朝倉渚
《サイド:御神涼》
『コンコン』と扉を叩く音が聞こえてきた。
また誰か来たのかな?
唯はここにいるから他の誰かなのは間違いない。
「どうぞ。」
「失礼します。唯様…やはりここでしたか。」
(…ああ、渚だったか。)
一人の女性が静かに入室してきた。
彼女の名前は朝倉渚。
一応、香澄様の娘になるんだけど、血の繋がりはないから他人ともいえる。
孤児として教会に捨てられていた渚を香澄様が拾って養女として迎えたことで親子関係になったんだけど、7年前に香澄様が唯の教育係を務めていた頃からの知り合いになるんだ。
彼女が侍女になったのは3年ほど前だけどね。
以前から知り合いだったこともあって唯直属の侍女として働くようになったんだ。
もちろん香澄様の教育のおかげで僕に対しても友好的な人物でもある。
「涼様、唯様、ご昼食の準備ができました。」
「ありがとう渚。悪いんだけど…。」
「ええ。」
唯が話し終えるよりも早く、渚は頭を下げた。
「心得ております。昼食のほうはすでに用意しておりますので。」
指示を出すまでもなく、渚は部屋の中に食事を運んでくれた。
そしてテキパキとそつなく働いてテーブルの上に料理を並べていったんだ。
「相変わらず手際が良いね。」
「い、いえ。」
渚は照れて俯いてしまったけれど。
本当に渚は優秀だと思う。
唯の伝えたかったことを前もって判断したうえで十分な準備を整えてくれるからだ。
もちろんこれらは僕に対するはからいでもある。
国王である父上だけであれば問題はないんだけど。
母上と兄上の二人と食事の席を共にするのは、それだけでも重苦しい雰囲気を生むからね。
場合によっては、食事の間中、二人の小言を聞かされることになると思う。
そういう事態を避けるには、食事の席を共にしない以外に方法はないんだ。
まあ、唯としては食事の席に出ないわけにはいかないはずだけどね。
僕を一人にすることに対して気が引けるのか、僕が城の中で食事をとるときには必ず傍にいるように心がけてくれている。
その理由は義務や責任ではなくて一人の女性として一緒にいたいという気持ちのほうが大きいのかもしれないけれど。
僕としては唯の気持ちに応えられる立場じゃないんだ。
「ご用意できました。それでは失礼いたします。」
準備を終えた渚が部屋を出て行く。
その様子を見送ってから唯と向き合うことにした。
「それじゃあ、いただこうか。」
「はい!そうしましょう。」
唯に声をかけてから、僕達は席について食事を始めることにしたんだ。




