東西南北
「どうやら結界の中に入ったようですね。」
ああ、どうやらそのようだね。
最初に異変に気付いた唯が周囲を見回しながら呟いていた。
だけど実際に結界に取り込まれたわけじゃなくて、意識だけが引き込まれたというべきかな。
それでも僕達4人が結界の中に入ったのは間違いない。
「ひとまず道は4つ。それぞれの先に聖獣が待ち構えているはずだ。」
「はい。一つの道に入れるのは一人だけですよね?東西南北に伸びる道のどこを誰が目指すのかは選べますが、一度入ると戻ることは出来ないはずです。」
「ほう。好きな道を行けるのか、ならば対策も考えられるな。」
ええ、そうです。
唯も師匠も気づいているようだ。
「東西南北を守護する四聖獣といえば、どこに何がいるのかは大体分かりますからね。陰陽五行の理において、東と水を司る青竜、西と金を司る白虎、南と土を司る玄武、北と火を司る朱雀。これらが四方を司る四聖獣のはずです。」
「うむ。それぞれの相性を考えれば、多少なりとも勝てる可能性を増やせるであろう。」
ああ、僕もそう思う。
陰陽道には『五行相剋』という法則があるからだ。
火は金に勝ち。
金は木に勝ち。
木は土に勝ち。
土は水に勝ち。
水は火に勝つ。
つまり逆の相性で戦えば不利になるということになる。
「金を司る白虎には火の属性を持つ者が戦えば良いということだったな?」
ええ、そうです。
陰陽師ではない師匠だけど、基本的な知識はあるようだ。
「木の属性を持つ人が戦いを挑んでも、ほぼ勝ち目はないと思います。」
「そうなると誰がどこに向かうかだな。」
「それなら私に任せてください。」
考え込む師匠に唯が自信をもって答えた。
「体を巡る気の色を見れば大体分かります。」
(…え?)
もしかして唯も父上と同じように人の気配が感じられるのだろうか?
「葉漸様は暖かさに満ちた黄色…属性は土ですね。水を司る青竜がいいと思います。」
「ふむ。青竜か。」
「とても澄んだ綺麗な青色…渚の属性は水ね。渚の相性だと火を司る朱雀がいいわ。」
「はい。お任せください。」
「お兄様は燃えるような赤色…属性は火。金を司る白虎がいいかと。」
「…そ、そうか。」
「私は薄い緑色ですので…属性は木。土を司る玄武と戦います。」
(…うーん。)
どうやら本当に気配が感じられるらしい。
いつの間にそこまで成長したのだろうか。
僕は剣術の修行をするようになってから陰陽術を学ぶ時間が減ってしまったんだけど。
唯は陰陽術だけを学び続けていたことで僕よりも気の流れを読むことに長けているようだった。
「知らない間に成長していたんだね。」
「い、いえ…。他にすることがありませんでしたので…。」
やっぱりそうなのか。
決して暇だったという意味ではないだろうけど、
唯は陰陽術だけを学んでいたことで僕以上に成長していたようだ。
「ちなみに、仁お兄様は純粋な白で属性は金です。」
「え?純粋…ですか?」
よほど納得できなかったのか、渚が素直な疑問を口にしていた。
「あ…っ!す、すみませんっ!」
(…ははっ。兄上が純粋か…。)
失言だったと気付いたようですぐに頭を下げて謝る渚だけど。
兄上の属性に違和感を感じたのは渚だけじゃなくて僕も同じだった。
「ふふっ。良いのよ渚。気持ちは分からなくもないから…。でもね?純粋だということは悪でも善でもあるのよ。純粋であるからこそ周りの環境に染まりやすいし、偏った考えになりやすいの。」
「そ、そうなんですか…。」
納得したのかどうかは分からないけれど、渚は何度も何度も頷いていた。
まあ、それはそれで失礼な気がしなくもないけどね。
ひとまず兄上の前でなければ特に問題はないはずだ。
「とにかく行こう。」
渚の反応を見て苦笑しながら進むべき道に歩みを進めることにする。
「方角は分かるかい?」
「はい。私は北に向かいます。」
北側の入り口に立った唯が僕達に振り返って微笑む。
「みなさんも頑張ってください。」
優雅に一礼した唯は、迷うことなく入り口に進んでいった。
その直後に入り口が歪んで消滅してしまう。
「い、入り口が…。」
戸惑う渚をよそに師匠も動き出す。
「わしは東だな。また後で会おう。」
返事も聞かずに行ってしまったんだ。
(…うーん。)
二人とも潔いね。
こうなると僕達も立ち止まってるわけにはいかない。
「僕達も行こうか。」
「はい!」
僕も方角を決めたことで渚も覚悟を決めたようだ。
「僕は西に行くから渚は南を頼むよ。」
「はい。必ず生きて帰りましょう。」
「ああ、必ずね。」
渚を見送ってから僕も入口に入る。
そうして僕達はそれぞれの道へ挑むことにしたんだ。




