協力の条件
30分後。
僕の部屋に戻ってきた唯と渚の3人で待っていると、葉漸師匠が来てくれた。
「待たせたな、涼よ。」
「いえ。」
葉漸師匠は僕の剣術の師匠を務める人物で、すでに60を超える年齢なのに国中で1、2を争うほどの達人と呼ばれている。
それほどの人物なのに師匠は呼び出されたことに対して不満なんて感じていない様子で、いつものように笑顔を浮かべながら接してくれていた。
「緊急の用件と聞いたが?」
「わざわざお呼びしてすみません。」
「ははっ。わびる必要はない。礼儀を重んじるお前が自ら動かずに、わしを呼び寄せたということはよほど重要な要件があるのだろう。」
「…はい。」
「うむ。まずは話を聞かせてもらおうか。」
僕の真剣な表情を見たからか、師匠の表情から穏やかさが消えていく。
(…師匠はどう思うかな?)
場合によっては怒られる可能性もある。
そうなると困ったことになるんだけど、
個人的な事情で協力を願うからには正直に相談しようと思う。
「あまり大きな声では言えないのですが、地下宝物庫へ行きたいのです。」
「ほう。あの場所に…か。目的は何だ?」
「秘宝『原始の瞳』を回収するためです。」
「…ふむ。」
師匠は僅かに考え込むそぶりを見せている。
やっぱり反対されてしまうんだろうか。
「涼よ。」
「…はい。」
「お前の今の立場は、すでに武尊から聞いておる。兄である仁に謹慎処分を受けているそうだな。」
「…ええ、そうです。」
「なにやら神のお告げを聞いたとか?」
(………。)
「わしには難しいことはわからんが、お前が望むのならば喜んで手を貸そう。」
「あ、ありがとうございます!」
「…だがな。一つだけ条件がある。」
(…え?条件?)
師匠に協力してもらえると思って喜んだのに、条件があると言われてしまったんだ。
「…その条件とは何でしょうか?」
「武尊を悲しませるようなことはするな。これからお前にどんな運命が待ち受けていようとも、最後まであいつを支えてやってほしい。これはあいつの親友としての願いでもある。」
(…はい。もちろんです。)
僕としても最初からそのつもりでいるんだ。
「僕も父上の支えとして力になりたいと思っています。」
「うむ。それならばよい。先のことはわからんが、本当に化け物どもが現れるようであれば十分な準備は必要だろうからな。持ち出し禁止の秘宝とはいえ、それが物である以上は使うべきときに使わねば価値がないだろう。」
ええ、僕もそう思います。
「何も起こらなければ一番だが、何も起こらないことを期待して準備もしないのは愚かなことだ。出来ることを全て整えておくことが勝利への近道だからな。最悪の事態を考えれば秘宝も必要かも知れん。だが、地下宝物庫へ向かう扉は厳重に封印されていて簡単には破れまい?」
「はい。だから扉を開く鍵は父上に話して直接貸してもらうつもりでいます。」
「うむ。下手に策を弄するよりも、そのほうがいいだろう。あいつを騙すようなことはしたくない。素直に協力を仰ぐのが賢い選択だ。」
「ええ、父上も分かってくれると思いますので。」
「そうだな。わしもそう思う。ならば残る問題は宝物庫までの道のりだな。」
そう。
噂では数多くの仕掛けを越えなければいけないと聞いているんだ。
「わしもそうだが、武尊も地下宝物庫へは行ったことがないからな。先代の国王は興味本位で向かったことがあるらしいが、現状では内部の詳しい状況は不明だな。」
「…ですよね。」
師匠の言葉を肯定するかのように、唯も同意していた。
「私も伝え聞いた話しか知りませんけど、現時点で分かっているのは4種類の結界が侵入者を阻むということくらいでしょうか。」
「うむ。わしもそう聞いている。」
唯の情報を否定せずに、師匠は小さくため息を吐いていた。
「問題はその結界にたどり着くまでにどの程度の罠が仕掛けられているかなのだが…情報がない以上は実際に入ってみるしかあるまい。」
ええ、そうですね。
「それで宝物庫へはいつ向かうつもりだ?」
「一応、深夜零時から翌朝5時までの5時間を予定しています。」
「ふむ。その5時間で無事終えられればいいのだが…。」
師匠は少し不安を感じる様子で早々に席を立った。
「ひとまず時間までに準備を整えておこう。」
「あ、はい。お願いします。」
「うむ。また後でな。」
戦闘の準備を整えるために、師匠は部屋を出て行った。
そして師匠が部屋を出てからすぐに渚も立ち上がる。
「それでは唯様、涼様。私も準備を整えてまいります。」
「ええ、お願いね。」
「個人的な事情に巻きこんでごめん。」
「いえいえ。私を呼んでいただけたことを嬉しく思っておりますので気にしないでください。」
僕や唯と仲が良いからだろうか。
渚は嫌な顔一つ見せずに笑顔で部屋を出て行った。
「…ふぅ。これでもう後には引けないね。」
「ええ、そうですね。」
みんなを巻き込んでしまうのは申し訳ないけれど、
何もしないでただ待っているわけにはいかないんだ。
「唯も頼りにしてるよ。」
「はいっ。お兄様のお役に立てるように頑張らせていただきます!」
「ははっ。ありがとう。それじゃあ、僕は父上の所に行ってくるから唯も準備をしておいてね。」
「はい。任せてください。」
師匠と渚の二人に協力を求めたことで、
僕達も宝物庫に向かうために準備を始めることにした。




