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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
2日目
79/499

最初の仕事

(………。)



どれほどの時間がたったのかはわからない。


もしかしたらたった数分だけだったかもしれないし、

かなりの時間が過ぎていたのかもしれないからだ。



それでも僕は何も言わずに香澄様が落ち着くまで優しく体を支え続けた。



だからだろうか?



僕達の周りからも国王の死を悲しむ人達のすすり泣く声が聞こえてきたんだ。



(みんなが悲しんでくれているんだね…。)



感情を見せて泣き続ける香澄様を冷やかすような人はいない。


それどころか誰もが香澄様と悲しみを共有しているように思える。



(それだけ沢山の人々が父上の死を悲しんでくれているんだ。)



多くの人達が国王の死を悲しんでくれていて、

人前で涙を流す香澄の姿に感動している人達までいる。



そうして流れていく静かな時間の流れの中で、

香澄様もようやく落ち着きを取り戻したようで僕から離れて距離をとった。



「ごめんなさい。もう…大丈夫よ。」


「はい。」



香澄様を元気付けるために笑顔で向き合う。


そんな僕の気持ちが通じたのか、香澄様も微笑んでくれていた。



「そう言えば葬儀の準備でしたね。御神国王の葬儀となれば…。」


「…あ、いえ。」



香澄様には申し訳ないけれど。


今日の目的はそういうことじゃないんだ。



「国王の葬儀は王位を継ぐ者の最初の仕事です。それは僕ではなくて兄上がやるべきだと思っています。」


「………。それは王位を継ぐのは貴方ではなくて、仁王子と受け取って良いのかしら?」


「はい。そうです。」



迷わずに即答することにした。



「父上の後を継げるのは兄上だけだと思っています。」


「逃げ出した者が…ですか?」



(………。)



僕はまだ何も言っていないけれど。


香澄様は父上と母上が殺されたときに兄上が一人逃げ出したことを知っているようだ。



そうなると話したのは杞憂様だろうか?


もしくは事件の関係者に事情を聞いているのかもしれない。



「本来であれば、このようなことを言える立場ではないけれど。現状で言えば誰がどう見ても仁王子よりも貴方が王位を継ぐべきだと私は思うわ。」



(…いえ。)



「王位は第一王子である兄上が継ぐのが正しいのです。国王を継ぐのならば直接的な力よりも政治のほうが大切ですから。それはやはり僕ではなくて兄上がふさわしいはずです。」


「私は政治が全てだとは思いません。人々から信頼されて求められる存在であることが何よりも大事だと考えます。」


「…だとすれば、なおさら僕はふさわしくありません。」


「どうして?」


「今回の事件で不動さんは僕の命を狙ってくるからです。それなのに僕が王位を継げば、望む望まざるに関わらずに多くの人達を巻き込むことになってしまいます。」


「それでは…人々を守るためにこの地を去る、ということですか?」



どうかな。


そんな格好のいいものではないと思う。



「いえ、僕は父上や師匠の仇をとりたいだけです。そのためにはここに留まることができないのです。」



不動さんを探しだして倒すためには王都を離れる必要があるんだ。



「ただそれだけなんです。」


「…説得しても通じないのね。」


「すみません。わがままばかり言って…。」


「いえ、貴方のそういう考えは小春に良く似ているわ。」



(母さんに?)



僕は全く覚えていないけれど、

香澄様は楽しそうに微笑んでくれている。



それだけ母さんのことを愛していたということかな。


ほんの少しでも笑顔が戻ったのは嬉しく思えた。



(…これで良いんだ。)



香澄様には笑顔でいてもらいたい。


僕にはこんなことでしか恩返しができないけれど、少しでも長く笑っていてほしいんだ。



「それでは葬儀の準備とは…?」


「葉漸師匠の葬儀です。」


「ああ…そういうことね。」


「はい。こういう言い方は失礼かもしれませんが、おそらく兄上はそこまで手をまわそうとは思わないでしょうから。」


「ええ、まあ…そうでしょうね。」



香澄様も同じ考えなのか、深々とため息を吐いていた。



「仕方ないわね。葉漸の葬儀の準備は私のほうで進めておくわ。遅くとも数日のうちに行えるように手配するわね。」


「はい。ありがとうございます。」


「お礼なんて良いわ。それよりも陰陽師達の葬儀は命神宮で行うそうね。明日にでも宗徒が門下生を引き連れて死者を引き取りに来るらしいから、そちらは任せておけばいいでしょうね。」


「あ、はい。」


「それと亡くなられた兵士達ですが、さきほど唯様がこられて王城で葬儀を行うと言っていたわ。」


「ええ、そのつもりです。」



唯に関しては予定通りだ。


杞憂様に関しても報告として聞いているから問題ない。


どちらも事前に話し合って決めたことだから僕が関与する必要はないはずだ。



「国王と季更王妃の葬儀は仁王子に使者を出して段取りをつけるように手配しておくわ。それで良いかしら?」


「はい。お願いします。」


「ええ、任せて。随時報告できるようにしておくから、あとのことは心配しなくて良いわ。」


「ありがとうございます。」



仕事を増やしてばかりで申し訳なくて自然と頭を下げていた。



「よろしくお願いします。」


「ふふっ。お礼は良いって言ったでしょ?」


「ええ、まあ、そうなんですが…。」



そういう性格だからね。


お礼を言わずにはいられないんだ。



「それではこれで失礼します。」


「…これからどこに行くの?」


「一度、兄上の様子を見に行こうかと思っています。」


「今はあまり関わらないほうが無難じゃないかしら…?」



(…かもしれない。)



出来ることなら僕も関わりたくないんだけど。


そういうわけにはいかないんだ。



「一応、今後のことを色々と相談しなければいけませんので。」


「それはまあ、そうでしょうけど…。」



香澄様も僕を次期国王にしたいと思っている一人だからね。


あまり兄上に対して良い印象を持っていないのかもしれない。



それに仕方がなかったとはいえ、

国王代理を名乗っている僕が兄上と会えば口論になるのは目に見えているからね。


心配してくれる気持ちは十分に伝わってくる。



「正直に言って気が重いのは事実なのですが逃げるわけにはいきません。一度名乗った以上は最後まで勤めを果たすつもりでいます。」


「…そう。それなら良いけど無理はしないでね?」


「あ、はい。それでは行ってきます。」


「ええ、行ってらっしゃい。」



他にかける言葉が思い当たらなかったのか、

香澄様は控えめに僕を見送ってくれていた。



(まあ、なるようになるかな。)



ひとまず香澄様と話し合ったことで全ての葬儀の段取りは整えたんだ。


あとは兄上と話し合うだけで良い。



(とにかく行ってみよう。)



どうなるかは分からないけれど。


ひとまず兄上に会いに病院に向かうことにした。

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