龍脈の流れ
《サイド:御神涼》
すでに日が沈んで夜が訪れた時間帯に、妙な胸騒ぎを感じて窓の外に視線を向けてしまった。
(…この感じは何だ?)
上手く言葉には出来ないけれど、
身体が何らかの危機を感じ取っている。
(…空気が乱れてるのか?)
まるでどこか一か所に流れ込んでいるかのような。
不自然な風の流れを感じるんだ。
「お兄様?」
窓辺に佇む僕に唯が話しかけてきた。
「真剣な表情で外を眺めて…どうかされたのですか?」
(………。)
どう答えるのが正しいのだろうか?
自分でもわからないものの。
妙な胸騒ぎだけはどうしても抑えられない。
「何だか嫌な予感がするんだ。とても大変なことが起こりそうな予感がする。」
「それは夢と何か関係が…?」
確証はないけれれど、おそらくそうだろうね。
「たぶんそうだと思う。」
「一体、何が起きているのでしょうか?」
わからない。
…だけど。
「全てを知る鍵は…あの空の下に広がる六詠山にあるはずだ。」
「調べに行かれるのですか?」
…いや。
「今は無理だよ。」
謹慎中の身分だからね。
勝手に外出するわけにはいかない。
「だけど、一刻も早くあの場所へ行かなければいけない気がするんだ。」
「…あの場所に何があるのでしょうか?お兄様の夢の通りだとすると一振りの剣…ですよね?」
ああ、たぶんね。
神のお告げか、ただの夢かは分からないけれど。
六詠山には何かがあるはずだ。
「どちらにしても今はまだ調べようがないけれど…。」
「私が仁お兄様を説得してみましょうか?元々、お兄様には謹慎処分を受ける理由なんてないはずですから。」
…いや。
それは止めておいたほうが良いと思う。
下手に話がこじれると今よりも扱いが悪化する可能性があるからだ。
「今は大人しく兄上に従うよ。それに…他にもまだやらなければならないことがあるからね。」
「やらなければならないこと?」
ああ、そうだよ。
「仮に夢が現実だとして、国中に化け物があふれかえったとしたら?」
王都はそうそう簡単に落ちないだろうけれど。
周辺の町や村が壊滅的な打撃を受けるのは避けようがないはずだ。
「どうすれば良いのですか?」
「どう考えたって僕一人でこの国を守るなんて不可能だ。だけど、この城にあるアレを使えば…。」
「それは『陽炎』ですか?」
それもあるね。
だけど陽炎だけでは足りないと思ってる。
「出来るならもう一つの…。」
「…っ!?だ、駄目ですっ!『原始の瞳』は封印された禁断の秘宝です!アレを持ち出すなんて、それこそ投獄されてしまいます!!」
かもしれないね。
だけどそれでも良いんだ。
「僕の身一つで国が守れるなら安いものだよ。」
必死に引き留めてくれる唯の頭にそっと手を置いて囁く。
だけど唯は納得できない様子だった。
「だ、ダメですっ!お兄様が投獄されるなんて私は嫌です!」
(…唯。)
唯の気持ちは嬉しいけれど、
僕には僕の役目があるんだ。
「僕はね…。父さんと母さんが愛したこの国を守りたいんだよ。」
そのためならどんな汚名だって喜んで受け入れる。
「今は城を出ることが出来ない。だったら、いっそのこと…。」
「お父様以外は…仁お兄様でさえも地下宝物庫に入ることは出来ないはずです。」
分かってる。
だから強引に入るしかないんだ。
「押し通るよ。それ以外に方法はないからね。」
「………。止めても聞いていただけないのですね?」
(…ごめん。)
唯を困らせるつもりはないんだけど、
今回だけは引き下がるわけにはいかないんだ。
「上手く説明できないけれど…感じるんだよ。」
王家の血とか、神のお告げとか、そんなこととは無関係に。
「不動さんや杞憂さんに陰陽師として育ててもらったおかげで龍脈の乱れを感じるんだ。それは…唯も同じはずだよね?」
「…はい。確かに私も龍脈の流れが乱れているのは感じています。今まで感じたことがないほど大きな乱れです。それでも…それでも私はお兄様と一緒にいられるなら、この国がどうなったとしても…。」
(…ダメだ。)
「唯。その先を言ってはいけない。」
王家の人間として生まれた以上やらなければならない義務があるんだ。
それを放棄してしまっては、それこそ兄上に…ひいては父上に申し訳が立たない。
「僕達の命よりも、この国の安定が優先なんだよ。」
「………。」
唯は口を閉ざしてしまったけれど、
僕の言いたいことは理解してくれたはずだ。
「日付が変わったら地下宝物庫に忍び込む。」
何も起きなければそれが一番だけど、もしもの場合に備えることのほうが大事だからね。
「今夜中に原始の瞳を手に入れるよ。」
元々、地下迷宮は誰も近づかない場所だ。
だから秘宝が持ち出されても誰も気づかないはず。
「全てが終わってから元に戻せばいい。陽炎は…必要の時が来たら保管庫から持ち出すことにしよう。」
「………。もしも地下宝物庫に忍び込んだことが見つかれば、お兄様は投獄されてしまいます。」
だから見つからないようにするしかないんだ。
「これだけ龍脈が乱れているということは数日中に何か起こるはず。」
もう猶予はない。
「誰かがやらなければ全てを失うことになるかもしれないんだよ。」
「………。…わかりました。だったら私もお手伝いします。」
い、いや、それはダメだ。
「手伝うといっても…。」
「私も行ったことはありませんが地下宝物庫に向かうことの難しさは、お父様からよく聞いています。お兄様一人では危険すぎますし、なにより宝物庫を守る結界を抜けるには最低でも4人はいないと…。」
ああ、そうだったね。
「どうしても人手がいるのか…。」
「渚を呼びましょうか?」
渚か。
彼女なら問題はないだろうね。
「渚なら信頼できるし実力もある。もう一人は…あの方しかいないかな。」
「あの方?」
「葉漸師匠だよ。あの方なら力になってくれるはずだ。」
「あっ、そうですね。それではさっそく二人を呼んで来ます。」
「ああ、頼むよ。」
あまり目立った行動をとれない僕の代わりに、
唯が二人を呼びに行ってくれたんだ。




