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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
1日目
63/499

生き残り

《サイド:不動幻夜》

謁見の間を通り抜けたことで、ようやく王室へと到達した。



(…ここだっ!!)



勢い良く扉を破って王室に進入する。



「御神国王!ご無事ですか!?」



国王に呼びかけながら周囲を確認してみたのだが、

最初に見たものは最も恐れていた最悪の展開だった。



「み、御神国王!?」



地面に倒れている人物が誰かなんて確認するまでもない。


一目見れば確信できるからだ。



だが今は、それ以上に警戒する必要がある。


室内にはまだ敵がいたからだ。



「ま、まさか…っ!ち、父上なのですか!?」


「…ああ。」



戸惑う私を見ても父は表情1つ変えずに頷いている。


そしてすぐに笑みが浮かぶのが見えた。



「まさかお前がここに来るとはな…。こうしてめぐり合うのも運命か?それとも…これがお前の答えなのか?」



(…え?)



父は誰に話しかけているのだろうか?


父の視線は私に向いていないのだ。


まるで私の背後にいる誰かに話しかけているような雰囲気がある。



(…まさか、誰かいるのか?)



そんな気配は一切感じない。


それでも背後に振り返って確認してみると。



(…なっ!?どうしてっ!?)



油断していたつもりはないのに、あっさりと背後を取られていたのだ。


その事実に気づいてすぐに逃げるように距離をとった。



「き、恭子様!?」



次々と変わる状況に驚いて、ただただ慌てふためいてしまう。


それなのに恭子様は平然とした様子で周囲の状況を眺めている。



「…思ったよりも来るのが早かったわね。」



(…え?早かった?)



それはどういう意味だろうか。



「…まあ、良いわ。」



悠々と歩み出る恭子様が私の隣に並び立つ。


そして地に伏している御神国王と季更王妃に視線を向けてから小さくため息を吐いていた。



「それで、気は済んだのかしら?」


「…いや、最悪の気分だな。」


「でしょうね。」



(………。)



どういうことだ?



状況が全く理解できない。


だが恭子様に父の行動を咎める様子もない。



「一応言っておくけど、こんなことをしても『あの子』は喜ばないわよ?」


「…だろうな。だがこれで救われる魂もあるはずだ。」


「まあ…そうかもしれないわね。」



救われる魂?


父は何を言っているのだろうか?



「王家が滅ぶことで呪いは薄れる。全てが解決するわけではないが、負の連鎖を止めることは出来るだろう。」


「その代償として今度は貴方が呪われるわよ?」


「覚悟の上だ。そうでなければ、どうして友を殺せようか。」


「…そうね。いまさら問いかけても手遅れでしょうね。」


「ああ、すでに始めてしまったのだ。いまさら後戻りはできない。」


「そう…。だけどまだ、生き残りがいるようだけど?」



(…は?)



生き残り?


確かにこの場に王子と王女の姿はない。



おそらく恭子様は二人の王子がこの場にいないのを見て生きていると判断したのだろう。



「…確かに生き残りはいる。だが目の前で両親が殺されるのを見て逃げ出すような小物に何ができる?」


「逃げた?」


「ああ、そうだ。泣きながら命乞いをして逃げていったぞ。あの程度の男では生かそうが殺そうが大差ない。」



(…馬鹿な。)



この状況で王子が逃げた?



