呼び出し
唯が去ってからしばらくすると、
再び『コンコン』と扉を叩く音が聞こえてきた。
(…ん?)
誰だろうか?
たぶん唯ではないはずだ。
さすがに帰ったばかりの唯が戻ってくるとは思えない。
「どうぞ。入っていいですよ。」
「は、はい。失礼いたします。」
扉の向こうにいる誰かに声をかけてみると見覚えのある侍女が室内に入ってきた。
(…うーん。)
名前は何だったかな?
普段あまり関わらないから名前までは憶えていないんだけど母上の付き人として見かけることは何度もある。
「どうかしたのかい?」
「あ、はい。お邪魔して申し訳ありません。今、お時間はよろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だよ。謹慎中で時間だけは沢山あるからね。」
「そ、そうですか…。」
(………。)
「………。」
(………。)
お互いに言葉が繋げられなくなって困ってしまった。
言葉を間違えたかな?
彼女は良くも悪くも中立という立場のようで、
僕を邪険に扱わないけれど母上や兄上の反感を買わないためにどちらに対しても距離を置いているという雰囲気があるんだ。
それでもはっきりとした対立の感情を見せないだけでも僕としては話しやすい存在だとは思ってる。
「えっと、それで僕に何の用なのかな?」
「あ、は、は、はい…っ。そ、その…国王陛下の古くからのご友人がご挨拶に来られたというお話でして、皆様のごあいさつを兼ねて謁見の間に集まるようにとの伝言をお預かりいたしました。」
(…ん?父上の友人?)
僕の父上は国王だ。
当然、知り合いは数多くいるだろうし、友人と呼べる人が沢山いるのも知っている。
それでもあえて挨拶をするということは、僕は初めて会う人なのかな?
それも古くからの友人だとすると僕が生まれる以前からの付き合いがあるのかもしれない。
それなのに今まで一度も会ったことがないとなると、
10年以上も再会していなかったということだろうか?
(…どんな人なんだろう?)
興味がわくと同時に家族総出での挨拶には不安も感じてしまう。
(…はぁ。)
全員が集まるとなると間違いなく兄上もくるだろうからね。
当然、母上も挨拶に訪れるはずだ。
そうなれば必然的に二人とも顔を合わせなければいけなくなる。
(…ついさっき怒られたばかりなのに、もう一度睨まれるのはさすがに辛いな。)
だからと言って面会を断れば、僕の態度が悪いと呟かれるのが目に見えている。
そうなると行っても行かなくても邪魔者扱いには変わらないんだ。
だとすれば嫌な思いをするのは早いほうが良い。
あとになって延々とお説教をされるよりは、その場で蔑ろにされるほうがまだ気が楽だからね。
(…仕方がない。)
とりあえず行こうかな。
出来ることならこのまま自室に引きこもっていたいけれど、話を聞いてしまった以上は逃げることは出来ないんだ。
それに父上の面目を潰すような真似はできない。
「分かった。すぐに行くよ。」
「はい。お願いします。」
伝言を伝え終えた侍女は、僕から逃げるかのように足早に去って行ってしまった。