国王代理
「父上っ!?」
父上の私室に入ってすぐに横たわる父上を発見して駆け寄った。
(くっ!)
すでに分かっていたこととはいえ、
実際に父上の遺体を目にすると悔しさが込み上げてくる。
(まさか本当に不動さんが…?)
信じられないと思う気持ちと何故と思う気持ちが混ざり合って言葉に出来ない感情が渦巻いていく。
そうして戸惑う僕の視線がもう一人の人物の姿を捉えた。
「は、母上!?」
少しはなれた場所には母上の体も横たわっていたんだ。
(母上まで死んでいるなんて…っ。)
出来ることなら嘘だと信じたかった。
だけど目の前の現実を否定することは出来なくて父上も母上もすでに帰らぬ人になっていたんだ。
「どうしてこんなことにっ!!」
不動さんはどうして父上を殺したのだろうか?
その理由が分からなくて、
ただただ父上の体を抱きしめることしか出来なかった僕に誰かが駆け寄ってきた。
「涼様!ご無事でしたか!」
この声が誰かは確認するまでもない。
「…幻弥さん。」
涙を拭いて幻弥さんに振り返る。
「…どうしてここに?」
「杞憂様の命によって城内の警備を強化するために訪れたのですが…。」
それならすでに手遅れだ。
肝心の警備を行う前に不動さんが襲撃してきたんだからね。
「警備の強化ということは、今回の事件が起こると分かっていたのですか?」
「い、いえ…。分かっていたというわけではないのですが、父が独断で行動して何かを企んでいる可能性があったので、警戒だけはしておこうという話になったのです。」
…と言うことは?
幻夜さんも杞憂さんも今回の襲撃を予測していたわけではなくて、
単純に不動さんを警戒していたということだろうか。
「不動さんはどうして父上達を?」
「分かりません。杞憂様は何かご存じの様子なのですが、私は詳細を聞かされていませんので…。」
…なるほど。
実際のところはどうか分からないけれど。
幻夜さんの言葉を信じるなら、
杞憂さんは不動さんが王城を襲撃する可能性を考えていたらしい。
だから幻夜さんを派遣して父上達を守ろうとしたのかもしれない。
「申し訳ありません。私の力では父には敵わず…。父を引き留めることさえ出来ませんでした。」
(…え?)
「幻夜さんも不動さんに会ったんですか?」
「え、ええ。この場所で、父が御神国王を殺害した直後に遭遇しました。」
そ、そうなのか。
どうやら幻夜さんは本当に父上達を守るために駆けつけてくれていたようだ。
「涼様が来られると分かっていれば無理にでも足止めをしたのですが、さすがに私一人では父と対立しても勝ち目がありませんので…。」
だろうね。
その気持ちは僕にも分かる。
僕だって師匠や仲間がいなければ不動さんと戦えたかどうかは分からないからだ。
それに今でこそ秘宝を持っているけれど。
もしも何の準備もなしに不動さんと敵対していたら、
僕だって臆病風に吹かれて何も出来なかったと思う。
「幻夜さんに責任はありません。僕も不動さんを止められなかったのですから…。」
「は…?それはつまり…ま、まさか父と戦われたのですか!?」
「え、ええ…。どうにか致命傷を負わせたのですが、あっさりと逃げられてしまいました。そして葉漸ようぜん)師匠も…。」
「…そ、そうでしたか。申し訳ありません。私ではとても勝ち目がないと感じて戦うことすらできませんでした。」
「いえ、謝る必要はありません。」
不動さんを相手に一人で戦うのは無謀だ。
それに必要なら引くことも勇気だと思う。
「生きてさえいれば戦う機会は何度でもありますから。」
「…そうですね。そう言ってもらえると気が休まります。」
ひとまず幻夜さんに関してはおおよその事情が理解できた。
まだまだ分からないことは沢山あるけれど。
おそらく幻夜さんも何も知らないんじゃないかな。
恭子さんが城内にいた理由も。
不動さんが暗躍している理由も。
たぶん何も知らないんだと思う。
(…だったらあとは。)
残る疑問は一つだけだ。
「1つだけ聞いても良いでしょうか?」
「あ、ええ。私に答えられることであれば。」
「兄上はご無事なのでしょうか?」
「そ、それが…。さきほどからお探ししてはいるのですが、どこに行かれたのか…。父は見逃したと言っていたので生きていることは確かだと思うのですが…。」
(…そうですか。)
国王と王妃が死亡。
兄上は行方不明で、唯は精神的に休息が必要な状態だ。
この状況では僕が動くしかないのかもしれない。
(…仕方がないか。)
大きくため息をついてから、幻弥さんに指示を出すことにする。
「国王の死亡と第1王子の行方不明。この状況では僕が動くしかないですね。幻弥さん、国王代理として命を下します。城内の全ての生存者を救出しつつ、早急に消火作業を!事態は一刻を争います!」
「はい!畏まりました!陰陽師の名にかけて全力を尽くします!!」
幻弥さんは僕の指示に嫌がる様子なんて微塵も感じさせずに即座に行動に移してくれた。
「お願いします。」
「はっ!」
颯爽と去っていく後ろ姿を見送ってから改めて周囲の状況を確認してみる。
(…国王代理、か。)
これで僕の拘束は確定だろうね。
僕に王座を継ぐ気がない以上は必ず兄上が国王になる。
そうなってしまえば国王の地位を一時的にでも活用した僕のことが兄上は気に入らないはずだ。
おそらく僕が国王の力を使ったことを理由に容赦なく拘束して王子の地位を剥奪すると思う。
(…そうすれば王位継承者は兄上だけになるわけだからね。)
良くも悪くも兄上の思い通りになるはずだ。
…とはいえ。
ただの一王子としてでは軍人ではない幻夜さん達を動かせない。
だから僕は全てを覚悟の上で幻弥さんを動かしたんだ。
「唯と渚は心配いらない。問題は兄上がどこへ消えたのかだけど…。」
ひとまず僕も兄上を探すために消火作業が始まる城内を捜し歩くことにした。