…と言うことは。



おそらく仁王子のことだろう。


涼王子であれば逃げるとは思えない。



「それで、復讐は終わりですか?」


「ひとまずは、な。」


「…涼王子はどうするの?」


「………。」



恭子様の問いかけによって、父の表情が一瞬だけ変わったように見えた。



「涼には自由に生きる権利がある。今回のことで王家を去るならそれで良し。あるいは復讐のために俺に挑むのであれば…その時は相手になるまでだ。」


「…そう。」



恭子様は小さく呟いて、わずかに思考をめぐらせている。


そして小声で話し掛けてきた。



「…幻弥さん。どうやら不動時雨は涼王子を見逃すつもりでいるようね。」



確かに。


そうなのかもしれない。



父の考えは分からないが、

今の発言を信じるなら無理に殺害する気はないように思えるからだ。



「そしてこれまでの言葉が本当なら仁王子は逃げ出して行方をくらませていることになるわ。」



そう。


そこも問題なのだ。



いかに相手が父とは言え、

国王が暗殺された状況で逃げ出すのはどうなのだろうか。



「もしかしたら唯王女もご無事かもしれないけれど、ひとまずこの場に居合わせなかったのは不幸中の幸いかもしれないわね。もしもいれば抵抗して殺されていたでしょうから。」



ああ、そうだな。



涼王子と唯王女がここにいなかったのは良かったのかもしれない。



「それで貴方は…あの人に勝てるの?」



(………。)



答えることはできなかった。


どう考えても勝てるとは思えないからだ。


今は本能的に震える体を必死に押さえ込むのが精一杯だった。



「…まあ、そうでしょうね。」



恭子様は深く追求せずに父に向かって歩み出す。



「とにかく、目的を果たしたならすぐに撤退しなさい。もうここに用はないでしょう?」



(…き、恭子様?)



父を目の前にしても怯えた様子など微塵も感じさせず、

毅然とした態度で言い放つ恭子様がすごいと思える瞬間だった。



「それとも、まだ暴れたりないのかしら?」


「いや、もはや用はない…が、今一度問う。幻夜の存在がお前の答えか?」


「さあ?今はまだ不確定要素が大すぎて判断できないわ。」


「ふむ、そうか。まあいい。それなら今日のところは引き上げるとしようか。」



何故か父は恭子様の指示に従って大人しく引き下がっていく。



(…このままで良いのか?)



もう少し父を問い詰めるべきではないだろうか?


あるいは強引に引き留めてでも話し合うべきなのかもしれない。



…だが。



父の後ろ姿を見つめることは出来ても、引き留める勇気は持てなかった。



(まさか父を恐れる日が来るとはな…。)



あの優しかった父がどうしてこんなふうになってしまったのか?



その理由が分からないままなのだが、

何かを知っている様子の恭子様は国王の遺体に目を向けようともせずに部屋を出ようとしている。



「き、恭子様…?」


「…今の不動時雨にさえおくれをとるようであれば御神国王は器ではなかったということよ。」



(…器?)



どういう意味だろうか?



「あ、あの…っ!」


「………。」



状況が理解できないことで恭子様を引きとめようとしたのだが、

恭子様は立ち止まりこそしたが振り返ることはなかった。



「…何かしら?」


「一体、何がおきているのですか!?」


「言ったはずよ。今はまだ知る必要はないと…。」



(………。)



恭子様は質問に答えずに再び歩き出してしまう。



「恭子様!!」


「………。」



再び呼び止めてみるが、恭子様は気にせず立ち去ってしまった。



(一体、何が…?)



父は何を企んでいるのだろうか?


そして恭子様は何を知っているのだろうか?



分からないこと多すぎる。



(…どうする?)



何からするべきだろうか。



悩んでしまうが、父を追うのは無理だ。


父を追跡していたはずの八雲がどうしているのかも分からないが、

八雲と違って私は諜報活動はあまり得意ではないからな。


本気で姿を隠した父を見つけ出すことが出来るとは思えない。



それに現状では恭子様を追うのも難しい。


こちらは振り切られることはないと思うが、

追いかけても何も答えてもらえないのなら追跡するだけ時間の無駄だ。



(…ならばどうする?)



出来ることは限られている。


国王はすでに死亡していて、

敵はすでに逃亡しているのだからな。



混乱する頭を立ち直らせるためにも、まずは生存者を探すことにしよう。



「少なくとも仁王子は生きているはずだ。まずは王子を探し出して話を聞こう。」



父と恭子様が立ち去って一人残された私も仁王子を探すために王室を離れて城内の探索を始めることにした。


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