玉座
自室を出てから謁見の間に向かう。
そうして唯と二人で移動したんだけど、
昨日の影響のせいかいつもよりも人が少ないように感じられた。
(…まあ、当然かな。)
不動さんの襲撃によって多くの兵士達が殺害されてしまったんだ。
そのせいで城内の警備が手薄になってしまっているからね。
いつもより兵士達が少なく感じるのは仕方がない。
(出来ることなら早急に守りを固めたいところだけど…。)
人材の確保はなかなか難しい問題だと思う。
無理にかき集めれば、どこかが手薄になってしまうからね。
国内の各町や村の防衛力を維持しなければいけないことも考えれば不用意な召集は命令できないんだ。
(どうすれば良いのかな…。)
良い案なんてすぐには思い浮かばないんだけど、
悩んでいる間に謁見の間にたどり着こうとしていた。
「お兄様。」
「ああ、分かっているよ。」
色々と考えなければいけないことはあるとは言え、
まずは出来ることから一つずつ片づけていくしかないんだ。
「行こう。」
唯と共に謁見の間に入る。
だけど国王ではない僕は王座に座る必要がないから直接、杞憂様に歩み寄ることにした。
「おはようございます。」
「ええ、おはようございます。」
僕から挨拶をすると、杞憂様も礼儀正しく挨拶をしてくれたんだ。
(…今日は幻夜さんはいないのかな?)
室内を見回してみたけれど兵士達を除けばここには杞憂さんしかいない。
僕の傍には唯がいて唯の付き人である渚もいるんだけど、
杞憂さんはお供を連れていない様子だった。
「涼様。挨拶もよろしいのですが、本日は命神宮の代表として参りましたので形式に乗っ取って王座にお座りくださいませ。」
「あ、いや…。でも、それは…。」
僕としては全力で回避したい行動なんだけど、
杞憂さんは真剣な表情で玉座を指示している。
「どうぞ、玉座へ。」
「いや…でも、王座は…。」
「我ら命神宮の陰陽師は国王の命によってのみ動く組織です。」
(………。)
僕が断るよりも先に杞憂様は話を続けてしまう。
「本日は一王子としての涼様ではなく、国王代理としての涼様にお話すべために参りました。ですので遠慮はいりません。堂々と王座にお座りくださいませ。」
(…うぅ。)
玉座、か。
僕が王座を拒む理由は杞憂様だけでなくて周囲の兵士達も含めた全員が知っているはずだ。
(困ったな…。)
僕が王座に座るなんて次期国王を名乗る兄上が許すはずがない。
だからもしも僕が王座に座ったと知れば、兄上は激しく怒り狂うはずだ。
そんなことは口に出さなくても誰もが理解していることだからね。
だから僕としては絶対に玉座に座るわけにはいかないんだけど。
杞憂様は笑顔で王座に座るように勧めてくる。
(はぁ…。)
わりと本気で悩んでしまうものの。
杞憂様は僕を困らせようとしているわけではないはずだ。
おそらく、国王を継ぐのは兄上ではなくて僕だと考えているんじゃないかな?
例え不動さんが相手とはいえ、逃げ出した兄上と戦って撃退した僕では実績が違うからね。
それだけでも評価の差があるわけだけど、
基本的に兄上は僕と友好関係にある人物を嫌う傾向にあるのも問題だと思う。
最低限の自衛手段として陰陽術を学んだ兄上はすでに命神宮とは距離をとっている。
その結果として僕と唯は今でも杞憂様達と交流があるのに兄上はどちらかと言えば対立的な立場にいるんだ。
そういう事情もあって、命神宮を代表する杞憂様としてはあまり快く思っていないのかもしれない。
そもそも僕や唯に今でも陰陽術を手ほどきしてくれる杞憂様にしてみれば、
陰陽師に理解力のある僕が国王となるほうが心強いはずだからね。
僕が国王になれば命神宮の地位は安泰と共に、親友だった父上にも顔が立つ。
だけど兄上が国王になれば命神宮は小間使いに成り下がることは目に見えている。
だからこそ父上や師匠と同じように僕と唯の良き理解者である杞憂様は何としてでも僕を国王にしたいんじゃないかな。
(…だけど、ね。)
出来ることなら玉座には座りたくない。
国王代理を名乗った時点で兄上が怒り狂う姿が想像できるのに、
このうえ玉座に座ったとなれば国家反逆罪として処刑される可能性まで考えられるからだ。
(…とは言え。)
状況を見て国を出るつもりでいる僕からすれば、結局はどちらも大差ないのかもしれない。
もちろん出来ることなら穏便に出ていきたかったんだけどね。
国王代理を名乗ってしまった以上、どのみち汚名を避けるのは不可能だ。
だったら反逆者の汚名を背負って消えたほうが余計な未練を断ち切れるかもしれない。
(…仕方ないね。ここまで来たらもう覚悟を決めよう。)
ありとあらゆる処分を覚悟のうえで杞憂様の願いを聞き入れることにした。




