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「それでは…。」
気は進まないけれど言われるままに玉座に座ることにしたんだ。
そんな僕の隣に自然と唯が並び立ったことで、
杞憂様は再び臣下としての礼をとってくれた。
「おはようございます、涼様。」
「え、ええ。おはようございます。」
どうにも居心地が悪いけど何事も形式は大事だからね。
お互いに挨拶を済ませてから本題に入ることにした。
「それではまず最初に聞きたいことがある。」
当然、昨日の出来事だ。
「どうしてこんな事件がおきてしまったのかを教えてほしいんだけど、その前に…。」
事件のなりゆきよりも優先して確認するべきことがある。
「不動さんのことよりもまず先に昨夜の戦いでの被害状況を知りたい。」
死傷者の総数と現在の状況確認を済ませるべきだ。
「僕達を守るために戦ってくれた兵士達への対応が最優先だからね。」
「…ふふっ。お兄様らしいですね。」
僕の言葉を聞いていた唯が微笑んでくれている。
そしてそれは唯の後ろで控えている渚や周囲にいる兵士達も同様で、
張りつめていた空気が僅かに緩んだように感じられた。
…だからだろうか。
杞憂様は不動さんのことを聞かれると思っていたようでわずかに唖然としている。
だけどすぐに頭を切り替えて報告を始めてくれたんだ。
「そ、それではご報告を…。」
「ええ、お願いします。」
これで良かったんだよね?
不動さんの話はいつでも聞ける。
だから優先するべきは今回の事件に巻き込まれた兵士達だ。
城や王族を守るためにいるとはいえ、彼らも同じ人間だからね。
家族もあれば恋人もいるはず。
そんな彼らが命を懸けて戦ってくれたからこそ、今も城は存続しているんだ。
だからこそ彼等には感謝すると共に、
出来る限りの謝罪や褒賞を行わなければならないと考えていた。
「被害状況は把握できていますか?」
「ええ、もちろんです。」
調査状況を確認してみると杞憂さんはため息を一つだけ吐いてから説明してくれた。
「残念ながら死亡者の数は150名を越えています。そして怪我人ですが…おそらくは0人です。」
(…え?0人?)
「一人もいないのですか?」
「え、ええ。大変申し上げにくいのですが…。時雨と争った者、その全てが死亡していました。」
そういうことか。
「現時点で生き残っているのは時雨に出会わなかった者か、もしくは逃げ出した者です。」
なるほど。
悔しいけれど、誰も不動さんから逃げられなかったということだ。
「死亡者の内の54名が陰陽師で、残る123名が警護兵になります。そして御神国王と季更王妃に葉漸の3名も加わるのですが…唯一の例外として仁王子だけが負傷しているようでした。ですがあれは時雨が手を出したというよりは事故に近いと思います。おそらく必死に逃げ回っている内にどこかで転んで怪我をしたのではないでしょうか?」
そ、そうだったのか。
てっきり不動さんが怪我を負わせたんだと思っていたんだけど、どうやらそういうことではなかったようだ。
(…そう言えば。)
兄上は父上達が殺害されたのを見て逃げ出したと聞いている。
だとすれば不動さんが手を出す前に逃げ出していた可能性が高い。
(もしもそうなら、兄上の怪我は…。)
不動さんとは無関係ということになる。
「その結果として城内の警護にあたっていた200名のうちの大半が時雨と争って死亡したことになります。」
やっぱりそうか。
出来ることなら全てが嘘だったと信じたかったんだけど、
起きてしまった現実を変えることは出来ないようだ。
(…こうなってしまった以上、出来る限りのことはするべきだろうね。)
一度だけ深々とため息を吐いてから、
すぐ傍に寄り添ってくれている唯に指示を出すことにした。
「悪いけど唯。死亡者の家族に出来る限りの褒賞を頼む。お金で解決できる話ではないけれど、今は他にできることがないからね。」
「はいっ。分かりました。」
真剣な表情で頷いてくれた唯は、渚を引き連れて謁見の間を出て行った。
(これで解決ということはないけれど、ひとまず唯に任せよう。)
謁見の間を出ていく唯と渚の後ろ姿を見送ってから、
改めて杞憂さんに詳細を聞くことにした。
「それで、火事の規模は?」
「火の手は大きかったものの、早期から消火作業にあたっていた陰陽師の活躍によって思ったほど被害はありませんでした。建築の担当者に確認を取ったところ、2ヶ月もあれば改修できるそうです。」
そうか。
その程度で済んだのは不幸中の幸いかもしれないね。
「それでは城下への被害は?」
「そちらも皆無です。時雨は王城だけを狙っていたようですので。」
王都そのものに被害はなかったらしい。
「それでは町のみんなは無事なのですか?」
「ええ、もちろんです。」
そうか。
それなら良かった。
城下の人達を思い浮かべて安堵のため息を漏らしてしまう。
あまり喜べる状況ではないけれど、
必要以上の被害が出なかったのは不幸中の幸いに思えたんだ。




