あの父でさえ
《サイド:不動幻夜》
杞憂様が謁見の間で話をしている頃。
私と八雲は馬車に乗って六詠山に訪れていた。
すでに馬車は王都に引き返していったのだが、特に未練は感じない。
あくまでも調査が目的だからな。
帰りは歩いて帰ればいい。
「それはそうと、本当にここにいるのか?」
「ああ、間違いない。」
今朝早く命神宮に戻ってきた八雲の報告によると、
王城を撤退した父は六詠山に向かったという話だった。
「追跡の途中で邪魔が入ったせいで親父の尾行は失敗したけどな。それでも親父の手下どもは発見できたから、どうにかこの辺りまでは追いかけることが出来たんだ。」
(…ふむ。)
八雲が見たという父の配下。
それは父が私達を命神宮に預けた後に集めた4人の一流の陰陽師達のことだ。
彼等は全員が父を崇拝する者達で、
陰陽師最強と名高い父の下で日々修練を積み重ねていたと聞いている。
「はっきりと聞こえたわけじぇねえんだが、どうも親父は負傷してるようで怪我の治療のために恐山に向かったらしい。」
(…恐山か。)
予想はしていたが、やはり父は地獄谷を越えて恐山に到達しているようだった。
「あの親父が負傷したってだけでも結構な驚きだけどな。」
ああ、そうだな。
状況が状況でなければすぐには信じられなかっただろう。
だが涼王子から話を聞いていたことで父が負傷しているのは知っている。
「でもまあ、親父を追いかけるとなると地獄谷を越えないと行けないんだよなぁ。」
「ああ。」
「俺と兄貴だけで越えられると思うか?」
(…いや。)
「まず無理だな。」
「だよなぁ。」
あの父でさえ4人の仲間を必要としたのだ。
それほど過酷な地を二人だけで突破できるとは思えない。
…かと言って。
大規模な部隊を編成して追跡するとなると父も警戒するはずだ。
「最初から地獄谷の突破は諦めている。ひとまず今日は手掛かりとなりそうなものが一つでも見つかれば十分だろう。」
「まあ、そうだな。」
八雲も最初からそのつもりだったのか、
強引に突き進むつもりはないようだった。
「とりあえず周囲を調べてみようぜ。もしかしたら地獄谷を越える方法が見つかるかもしれねえしな。」
ああ、そうだな。
父が通った形跡でも見つかれば、地獄谷を越えられる可能性も出てくる。
「今日は地獄谷の手前まで調査をしてみよう。」
少しでも父に繋がる手掛かりがあると信じて、今日も六詠山を調査することにした。




