第1の仕掛け
あっという間に時間は過ぎて、全ての準備が整う頃には午前零時になっていた。
(…ふぅ。)
ここまできたらもう後戻りはできない。
上手くいくかどうかは分からないけれど、目的を達成するためにはとにかく行くしかないんだ。
「さて…。準備は良いか?」
「「「はい!」」」
葉漸師匠に問われたことで僕と唯と渚は揃って頷く。
「「「いつでも大丈夫です。」」」
「うむ。」
最後の確認も終えた僕達は秘宝を手に入れるために宝物庫に歩み寄ることにした。
(…とは言え、まずは警備兵をどうやって突破するかだけどね。)
宝物庫を守る警備兵達をどうにかしなければ中に入ることが出来ないんだ。
だからここで手間取ると兄上に勘付かれる恐れもある。
(…どうしようかな。)
宝物庫の探索に費やせる時間にも限りがあるから足止めを受けるわけにはいかない。
だからあまり手荒なことはしたくないんだけど、
状況次第では警備兵達に眠ってもらう必要があるかもしれないね。
そんなことを考えながら周囲を警戒しながら進んでみたんだけど、
何故か宝物庫の入り口には誰もいなかったんだ。
(…あれ?)
警備の兵士はどうしたのだろうか?
仮にも国の宝が保管されている場所だ。
警備の兵が一人もいないなんてありえない。
(…うーん。)
適当な理由をつけて通してもらうつもりだったんだけど、周囲に誰もいないようだった。
もしかして父上が手をまわしてくれたのだろうか?
他に思い浮かぶ可能性がない。
(…だとしたら今のうちに行ったほうが良いかな。)
警備の兵が戻ってくる前に宝物庫に忍び込むことにしよう。
「扉を開きます。」
父上から預かった鍵を取り出して封じられた扉を開く。
そしてすぐに覗いてみた扉の奥は、とても城内に繋がっているとは思えないほど暗い洞窟だった。
(…何だか予想とは違うね。)
もっと人工的に整備された通路が広がっていて迷路のような場所なのかと思っていたんだけど。
どうやら元々あった洞窟をそのまま利用しているようだ。
「この洞窟が宝物庫に通じているということかな?」
たぶんそういうことだと思ったんだけど、
どうやらその予想さえも間違っているらしい。
「いや…。一見、天然の洞窟のようだが、これは人工的に造り上げた物だな。」
(…え?)
そうなのだろうか?
僕には良く分からないんだけど、師匠は確信している様子だった。
「おそらくは迷いやすくするために意図的に造形しているのだろう。」
ああ、なるほど。
確かに整備された通路よりも薄暗い洞窟のほうが方向感覚が狂いやすいはずだ。
「それにこういった洞窟のほうが罠を隠しやすいからな。あらゆる場所に罠が仕掛けられていると考えるべきだろう。」
ええ、そうですね。
「とはいえ、人通りを完全に封じているわけではないはずだからな。一部の人間が必要に応じて通行できるように罠の解除装置もどこかにあるはずだ。」
ああ、そうか。
何代か前の国王は宝物庫にたどり着いたという話を聞いたことがあるからね。
師匠の推測は正しいはずだ。
だけど後方で待機して話を聞いていた渚には別の意見があるようだった。
「罠を全て破壊した可能性もあるのではないでしょうか?」
ああ、うん。
まあ、ね。
絶対にないとは言い切れないと思うよ。
だけどそれだと別の問題が出てくるんじゃないかな?
