てて振り返ってみると、

そこにいたのは八雲だった。



「八雲?どうしてここに?」


「親父と戦うならそれなりに武装したほうが良いと思ってな。」



(…武装だと?)



この蔵には刀剣類や書物しかなかったはずだ。


そして八雲も剣の類いは使えないはず。



「何を捜していたんだ?」


「ここにあるものさ。」



八雲は苦笑しながら隠し部屋にある法衣や杖を指差した。



「まさか先に兄貴が来てるとは思わなかったんだが、兄貴もここにあるものを取りに来たんだろ?」



「あ、いや…。」



ここに気付いたのはついさっきだ。


決してここが目当てで来たわけではない。



「ここには偶然たどり着いただけだ。ついさっきまでこんな隠し部屋があることさえ知らなかったんだからな。」


「そうなのか?俺はてっきり兄貴も知ってたんだと思ったんだけどな。」



兄貴も、だと?



そう言えば八雲はすでに知っていたような言い方だったな。



「八雲は知っていたのか?」


「ああ、知ってたぞ。結構前に暇つぶしできた時に仕掛けに気付いて調べたんだ。」



そうだったのか。



「違いなんて分からなかったんだがな。」


「倉の大きさと部屋の広さが違う気がしたんだよ。で、調べてみたらこの部屋があった。」



ああ、なるほど。



何かが違うと思ったらそういうことだったのか。


最初に感じた違和感の正体は広さの違いだったらしい。



(…さすがだな。)



昔から八雲は勘が優れていて、

こういう細かいことに良く気が付く性格だった。



(…羨ましいことだ。)



出来ることなら八雲の才能を分けてほしいと思うのだが、

互いに無い物を持っているからこそ協力し合えるのも事実だからな。



ここは素直に八雲の話を聞いておこう。



「そう言えばさっき太極図がどうとか言っていたが、これが何か知っているのか?」


「あー、いや、知ってるというか、聞いたって感じだな。」



初めて目にする書物を手に取って問いかけてみると、

八雲は以前の出来事を聞かせてくれた。



「もう1年位前になるかな?初めてここに来た時にソレに気付いて調べてみたんだが、内容はさっぱり分からなくてな。それで杞憂様にソレが何か聞いてみたら『太極図』っていう名前だけ教えてもらえたんだ。」



太極図、か。



「内容に関しては聞いても教えてもらえなくてな。知りたかったら自分で調べろって言われたっきり分からないままなんだよ。」



(…ほう。)



八雲にも分からないのか。



諜報活動を得意とする八雲でさえ分からないとなると、

おそらく私にも把握できない内容なのだろう。



「まあ、嘘か本当かは分からねえけど、全ての陰陽師が最終的に目指すのが太極図を極めることだそうだぞ。」


「太極図を極める?」


「…って杞憂様は言ってたんだけどな。太極を極めし者、天地陰陽の全てを制するってな。要するに太極の極意が示されているってことだろうな。だから太極を記す物として太極図と呼ばれてるんじゃないか?」


「だとすれば、これを読めば父を超えるほどの力をもてるのか?」


「さあな?分かんねえけど、杞憂様でさえ理解できない内容らしいぞ。」


「それほど難しい物なのか?」


「ああ。全くわかんねえ。太極書じゃなくて図と言うだけあって中に描かれているのは理解出来ない意味不明な絵ばかりだからな。その絵を理解できれば太極を理解できるのかもしれねえけど、今のところ読めそうにはねえな。」



(…そうなのか。)



聞けば聞くほど難しそうに思えるのだが、

興味本位で太極図に目を通してみることにした。



(………。)



何だこれは?



八雲の話通り理解しがたい内容だった。



「どうだ?さっぱり理解できないだろう?」


「ああ、これは無理だ。」



一通り読み進めてみるが、

何一つ理解出来そうにない。



(…だが。)



妙な胸騒ぎは感じてしまう。



これは何だ?



言葉には出来ない感情が揺らめく。



(…何かを思い出しかけているのか?)



読み進める毎に記憶の扉が開いていく気がする。



覚えていないはずの記憶が甦ろうとしている感じだ。



ゆっくりとゆっくりと。


記憶残っていない景色が思い浮かんでは消えていく。



(…これは、何だ?)



血塗られた手。


すでに忘れ去られた約束。


あいまいな記憶の中で唯一覚えている言葉がある。



『全てのものに平等に命があり、全てのものに平等に死がある。』


『それ以上でもそれ以下でもなく。』




何だこれは?


どこで聞いたんだ?



思い出せない。


だが、確実に記憶に刻み込まれている。



(…これは、そう。)



おそらく幼いころの思い出だ。


ただ八雲が知らないということは、八雲が生まれていないか、あるいは生まれてすぐか。


どちらにしても物心がつく以前の出来事なのは間違いない。



(…だとすれば?)



自分がまだ2歳か3歳だった頃の記憶なのだろうか。



内容は理解できないのだが、

答えはすでに知っているような、そんな不思議な気がする。



「太極図か…。」


「もしかして兄貴は読めるのか?」


「いや…。内容はわからない。だが何故か知っているような気がする。遠い昔にこれと関わっていたような気がするんだ。もう少しで何かを思い出せそうなのだが…どうしても思い出せない。」


「…そっか。まあ、無理はする必要ねえんじゃねえか。ゆっくりと思い出せばいいし、時間なんていくらでもあるわけだしな。」



ああ、そうだな。



ひとまずこれはしばらく借りることにしよう。



「父との戦いに備えて太極図を借りていく。」


「ああ、それで良いんじゃねえか?とりあえず俺は幾つか使えそうなものを集めてから行くから、兄貴も他に欲しいものがあったら持っていったらどうだ?」



(…他、か。)



捜してみるべきだろうか?



(…いや。)



どれも必要のないものばかりだな。


ついさっきまで、強力に見えていた武具が今では普通にしか見えないのだ。


理由はわからないが、自分には必要ないと感じて部屋に背を向けることにした。



「今はこれだけで十分だ。」


「そっか。」


「ああ。」



考えることが増えてしまったが、

ひとまず八雲を残して蔵から出ることにした。



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