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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
1日目
42/499

その前に

六詠山を離れた私と八雲は無事に王都まで戻ってくることが出来た。


そしてまっすぐに命神宮に帰ってきたのだが、

気が付けばもう日が沈んで夜になってしまっていた。



(…ふう。やはりあの山は遠かったな。)



あまり目立たないようにするために徒歩で向かったのも原因だったとは思うが、

王都と六詠山は片道だけでも3時間ほどかかっていたのではないだろうか?



馬車の確保…とまではいかなくとも、

次からは移動用の馬を用意したほうが良いかもしれない。


そうすれば移動時間は1時間もかからないだろう。



問題はどこで馬を調達するかだが、

そもそも乗馬の訓練などしたことがないからな。


上手く馬を確保できたとしても乗りこなせる自信はない。


それに運よく馬に乗れたとしても六詠山の内部には連れて行けないからな。


六詠山の麓で置いていくことを考えると、

魍魎に襲われて馬が死ぬ可能性も十分にありえる。



(…そうなると片道だけ馬車を雇うのが最善か?)



六詠山の近辺まで連れて行ってもらって早々に撤退してもらえば危険は少ない。


そのうえ馬の管理を考える必要もないからな。


帰りはともかく、行きだけでも時間を短縮できれば今日よりも多くの時間を確保することが出来るだろう。



(…明日からはそうするか。)



ひとまず命神宮まで戻ってきたことで誰にも見つからないうちにこっそりと自分達の部屋に戻ることにしたのだが。



「待ちなさい。」



(…っ!?)



背後から呼び止められたことに驚いて体を振るわせてしまった。



(こ、この声は…。)



ゆっくりと振り返ってみると、そこには予想通り最も苦手とする人物がいた。



「…き、恭子きょうこ様。」


「ねえ?二人とも今日は一体どこで何をしていたの?」


「そっ、それは…。まあ、あれだよな…。」


「あ、ああ…。王都の外の見回りをしていたのだ。」



八雲が正直に話してしまう前に話に割り込んで答える。



「たまには自分達で地理を確認しておかなければ、いざという時に対応できないからな。」


「………。」



恭子は何も言わずに睨みつけてくる。


その瞳を見るだけで言葉に出来ない恐怖を感じてしまうほどだ。



(…どうも苦手だな。)



嫌いというほどではないが、

扱いに困る感じだろうか。


比較的、人付き合いの良い八雲でさえ対応に困るほどの人物だからだ。



「お、怒ってるのか?」


「………。」



八雲が恐る恐る尋ねたことで、恭子様は深々とため息を吐いていた。



「はぁ。今更怒っても仕方がないわ。そもそも何を言っても聞かないでしょうしね。」


「ぅ…。」



八雲が言葉を詰まらせているが、その気持ちは俺も同じだ。


恭子様に対してだけはどう接すればいいのかが分からない。



「…申し訳ない。」


「もう、いいわ。」



恭子様は呆れ顔で追及を諦めて、別の話題に切り替えてくれた。



「私はともかく、お父様が呼んでるわよ。」



杞憂様が呼んでいる?


何の用だろうか?



「また説教か?」



まあ、無断で外出したわけだからな。


そうだとしても文句は言えないだろう。



「それが嫌なら大人しく言うことを聞いておけば良いのに。」



(………。)



「………。」



俺も八雲も反論できなかった。


実際問題として報告してから出かければ良かったのだ。



だが今回は場所が場所だからな。


正直に話していたら、外出の許可は出なかったと思っている。



「重ね重ね申し訳ない。」


「反省してるのなら良いわ。それにこうして無事に帰ってきてくれたわけだしね。私としてはそれだけで十分よ。」



(…ふぅ。)



素直に謝ったのが良かったのだろうか。


恭子様の機嫌が良くなったのが感じられた。



「だ・か・ら・あとはお父様に任せるわ。」



(………。)



どうやら完全に許してもらえたわけではなかったようだ。



「まあ、仕方ねえな。」



八雲も言い争うのは無意味だと判断したのだろう。


冷や汗を流しながらため息を吐いている。



「さっさと行くか。」



ああ、そうだな。


落ち込んでも仕方がない。


呼び出しを受けた以上は、どんなお叱りも受け入れるつもりで歩き出そうとしたのだが。



「ああ、その前に…。」


「…ん?何だ?」



まだ何か用なのだろうか?


八雲と共に立ち止まると、恭子様が質問してきた。



「お弁当はどうだった?」



ああ、そのことか。



「もちろん美味かったぞ。」


「いつもながら素晴らしい腕前でした。」


「ふふん。それなら良いのよ。」



どうやら満足してもらえたようだ。


恭子様がようやく微笑んでくれた。



(…いつもこうなら良いのだが。)



機嫌を直してもらえたことで張りつめていた緊張がほぐれたあとに恭子様は立ち去ってくれた。





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