感情を抑えられない
「お忙しいところ申し訳ありませんが、葬儀の準備を進めるために参りました。」
「…え、ええ、まあ、そうね。」
ここへ来た目的を伝えたことで、
香澄様は真剣な顔つきで頷いてくれていた。
「このたびは大変ご愁傷様でした。」
「…はい。」
「私も親友の一人として…いえ、このような言い方はやめましょう。」
軽く頭を振ってから呼吸を整えた香澄様は、
王子としての僕ではなくて、血の繋がった家族として接してくれたんだ。
「武尊と葉漸は共に大切な仲間でした。だから今回のことは私も残念で仕方ありません。」
司祭としてではなくて、二人の友人として胸の内を明かしてくれている。
「まさかあの二人が倒れるなんて夢にも思いませんでしたが、不幸というものはいつもいつも突然やってくるものですね…。」
ええ、そうですね。
僕もそう思う。
予想外の出来事というのは、本当に突然訪れるんだ。
「本当に…本当に残念でなりません…っ。」
(香澄様…。)
他にも人が大勢いるにもかかわらず、
香澄様は司祭の立場を忘れて素直に涙を流してくれていた。
「あの、二人が…っ。」
(………。)
今まで人前で涙を流すことなんてなかったはずの香澄様が、
僕の前では涙を溢れさせているんだ。
(家族だから…かな。)
父上の子であり、師匠の教えを継ぐ者だから。
そういう理由もあるとは思う。
だけどそれ以上に香澄様にとって僕はたった一人の妹だった小春母さんの子だからだ。
朝倉小春。
御神武尊。
緒方葉漸。
みんなに守られて育てられた僕は、
香澄様にとって唯一心を許せる存在なのかもしれない。
「…ごめんなさい。少しだけ時間を貰ってもいいかしら?」
「ええ、もちろんです。」
「ごめんね…。」
僕が頷いたことで、香澄様は一旦姿を消してから十分ほどしてから再び姿を見せてくれた。
「…取り乱してしまってごめんね。」
「いえ、それほど想っていただけるのなら父上も師匠も喜んでくれると思います。」
いまだに悲しみを隠せないでいる香澄様に優しく微笑む。
ただそれだけで香澄様の気持ちも落ち着いたように思えた。
「ふふっ。ありがとう。」
まだ涙は消えないとしても、
どうにか笑顔を取り戻してくれたんだ。
「まだまだ駄目ね…。涙を見せないようにと思っているのに…。これほどまでに感情を抑えられない自分をもどかしく感じるわ。」
感情を抑えられない、か。
それでも良いんじゃないかな。
「我慢する必要はないと思います。泣きたい時に泣けないことほど悲しいことはないと思いますから。」
「…ええ、そうね。」
僕の言葉がきっかけになったのか、香澄様は再び涙をこぼしてしまった。
「ごめん…なさい。」
人目をはばかることなく僕の体を抱きしめて涙を流す。
そんな香澄様の行動を素直に受け入れた僕は、
もう一度香澄様が落ち着くまで大人しく待つことにした。




