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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
プロローグ
4/499

御神唯

不意に『コンコン』と扉を叩く音が聞こえてきた。



(…来客か。)



何気なく扉に振り向いてみるけれど、扉が開かれる様子はない。


まあ、誰が来たのかは分かりきっているけどね。



「唯かい?鍵なら開いてるよ。」


「あ、はい。お兄様…おはようございます。」



やっぱり義妹の唯だった。



扉を開けて室内に入ってきた唯は、

そっと扉を閉じてからパタパタと駆け足で近づいてくる。



(…ははっ。今日も元気そうだね。)



「おはよう、唯。今日も可愛いね。」


「ぃ、ぃぇ…。そんな…っ。あぅぅ…。」



挨拶代わりに微笑んだだけなんだけど、

唯は恥ずかしそうにうつむいてしまったんだ。



(…そこが可愛いんだけどね。)



何度見ても可愛いらしい仕草だと思う。


唯はまだ8歳だから少女と言える年齢なんだけど。


たった一人の王女としてしっかりと着飾られていることもあって国内で1、2を争うほどの美少女として成長しつつあった。



「やっぱり唯は可愛いね。」


「はぅぅ~。か…からかわないでくださいっ。」



(…はははっ。)



からかっているわけじゃないんだけどね。


それでも唯はまだまだ褒められるのには慣れていないようで顔を赤く染めてしまっている。



「本気で言っているんだよ。」


「あ、あうぅ~…。」



余計に照れてしまったのかな。


唯は顔を赤くしながら歩み寄ってくる。



その目的は大体察しがついている。


おそらく僕と話したいことがあるからだ。



「あ、あの…。お兄様…。」



(………。)



「お母様のこと…怒らないであげてください。」



(…ああ、大丈夫だよ。)



唯が目に涙をためながら訴えてくるけれど。


僕としては不満なんて口にする気はないんだ。



「気にしなくても良いよ。最初から怒ってなんていないからね。」


「…本当ですか?」



もちろん本当だ。



「兄上にも母上にも迷惑をかけているのは事実だからね。何を言われても仕方がないんだよ。」


「そ、そんな…っ!」



唯の目に浮かんだ涙のしずくが頬を伝わってこぼれ落ちるのが見えた。



「稽古を抜けたのは、私を守るためにしたことなのに…っ。」



(………。)



涙を流しながら唯がしがみついてくる。



「私のせいなのに…っ。」


「いや…。唯のせいじゃないよ。」


「で、でもっ!」


「たまたま運が悪かったんだ。」



2週間ほど前に唯は風邪をこじらせて倒れた。


だけど困ったことにその時に限って主治医が故郷に帰っていたたせいで必要な薬剤がそろえられなかったんだ。



とは言え王族の診察は許可を得た医師にしか出来ない。


それも診察相手が幼くても王女となればなおさらだ。


実力の有無に関係なく、

信頼できる人物にしか委ねることは出来ない。


そのせいで誰も何も出来ずに手をこまねいていたんだ。



そんな状況を見かねた僕は城を出て必要な薬剤を集めて揃えたんだけど。


外出したことで全ての予定が潰れてしまって作法の稽古を行うことが出来なくなってしまった。



それが原因で怒られたのは事実なんだけど、もちろん後悔はしてない。


どちらかと言えば病気で苦しんでいる妹を放置するほうが問題だと思うからね。



「結果的に王子としての責任を放棄したのは事実だから怒られるのは仕方ないよ。それに怒られるくらいは大したことじゃない。唯が元気になってくれればそれで良いんだからね。」


「…お兄様。」


「この話はもうやめよう。しばらく大人しくしていればこれ以上揉めることはないはずだから。」


「…はい。分かりました。」



自分のせいでと思う気持ちがあるせいで素直に納得できない様子の唯だけど、

それでも僕を困らせないために大人しく引き下がることにしてくれたようだ。



「…もう何も言いません。」



(…ははっ。)



そんなふうに落ち込む必要はないんだよ。



「それより唯はまだ病み上がりなんだから自室に戻って休んだほうが良いんじゃないか?」


「あ、いえ…。今はもう大丈夫ですから…。」



そうかな?


まあ、唯が大丈夫なら良いんだけどね。



「大丈夫ならいいんだけど、唯に何かあったらまた何か言われてしまいそうだからね。僕としてはもう少し休んでいてほしいかな。」


「あ、ぅ…。そ、そうですよね。す、すみません…。」



(…あ、いや。)



ちょっと言い方が悪かったかな。



「別に唯を責めてるわけじゃないよ?可愛い妹のためなら何を言われても良いけど、僕と一緒にいると唯まで怒られてしまいそうだからね。」


「わっ、私なら別に…っ。」



一緒に怒られるのは構わないと考えてくれる唯だけど。


実際には唯ではなくて僕だけが怒られることになるだろうね。


そのことが分かっている唯としては、もうこれ以上のわがままは言えないはずだ。



「えっと、その…。今日はお部屋に戻って休みますね…。」


「ああ、そのほうが良いよ。おやすみ、唯。」


「あ、はい。おやすみなさいです。お兄様。」



唯を休ませるために笑顔で見送ったことで、

唯は照れくさそうな表情で退出していった。



その後で僕はまた自室で一人きりになってしまったんだけど。


30分も経たないうちに新たな来客が訪れることになったんだ。




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