「それはないだろう。」
師匠も否定的なようで、
渚の言葉を聞いて即座に首を左右に振っていた。
「仕掛けを破壊してしまっては修理するために人手が必要になる。だが宝物庫に無関係な人間を入れたくはないだろうし、部外者が入ったという話も聞いたことがない。かといって罠を破壊して、そのまま放置というのも現実的ではないだろう。」
そう、そこだ。
僕もそう思うからこそ罠を破壊しているとは思えなかったんだ。
「…だとしたら、どうすれば罠を解除できるのでしょうか?」
(うーん…。)
そこが問題なんだけど。
残念なことに罠の解除方法は分からないんだ。
「武尊は何か言っていなかったか?」
「いえ…。」
師匠に尋ねられたけれど、内部の様子は父上も知らないんだ。
「父上もご存じではないようです。先代の国王がどうやって宝物庫にたどり着いたのかは記録も残っていないそうです。」
「…そうか。そうなるとやはり直接中に入って確かめるしかないようだな。」
ええ、そうですね。
「あまり時間もありませんし、誰かが気づく前に出発しましょう。」
まずは洞窟の内部に入り込む。
そして扉の内側から鍵をかけなおして先に進むことにした。
…だけど。
洞窟に踏み入ってから10分と立たないうちに、僕達は第1の仕掛けに手間取ることになってしまったんだ。
(…これが最初の罠なのか。)
僕も実際に目にするのは初めてだけど、
そういうものがあるという噂は以前から聞いてはいた。
「傀儡兵か…。面倒なものを用意したものだな。」
ええ、そうですね。
封印された洞窟の中にまともな戦力がいるとは思っていなかったものの。
ここにいるのは人でも動物でもないカラクリ仕掛けの番人だったんだ。
「死を恐れぬ人形か。これはやっかいだな。」
向かい来る傀儡兵を太刀で切り倒す師匠が小さな声で呟く。
「ざっと100体…。こいつは手強いどころの騒ぎではないぞ。」
…確かに。
師匠でさえ苦戦する相手となると、僕は防衛に回るべきかもしれない。
「唯!渚!大丈夫か!?」
傀儡兵の接近を妨害しながら背後の二人に呼びかける。
「無理をせずに後方で待機しておくんだ!」
「わ、私なら大丈夫です、お兄様っ。」
「あ、あの…傀儡兵って何ですか?」
「あれは陰陽師が扱う式神と同じようなもので、何らかの仕掛けで動く人形のことよ。」
初めて見る存在に戸惑う様子の渚に唯は落ち着いて答えていた。
「単純に考えれば操る元を断てば動きを止められるんだけど…。普通の人間が何百年も侵入者を阻むために傀儡兵を操るなんて出来るわけがないから、おそらく傀儡兵を操る存在そのものが罠の可能性が高いのかも。」
「…どういうことですか?」
「要するに何らかの仕掛けがあるために、傀儡兵が存在し続けていられると言うことであろう。」
質問を続ける渚に、今度は師匠が答えていた。
「その仕掛けが何か分かれば、傀儡兵の動きを止められるということだ。」
「で、では…その仕掛けはどこにあるのでしょうか?」
(…さあ?どこだろうね。)
それが分かれば苦労はしないんだけど、
可能性として思い浮かぶことはある。
「この通路は国王だけは通ることが許されている。だとすると傀儡兵は国王とそうでない者をどうやって判断しているんだろうか?それが第1の罠の答えかもしれないね。」
「国王だけが通れる…?」
「つまり、代々国王に受け継がれる『法王の印』が鍵なのかもしれない。」
「あ~なるほど。」
「もしも法王の印を持っていれば傀儡兵が襲ってこないのでしょうか?」
唯も渚も納得してくれたようなんだけど、
残念なことに肝心の法王の印がないんだよね。
「…ふむ。仮に法王の印が答えであればここにはそれがない。結果、傀儡兵を止める術はないということになるな。」
「あぅ…。」
唯の期待もむなしく、
師匠はあっさりと罠の解除を断念していた。
「あまり気が進まぬが、ここは強引に押し通るしかないだろう。」
結局は強行突破しか方法がないということだ。
まあ、仕方がないね。
罠の解除が出来ないのなら、自力で進むしかないんだ。
「とにかく今は宝物庫へ急ぎましょう!」
「うむ。」
「「はいっ!!」」
僕の言葉に頷いてから、師匠達も先を急ぐために全力で走り出した。




