受け入れられない想い
謁見の間を出た僕は素直に自室に戻ることにした。
そうして少し考え事をしようとしたところで、扉を叩く音が聞こえてきた。
「あ、あの、お兄様?」
(…ん?…ああ。)
この声は唯だね。
「遠慮せずに入っていいよ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
律儀にお礼を言ってくれる唯を室内に招くために扉を開けると、唯は少し悩んでいるかのような表情を浮かべていた。
「どうかしたのかい?」
「あ、いえ…。そういうわけではないんですけど…。」
どうかしたのだろうか?
いつもなら明るい笑顔を見せてくれるのに、今は落ち込んでいるように見える。
「何か困ったことでもあったのかい?」
「い、いえっ。そうじゃなくて、あの、その…。仁お兄様のことなんですけど…。」
ああ、そういうことか。
どうやら唯は謁見の間での出来事を気にしているらしい。
「唯は気にしなくていいんだよ。」
王子としての責任を放棄したことは事実だからね。
それに謹慎処分くらい大したことじゃない。
「まあ、本当なら今すぐにでも城を出て光の原因を調べたいところだけど…。」
「今朝、話してくれた夢のことですか?」
「ああ。兄上には笑われてしまったけどね。」
「仁お兄様は…お兄様のことを嫌っているから…。」
ああ、わかっているよ。
極論するなら僕が王子の座を捨ててここを出て行けば全て納まることなんだ。
だけど僕にはそれだけの勇気がなかった。
誰よりも母を愛してくれて、僕を愛してくれている父上を置いてこの城を出て行くことができなかったんだ。
「王子の地位に未練なんてないし、拘留される位かまわない。それでも…たった一人の家族を失ってしまうことは怖いんだよ。」
「そ、そんな…っ。一人じゃ…ないです。お父様だけじゃないです。私だって…お兄様を愛していますから。」
(…ありがとう。)
「そう言ってくれるだけで十分だよ。」
唯は変わらない。
幼かったあの頃から一度も態度を変えることがなかったんだ。
(…それだけで十分なんだ。)
僕を避けずに接してくれる。
ただそれだけのことがすごく嬉しかった。
「唯は優しいね。」
「い、いえ。本当に優しいのはお兄様です。だから私は…お兄様のことを…。」
(………。)
真剣に僕を見つめてくれる唯だけど。
僕には瞳をそらすことしかできない。
「…お兄様?」
(…ごめん、唯。)
「時がくれば…僕はここを出て行くことになるんだ。」
「お兄様…っ。」
唯が涙を流してしまう。
こうなることが分かっているのに、嘘を吐くことは出来なかったんだ。
「いつまでもここにいることは出来ない。それは唯も同じだ…。」
唯は妹であり、この国の王女だ。
いずれどこかに嫁ぐことになるし、
僕もここから追い出される日が来ることになる。
(…僕が苦労するのは構わない。)
だけど唯には幸せになって欲しいと思うんだ。
「きっと唯にはもっと素敵な人が見つかるよ。」
「そんな…人なんて…っ。」
見つからないと言いたいのだろうか?
それでも自らの立場をちゃんと理解している唯は、
わがままを言わずに僕の背中にしがみ付きながら泣き続けていた。




