今この時をもって
「それでは本題に入ろう。昨夜のことを。」
「ええ、そのことなのですが、正直に言って時雨が何を企んでいるのかは分かりません。」
(…ん?)
そうなのだろうか?
昨夜の時点で幻夜さんは言っていたはずだ。
杞憂さんは何かを知っていると。
そして不動さんが王城を襲う可能性を予見していたと。
だから杞憂さんは不動さんの行動の理由を知っているはず。
「昨日、王城の警備を強化するように幻夜さんに指示を出したと聞いているのですが?」
「ええ、それは事実です。時雨の行動を予測したうえで、ここが狙われる可能性は考慮していました。」
「だとしたら不動さんがここを襲う理由を分かっているのではないですか?」
「いえ、それは違います。王都の内部で時雨が陰陽師としての掟を破ってまで暗躍していることから何かを企んでいるのではないかと判断したまでです。」
不動さんが陰陽師の掟を破ったから?
ただそれだけの理由で王城が襲われると予見できるものなのだろうか?
「本当にそれだけの理由なのですか?」
「………。」
僕の追及によって杞憂さんは僅かに視線を泳がせている。
その行動だけで杞憂さんが何かを隠しているのはすぐに分かった。
「もっと別の理由はあるのではないですか?」
「…やはり、涼様の目はごまかせませんか。」
どうやら本当に別の理由があるようだ。
それなのに杞憂さんは説明を躊躇っているように感じられる。
「何か言えない事情でもあるのですか?」
「いえ、そういうわけではないのです。ただ、『とある事情』によって時雨はこの国を滅ぼそうとしているのではないかと…。」
(…なっ!?国を亡ぼす!?)
「その理由を説明することは出来ません。知れば涼様も道を踏み外す可能性がありますので…。」
道を踏み外す?
どういうことだろうか?
「時雨はこの世界に隠された真実を知りました。そして歪められた歴史を知ってしまったのです。」
歪められた歴史?
「狂った世界を元に戻すためには全てを無に帰すしかない。それが時雨の行動の理由になります。」
「それは一体…?」
「これ以上の説明は出来ません。私自身も全てを知っているわけではないという理由もあるのですが、言葉で説明できるような簡単な話ではないのです。」
説明できないほどの理由?
もしもそれが不動さんの目的だとしたら?
「不動さんは本当にこの国を滅ぼそうとしているのですか?」
「おそらくはそのために秘宝を求めるのではないかと推測しました。」
「ですが、不動さんは秘宝よりも先に父上達を…。」
「その理由までは分かりませんが、王を殺害することに何らかの理由があったのでしょう。」
「その理由とは?」
「申し訳ありませんが分かりません。先程も言いましたが、私も全てを把握しているわけではないのです。」
不動さんが秘宝を求める理由は分かるとしても、父上を殺害した理由までは分からないらしい。
「ただ、時雨は無駄な行動をとらない男です。秘宝よりも王の殺害を優先したということは、そこに何らかの事情があるのではないでしょうか?」
確かに、不動さんは常に最善策を模索する人だ。
意味のない行動はとらない人だからこそ父上の殺害は必要な手段だったということになる。
「理由は分かりませんが、そうしなければならない理由があったのだと思います。」
「ええ、そうですね。」
僕としても異論はない。
だからこそ余計に気になるわけだけど。
杞憂さんでも分からないとなると、あとはもう不動さん自身に確かめてみるしかない。
とは言え、今回は一歩先に秘宝を手にしたことで不動さんの目的を妨害することが出来たようだ。
だけど逆に言えば、秘宝がある限り不動さんは僕の命を狙い続ける可能性がある。
(…だとすると。)
僕が秘宝を持つ限り、不動さんは目的を果たせない。
そして秘宝がなければ今の僕では不動さんを倒せない。
その結果として、この国を守りたいと言う気持ちがある限り、僕は不動さんと戦い続けなければならないということになる。
(やっぱり僕はこの城を出なければいけないようだね。)
ここにいれば再び無関係な人達を巻き込むことになってしまう。
だからそうなる前に一日でも早く城を出て不動さんと決着をつけなければいけないんだ。
「おおよそは理解出来たよ。不動さんは本気でこの国を潰すつもりのようだね。だとしたら早急に対策を整える必要がある。」
「どうされますか?」
そうだね。
「まずは今この時をもって陰陽師達によるの城内の警護を解任する。」
「は?」
「全ての陰陽師の力を持って王都を守ってほしい。」
「で、ですが!それでは城内の警備が手薄になってしまいます!ただでさえ警備の兵が減っているこの状況で陰陽師を出してしまっては、この城を守りきれません!」
ああ、それで良いんだよ。
「大丈夫。不動さんの目的はすでに絞られているからね。」
今回の戦いでいくつか分かったことがあるんだ。
まず最初に不動さんは無関係な人間は狙わない。
敵に回ったからこそ余計に感じるんだけど、不動さんはやっぱりすごく賢い人だよ。
無駄な力は一切使わずに目的の相手と全力で戦えるように力の配分を考えているからだ。
そして現在、城内において不動さんの狙いは僕一人になる。
兄上を放置したうえに唯に目も向けなかったことを考えると、不動さんは秘宝を持つ僕の命だけを狙っているはずだ。
…だけど。
「今回の騒動で僕の命をとることに失敗した不動さんは、次に最大の敵対勢力になる命神宮を狙う可能性が高い。」
秘宝があるから僕の心配は必要ない。
むしろ一級陰陽師が壊滅した命神宮のほうが防衛力に不安を感じる。
「杞憂さんは命神宮を守ることを最優先で考えてください。」
「…本当によろしいのですか?」
「ええ、自分のことは自分で何とかしてみます。」
杞憂様を安心させるために笑顔で頷いた。
「それに不動さんも重傷を負ってすぐに動ける状態ではないでしょうから、当分の間は問題ないと思います。」
「…そうですね。わかりました。この宗徒、命を懸けてでも命神宮を守って見せます。」
「ええ。よろしくお願いします。」
話し合いを終えたことで謁見の間を出て行く杞憂様を見送る。
そのあとで王座から立ち上がった僕は、
今後の方針を考えるために一旦、自室へ戻ることにした。




